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子夜歌

                        南朝 無名氏


芳是香所爲,
冶容不敢當。
天不奪人願,
故使儂見郎。


   

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               子夜歌

「芳」は是れ  香の爲す所,
「冶容」は  敢えて當たらず。
天は 人の願ひを 奪はず,
故に  儂をして郎に見え使む。

             ******************





◎ 私感訳註:

※子夜歌:男女の愛情を題材とした南朝の民歌。楽府曲名で、「呉声歌曲」中の一首。現存は四十二首で、これはその第二首。五言形式で、愛情を題材とする。この詩は、女性側が男性側からの歌に対して答えた詩。男性側からの歌とは『子夜歌』一の「落日出前門,瞻矚見子度。冶容多姿鬢,芳香已盈路。」

※芳是香所爲:(女性側の返答のことばで)「かぐわしい」のは、香料のせいでありまして。 ・芳:かぐわしい。『子夜歌』一に「落日出前門,瞻矚見子度。冶容多姿鬢,
已盈路。」とあるのに答えている。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。「芳是香所爲」は、「芳 〔是〕 香〔所爲〕」と正確な構成。 ・香:香(こう)。香袋。匂い袋。現代風に謂えば、香水。 ・所爲:〔suo3wei2●○〕なせるところ。なすところ。日本語では、せい。蛇足になるが、「所爲」で〔suo3wei4●●〕と読めば、わけ、理由。ここは、前者の意で、なすところ。 ・所-:…するところ。…するとき。…すること。動詞の前に附き、動詞を名詞化する働きがある。

※冶容不敢當:「艶(なま)めかしい姿」とは、おそれいります。 ・冶容:〔やよう;ye3rong2●○〕艶(なま)めかしい姿や容貌。『子夜歌』一に「落日出前門,瞻矚見子度。
冶容多姿鬢,芳香已盈路。」とあるのに答えている。 不敢-:…しようとしない。はばかり、遠慮すること。あへて…せず。また、決して…しない。蛇足になるが、「敢不」は、「あへて…せざらんや」と読み下し、どうして…なかろうか、という反語。 ・不敢當:〔bu4gan3dang1●●○〕おそれいります。どういたしまして。ほめられた時や、もてなしを受けた時に用いる表現。蛇足になるが、この言葉、現代語でも挨拶言葉として生き残っている。

※天不奪人願:天の神様は、人の願いを奪うことなく(聞きとどけてくださり)。 *「天(S)・不奪(V)+人・願(O)」やや変わった節奏となっている。 ・願:ねがい。

※故使儂見郎:それゆえ、わたしをあなたさま(=男性)にあわせてくださったのです。 ・故:それゆえ。 ・使:…させる。…しむ。使役表現。 ・儂:〔nong2〕わたし。われ。古代呉語で、詩文に用いられる。「我」の俗語。 ・見:まみえる。 ・郎:男の方。殿御。





◎ 構成について

韻式は「AA」。韻脚は「當カ」で、平水韻下平七陽。次の平仄はこの作品のもの。

○●○●○,(韻)
●○●●○。(韻)
○●●○●,
●●○●○。(韻)

2012.7.25



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