白居易　雨夜憶元九詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩 BaiJuyi 白楽天

                     　       　　
     雨夜憶元九
　　　　　　　　　　　　　　
      　　　　　　　　　　　　白居易　

天陰一日便堪愁，
何況連宵雨不休。
一種雨中君最苦，
偏梁閣道向通州。

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　　雨夜　元九を憶ふ 　

天　陰（くも）ること　一日ならば　　便（すなは）ち　愁（うれ）ふるに堪（た）へたり，
何ぞ況（いは）んや　連宵　　雨　休まざるをや。
一種　雨中　　君　最も苦まん，
偏梁の閣道　　通州に　向ふ。

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◎　私感註釈

※白居易：中唐の詩人。７７２年（大暦七年）～８４６年（會昌六年）。字は楽天。号は香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。平易通俗の詩風といわれるが、詩歌史上、積極的な活動を展開する。晩年仏教に帰依する。

※雨夜憶元九：雨の夜に親友の元を思い偲ぶ。　・元九：白居易の親友である元のこと。「九」は排行。

※天陰一日便堪愁：空の曇るのが一日だけなら、容易（たやす）く愁えるのを我慢もできようが。　・陰：曇る。曇天。蛇足になるが、現代でも使う表現。　・便：するとすぐに。すぐに。たやすく。すなわち。蛇足になるが、現代に到るまで使われている語。　・堪：たえる。我慢できる。　・愁：悲しくなる。愁う。

※何況連宵雨不休：ましてや連夜、雨が止まないことにおいてはなおさらである。　・何況：まして……においては、なおさらである。　・況：ましてや。いはんや…をや。　・連宵：連夜。「連夜」としないのは、「連宵」は○○で、「連夜」は○●であって「●●」とすべきところで使う。　・休：やむ。

※一種雨中君最苦：同じ雨の中でも、あなたの場合は、最も辛いものになっているだろう。　・一種：同じ。同一の。後世、両宋・李清照の『一翦梅』に「紅藕香殘玉簟秋。輕解羅裳，獨上蘭舟。雲中誰寄錦書來，雁字回時，月滿西樓。　　花自飄零水自流。一種相思，兩處閑愁。此情無計可消除，才下眉頭，却上心頭。」と使う。　・君：元を指す。　・最苦：一番苦しむ。後出の同様に白居易の作になる『竹枝』と同じく「前聲斷咽後聲遲。怪來調苦縁詞苦，多是通州司馬詩。」と親友からくる親しさの表現として、元の置かれている状況を「大変だねぇ」と言う。

※偏梁閣道向通州：辺鄙な梁州の嶮しい崖から崖へわたした架け橋や桟道を（通って、任地の）通州へ向かったのだから。　・偏：辺鄙な。かたよった。晉・陶潛に『飮酒二十首・其五』「結廬在人境，而無車馬喧。問君何能爾，心遠地自偏。采菊東籬下，悠然見南山。山氣日夕佳，飛鳥相與還。此中有眞意，欲辨已忘言。」、白居易に『香鑪峰下新置草堂即事詠懷題於石上』で、「香鑪峯北面，遺愛寺西偏。白石何鑿鑿，淸流亦潺潺。有松數十株，有竹千餘竿。松張翠傘蓋，竹倚青琅。其下無人居，惜哉多歳年。有時聚猿鳥，終日空風煙。時有沈冥子，姓白字樂天。平生無所好，見此心依然。如獲終老地，忽乎不知還。架巖結茅宇，壑開茶園。何以洗我耳，屋頭飛落泉。何以淨我眼，砌下生白蓮。左手攜一壺，右手挈五弦。傲然意自足，箕踞於其間。興酣仰天歌，歌中聊寄言。言我本野夫，誤爲世網牽。時來昔捧日，老去今歸山。倦鳥得茂樹，涸魚返淸源。舍此欲焉往，人間多險艱。」がある。　・偏梁：辺鄙な梁州。通州に行く途上西よりのところ。梁州は『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）５２－５３ページの「山南西道」では、京城（長安：現・西安）の東南１００キロメートルのところで、都市（現・漢中市）でもあり、更に広域の地方名でもある。京城、梁州、通州の関係は、京城（現・西安）⇒（鳳州）⇒梁州⇒集州（現・南江）⇒巴州（現・巴中）⇒通州（現・四川達県市）。　・閣道：嶮しい崖から崖へわたした架け橋。山腹のきりたった崖などに沿って、木材で棚のように張り出して作った道。桟道。　・通州：現・四川達県市。元の左遷されてゆく任地。前出『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期「山南西道」では、通州は梁州同様都市名でもあり、そこを含む広域の地方名でもある。そこの通州司馬に任じられた。白居易の『竹枝』でも「江畔誰家唱竹枝，前聲斷咽後聲遲。怪來調苦縁詞苦，多是通州司馬詩。」とうたう。この「通州司馬」とは、元のこと。

◎　構成について

　韻式は「AAA」。韻脚は「愁休州」で、平水韻下平十一尤。平仄はこの作品のもの。

○○●●●○○，（韻）
○●○○●●○。（韻）
●●●○○●●，
○○●●●○○。（韻）