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城北殺人聲徹天, 城南放火夜燒船。 江湖夢斷不得往, 問君此住何因緣。 竄身窮巷米如玉, 翁尋溼薪媼爨粥。 明日開門雪到簷, 隔牆更聽鄰家哭。 |
兵亂に小巷 中に寓 するの作
城北 人を殺して 聲 天に徹 り,
城南 火を放 ちて 夜 船を燒く。
江湖 に夢は斷 たれて往 くを得 ず,
君に問ふ此 に住むは何 の因緣 ぞ。
身 を窮巷 に竄 せば 米は玉の如く,
翁 は溼 れし薪 を尋 めて媼 は粥 を爨 く。
明日 門を開かば 雪は簷 に到らん,
牆 を隔てて 更に聽く鄰家 の哭 するを。
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◎ 私感訳註:
※呂本中:宋代の思想家・道学者・詩人。北宋・元豐七年(1084年)~南宋・紹興十五年(1145年)。字は居仁。紫微と号し、東萊先生と称された。寿州(現・安徽省寿県)の人。官は提挙太平観に至る。呂公著の曾孫。
※兵乱寓小巷中作:(靖康の変での帝都陥落という)戦乱に、横町に仮住(かりず)まいして(難を避けて)いた時の詩作。 ・兵乱:戦争による世の中の乱れ。戦乱。ここでは、靖康の変を謂う。北宋末の靖康元年(1126年)に首都・開封が金軍(=女真族の軍)に包囲攻撃されて陥落し、徽宗・欽宗以下の皇族男女と官僚等数千人を捕らえて満洲へ拉致し、北宋が滅亡した事件。作者(呂本中)による靖康の変の詩に『丁未二月上旬 四首其二』「厄運雖云極,羣公莫自疑。民心空有望,天道本無知。野帳留黄屋,青城插皂旗。燕雲舊耆老,寧識漢官儀。」がある。 ・寓:〔ぐう(ぐ);yu4●〕仮住(かりず)まいする。宿(やど)る。寄(よ)る。 ・小巷:〔せうかう;xiao3xiang4●●〕路地。小路。横町。
※城北殺人声徹天:街の北の方で、人を殺す声が天に響いており。 ・城北:街の北の方。盛唐・杜甫の『哀江頭』に「少陵野老呑聲哭,春日潛行曲江曲。江頭宮殿鎖千門,細柳新蒲爲誰綠。憶昔霓旌下南苑,苑中萬物生顏色。昭陽殿裏第一人,同輦隨君侍君側。輦前才人帶弓箭,白馬嚼齧黄金勒。翻身向天仰射雲,一笑正墜雙飛翼。明眸皓齒今何在,血汚遊魂歸不得。清渭東流劍閣深,去住彼此無消息。人生有情涙霑臆,江草江花豈終極。黄昏胡騎塵滿城,欲往城南望城北。」とある。
※城南放火夜焼船:街の南の方では放火されて、夜の間、船が焼かれていた。
※江湖夢断不得往:民間で居て、(戦乱のために)夢は断たれてしまって、出かけて行くことができない。 ・江湖:世の中。世間。民間。国内の各地。人里離れた川や湖の畔で、朝廷に仕えず世を捨てた隠者の住むところの譬え。民間。本来の意は大きな川や湖。長江と洞庭湖。ここは、前者の意。 ・不得:…できない(可能の否定)。…してはならない(許可の否定)。…するを得ず。 ・往:行く。
※問君此住何因縁:あなたに問うが、ここにとどまるのは、どのような縁(えにし)があってのことだろうか。 ・住:とどまる。すむ。 ・因縁:きっかけ。ゆかり。えにし。由来。関係。仏語で、物事が生じる場合の直接的な原因を「因」といい、間接的な原因を「縁」という。
※竄身窮巷米如玉:身をむさ苦しい町の中にかくしているが、(そこでの生活では)米粒は宝玉のよう(に貴重)で。 ・竄:〔ざん(さん);cuan4●〕かくれる。のがれる。逃げる。逃げ回る。 ・窮巷:〔きゅうかう;qiong2xiang4○●〕むさ苦しい町の中。みすぼらしい横町。=陋巷。 ・如玉:宝玉のように(貴重である)。
※翁尋溼薪媼爨粥:老人(=作者)は湿った薪(まき)を探して、老婦人(=作者の妻)は粥(かゆ)を炊(た)いている。 ・翁:(男性の)老人。おきな。ここでは、作者自身を指す。 ・尋:さがす。たずねる。 ・溼:〔しつ(しふ);shi1●〕しめる。うるおう。=濕(湿)。 ・薪:まき。たきぎ。 ・媼:(女性の)老人。おうな。ここでは、作者の妻を指す。 ・爨:〔さん;cuan4●〕炊(かし)ぐ。飯をたく。 ・粥:〔しゅく;zhou1(zhu4)●〕かゆ。普通のご飯ではなく、水分で増量した粥(かゆ)で、米不足の時の食べ物。
※明日開門雪到簷:あす、門を開けば、雪は軒(のき)に達していることだろう。(そのような苛酷な気象条件であり)。 ・簷:〔えん;yan2○〕ひさし。のき。=檐。
※隔牆更聴隣家哭:(さらに)壁を隔てた隣からは、(家族の死を悼む)泣き声がきこえてくる。 ・隔牆:壁を隔てて。となり。 ・哭:大声をあげて泣く。人の死を悲しんで声をあげて泣く礼。
◎ 構成について
2013.8.14 8.15 8.16完 2020.6. 4補 |