呉嘉紀船中曲　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Wu Jiaji

船中曲
	清・呉嘉紀

儂是船中生，
郞是船中長。
同心苦亦甘，
弄篙復蕩槳。

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船中の曲

儂われは是これ　　船中せんちゅうに生まれ，
郎きみは是これ　　船中せんちゅうに長ちゃうず。
心を同おなじうすれば　　苦くも亦また甘かんにならん，
篙さをを弄ろうし　　復また槳かいを蕩こぐ。

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◎　私感註釈

※呉嘉紀：明末清初の塩民出身の詩人。１６１８年～１６８４年。字は賓賢。野人と号する。江蘇省泰州の人。少時は多病で、明朝末の諸生（儒生、学生）で、郷里に住んだ。清朝に仕えることはなく、生活に困窮していた。泰州の安豊の塩場で隠棲生活を送り、詩で民衆の生活を描いた詩を作る。

※船中曲：船を媒介として、夫婦の情愛を詠った。民謡調、竹枝詞風の作品。女性の身になって詠った。

※儂是船中生：わたし（＝女性）は船の中で生まれ。　・儂：〔どう、のう；nong2○〕人称代詞。詩詞では、あたし。わたし。われ。女性の自称。「我」の俗称。また、あなた。『呉方言詞典』（呉連生等著漢語大詞典出版1995年新華路200号）２８９ページには「１．我。清・翟灝《通俗編》卷十八：“《樂府》子夜等歌，用儂字特多，若‘郞來就儂喜，郞喚儂底爲’之類。案呉俗自稱我儂，指他人亦曰渠儂。……《…》註：‘呉人率自稱曰儂。同我。…。２．你。…」とあり、『簡明呉方言詞典』（閔家驥等著上海辞書出版社1986年上海）１７４ページには「［no?¹³］代詞。１．你。……。２．舊時蘇州等地中老年婦女稱“我”爲“儂”。…」とある。これらの呉方言辞典」の内容を要約すると「基本的には『わたし』の意であるが、『あなた』の意の場合もある」ということ。一般に詩詞では、あたい。あたし。わたし。われ、といった女性の自称。「我」の俗称とする。　・是：…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B：AはBである〕。

※郎是船中長：貴男（あなた）は船の中で大きくなった。　・郎：貴男（あなた）。男性を指すことば。　・長：〔ちゃう；zhang3●〕生長する。育つ。また、たける。年をとる。ここは、前者の意。

※同心苦亦甘：心を合わせてやれば、苦しいこともまた楽しいこととなり。　・同心：心を合わせる。　・苦亦甘：苦しみもまた楽しみに変わる。　・苦：苦しみ。苦。また、にがさ。ここは、前者の意。　・亦：〔えき（やく）；yi4●〕…もまた。また。…も。　・甘：楽しみ。楽。また、甘さ。ここは、前者の意。

※弄篙復蕩槳：竿（さお）を扱い、また、舵（かじ）を動かしている。　*竿（さお）と舵（かじ）の操作を夫婦が分業して行い、二人の呼吸が合わさって、はじめて船がスムーズに動くことを謂い、人生を夫婦の協業で、二人が力を合わせて乗り切っていることをも詠う。　・弄：〔ろう；nong4●〕扱う。いじる。また、もてあそぶ。ここは、前者の意。　・篙：〔かう；gao1○〕さお。ふなざお。船をおし進めるさお。　・復：また。ふたたび。語調を整える働きもする。　・蕩：〔たう；dang4●〕動く。動かす。また、乱す。破る。水が漂いゆらゆらする。ここは、前者の意。　・槳：〔しゃう；jiang3●〕かい。かじ。短いかい。船をこぎ進める道具。

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◎　構成について

韻式は、「ａａ」。韻脚は「長槳」で、平水韻上声二十二養。（蛇足になるが、「蕩」も上声二十二養。但し、現代語では去声の発音（声調）で押韻の韻目とは異なる。清初なのでほぼ現代語と同じ）。この作品の平仄は、次の通り。

○●○○○，
○●○○●。（韻）
○○●●○，
●○●●●。（韻）