呂本中丁未二月上旬　詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩 Lü Benzhong

丁未二月上旬四首其二
	北宋・呂本中

厄運雖云極，
羣公莫自疑。
民心空有望，
天道本無知。
野帳留黄屋，
青城插皂旗。
燕雲舊耆老，
寧識漢官儀。





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丁未(ていび)二月上旬四首　其の二

厄運(やくうん)　　云(ここ)に極(きは)まると雖(いへど)も，
羣公(ぐんこう)　　自(みづか)ら疑(うたが)ふ莫(な)し。
民心　　空(むな)しく望む有れども，
天道(てんだう)　　本(もと)より知る無し。
野帳(やちゃう)に　　黄屋(くゎうをく)を留(とど)め，
青城(せいじゃう)に　　皂旗(さうき )を插(さ)す。
燕雲(えんうん)の　　舊耆老(きうきらう)，
寧(いづくんぞ)ぞ識(し)らん　　『漢官儀(かんくゎんぎ)』を。

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◎　私感註釈

※呂本中：宋代の思想家・道学者・詩人。北宋・元豐七年（１０８４年）～南宋・紹興十五年（１１４５年）。字は居仁。紫微と号し、東萊先生と称された。寿州（現・安徽省寿県）の人。官は提挙太平観に至る。呂公著の曾孫。

※丁未二月上旬四首其二：１１２７年（靖康二年／金：天會五年）の二月上旬の（靖康の変の）ことの詩。（金は宋の欽宗、徽宗二帝を廃することを宣布した時の詩）の四連作中の第二首。　・丁未：ここでは、１１２７年（靖康二年・建炎元年／金：天會五年）の二月のこと。北宋滅亡の時。　・丁未：〔ていび；ding3wei4○●〕ひのとひつじ。干支の四十四番目。ここでは、（北宋～南宋：靖康二年・建炎元年／金：天會五年）のこと。北宋滅亡の年。「丁未」は、干支で表した年。干支とは、十干と十二支の組み合わされた序列の表記法のこと。十干とは、「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」のことをいい、十二支とは「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」のことをいう。十干のはじめの「甲」、十二支のはじめの「子」から順に、次のように組み合わせていく：甲子、乙丑、丙寅、丁卯、戊辰、己巳、庚午、辛未、壬申、癸酉、（以上、１０組で、ここで十干は再び第一位の「甲」に戻り、１１組目が始まる）甲戌、乙亥、……（ここで、十二支は「子」に戻り、１３組目以降は）丙子、丁丑…となって、合計は（ページの）６０組になる。これで、１から６０までの順を表し、年月日の表示などに使われる。なお、６１番目は、１番目の甲子にもどる。還暦である。それ故、丁未年は、靖康二年・建炎元年／金：天會五年（１１２７年）だけに限らず、±６０年（の倍数年）も丙子年となる。（例えば：１１８７年、１２４７年、１３０７年…と。また、１０６７年、１００７年…と）。　北宋滅亡の靖康の変は、１１２６～２７年、金軍が、京に侵攻し、欽宗、徽宗を拉致して、北宋が滅んだ変を指す。『中国軍事史略』中巻（高鋭主編　軍事科学出版社）第一章第十五節「北宋的滅亡」（２１６ページ～２１８ページ）では、大要は次の通り：「１１２５年（宣和七年／金：天會三年）八月、金国は動員令を発布して南下の準備。十月、二路に別れて南進を開始。西路軍は、西京（現・山西省大同）から太原の攻略を目指す。東路軍は南京（現・河北省廬龍）から燕山の攻略を目指す。１１２６年（靖康元年／金：天會四年）正月、東路軍は邢（現・河北省邢臺）、相（現・河南省安陽）から浚州（現・河南省浚県東北）の黄河の渡河点に直行した。黄河を渡った六万の金軍は開封に迫った。最終的に和議で収まった。二月に金軍は撤兵した。八月に金軍は再び南下。九月太原を攻略。十一月、金の二路の軍が開封で落ち合う。閏十一月末、金軍は開封を攻撃。十二月初、宋・欽宗は金軍に降服。１１２７年（靖康二年／金：天會五年）二月、金は宋の欽宗、徽宗二帝を廃することを宣布。四月、二帝や大臣三千余人を北方に拉致。北宋は滅亡する」。金・南宋の地図。靖康の変の詩に、作者（呂本中）の『兵亂寓小巷中作』「城北殺人聲徹天，城南放火夜燒船。江湖夢斷不得往，問君此住何因緣。竄身窮巷米如玉，翁尋溼薪媼爨粥。明日開門雪到簷，隔牆更聽鄰家哭。」がある。　・二月上旬：１１２７年（靖康二年／金：天會五年）の二月上旬のこと。金は宋の欽宗、徽宗二帝を廃することを宣布した時。　四首其二：このページの詩は『丁未二月上旬』詩の四首のうちの二番目。

※厄運雖云極：不運は、極（きわ）まりになったというものの。　・厄運：〔やくうん；e4yun4●●〕。めぐり合わせの悪いこと。不運。　・雖：…というものの。…といっても。…といへども。　・云：ここに。文首・文中・文末にあって、語調を整える助字。

※群公莫自疑：諸侯は、自分で（状況を）疑ってみることがない。　・群公：諸侯。　・莫：〔ばく；mo4●〕ない。なし。否定の助字。

※民心空有望：民（たみ）の心は、空しく望みを持っている（が）。

※天道本無知：天の原理は、もともと計り知れないものだ。　・天道：天の道。自然の原理。

※野帳留黄屋：野外の陣屋の幕の中に、皇帝の車が留め置かれたままになっており。　・野帳：野外の陣屋の幕。　・黄屋：皇帝の車。車の覆いの裏に黄色の絹を用いたのでいう。

※青城插皂旗：都・汴京＝(開封)城外の青城（の徽宗・欽宗の二帝が捕虜となった所）には、（金軍の）黒い旗が、掲げられていた。　・青城：【青城之禍】金軍が宋の都・汴京＝(開封)を陥れ、徽宗・欽宗の二帝（を始めとする三千人）が金の捕虜となったこと（＝靖康の変）（と、金の末帝が元の捕虜となったこと）。（『漢語大詞典』第十一巻５２９ページ【青城之禍・青城】の項目・他）。青城は宋の斎宮の名。一つは南薫門外にあり、一つは封丘門外にある。天・地を祭るところで、青い布を幕としたことに由来する。　・插：〔さふ；cha1●〕挿（さ）す。さし込む。　・皂旗：〔さうき（そうき）；zao4qi2●○〕黒い旗。金軍の軍旗。　・皂：〔さう；zao4●〕黒い色。黒いきぬ。

※燕雲旧耆老：燕雲十六州（の遺民の）古老は。　・燕雲：〔えんうん；yan1yun2○○〕華北平野の諸州で、現・河北省（燕）と山西省北部（雲）。その地にあった燕雲十六州のことで、五代・後晋の開祖・石敬瑭が、契丹民族の遼に割譲した華北平野（≒燕・雲）の十六の州のこと。漢民族にとっては、失われた北方領土。曽ては漢民族の地であったが、今は異国の地となっているところ。　・耆老：〔きらう；qi2lao3○●〕老人。　・旧耆老：曽ての漢民族の地に住んでいた古老を指す。

※寧識漢官儀：（異国の地となった燕雲十六州（の遺民の）古老は、もはや漢民族の伝統の書である）『漢官儀』（かんくゎんぎ）を、どうして知っていようか。（もはや漢民族の伝統は絶たれているのだ）。　・寧識：どうして知っていようか。　・寧：〔ねい；ning4●〕どうして。なんぞ。いづくんぞ。　・漢官儀:〔かんくゎんぎ；Han4guan1yi2●○○〕書名。前漢の官制について記す。後漢・應劭・撰。

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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡＡ」。韻脚は「疑知旗儀」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○●，
○○●●○。（韻）
○○◎●●，
○●●○○。（韻）
●●○○●，
○○●●○。（韻）
○○●○●，
●●●○○。（韻）