舊滄州 | |
明末清初・顧炎武 |
落日空城内,
停驂問路歧。
曾經看百戰,
惟有一狻猊。
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舊滄州
落日空城 の内,
驂 を停 めて路歧 を問ふ。
曾經 て 百戰を看たる,
惟 だ有り 一狻猊 。
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◎ 私感註釈
※顧炎武:明末清初の儒学者。反清復明運動に携わる。名は絳。(字は忠清)。清朝になっての字は寧人。号は亭林。江蘇省崑山の人。1613年(萬暦四十一年)〜1682年(康熙二十一年)。清朝考証学の基礎を確立し、浙西学派の祖と称される。黄宗羲、王夫之とともに清初の三大師と呼ばれる。
滄州市=沧州市 滄県=沧县
※旧滄州:古い滄州。現・滄県か。 ・滄州:現・河北省滄州市。渤海湾に臨む河北省中東部にある都市。古来よりの興亡の地。古代より次々と異なった国に属した。詩が作られた当時は、直隷省河間府で、一部は天津府の管轄とされていた。「滄州鉄獅子」は、滄州市の東南15キロメートルのところに滄県があり、そこにある。(なお、行政区劃の「市」「県」の関係は、日本での「市」「県」の関係とは逆。中国:「市」>「県」、日本:「県」>「市」。)
※落日空城内:夕日が嘗ての都市に(沈もうとする時に)。 ・空城:嘗ての都市。実態が無くなった寂しい都市。ここでは、滄州のまちのこと。中唐・劉禹錫の『石頭城』に「山圍故國週遭在,潮打空城寂寞回。淮水東邊舊時月,夜深還過女牆來。」とある。 ・城:都市。城市。城郭都市。
※停驂問路歧:馬車を停めて、道を尋ねた。 ・停:(一時的に)とめる。 ・驂:〔さん;can1◎〕四/三頭だての馬車。本来の義は:三頭だての馬車の両側の副馬(そえうま)。車に三頭の馬を駕すること。 ・問:(ここでは)(道を)尋ねる。 ・路歧:〔ろき;lu4qi2●○〕道筋の別れるところ。おいわけ。=路岐〔ろき;lu4qi2●○〕。
※曽経看百戦:(町には)かつて、多くの戦いを看まもっていた(鉄の獅子だけが残っているだけだった)。 ・曽経:かつて(…したことがある)。以前に(…したことがある)。 ・看:手をかざしてみる。みまもる。みつめる。なお、「見」はみえる。目に入る。 ・百戦:多くの戦い。
※惟有一狻猊:ただ、鉄の獅子だけが(残されて)あるだけだ。 ・惟有:ただ…だけがある。=唯有。曹操の『短歌行』に「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。」や、唐の劉希夷『白頭吟(代悲白頭翁)』に「洛陽城東桃李花,飛來飛去落誰家。洛陽女兒惜顏色,行逢落花長歎息。今年花落顏色改,明年花開復誰在。已見松柏摧爲薪,更聞桑田變成海。古人無復洛城東,今人還對落花風。年年歳歳花相似,歳歳年年人不同。寄言全盛紅顏子,應憐半死白頭翁。此翁白頭眞可憐,伊昔紅顏美少年。公子王孫芳樹下,C歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫~仙。一朝臥病無人識,三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時,須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地,惟有黄昏鳥雀悲。」とあり、李白の『將進酒』に「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金尊空對月。天生我材必有用,千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂,會須一飮三百杯。岑夫子,丹丘生。將進酒,杯莫停。與君歌一曲,請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴,但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞,惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂,斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢,徑須沽取對君酌。五花馬,千金裘。呼兒將出換美酒,與爾同銷萬古愁。」とあり、劉長卿は『尋盛禪師蘭若』で「秋草黄花覆古阡,隔林何處起人煙。山僧獨在山中老,唯有寒松見少年。」とあり、中唐・白居易の『闍瘁xに「自從苦學空門法,銷盡平生種種心。唯有詩魔降未得,毎逢風月一闍瘁B」とあり、後世、北宋・蘇軾の『江城子』乙卯正月二十日夜記夢には「十年生死兩茫茫,不思量。自難忘。千里孤墳,無處話淒涼。縱使相逢應不識,塵滿面,鬢如霜。 夜來幽夢忽還ク。小軒窗,正梳妝。相顧無言,惟有涙千行。料得年年腸斷處,明月夜,短松岡。」とあり、司馬光『居洛初夏作』「四月清和雨乍晴,南山當戸轉分明。更無柳絮因風起,惟有葵花向日傾。」とある。 ・狻猊:〔さんげい/しゅんげい;suan1ni2○○〕獅子(しし)。唐獅子。滄州市の東南15キロメートルのところに滄県があり、そこに「滄州鉄獅子」がある。滄州城内の開元寺には、鉄製の獅子があるという。(ただし、現・滄州市の西部に開元寺大道があるものの、滄県の「滄州鉄獅子」とは20キロメートル以上離れている)。高さは一丈七尺で、長さは六尺。腹の中には十数人が入れる大きさ。周・世宗の時に鋳造されたものと云い、現存する。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「歧猊」で、平水韻上平四上平四支(岐)、八齊(猊)。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●,
○◎●●○。(韻)
○○◎●●,
○●●○○。(韻)
2018.3. 9 3.10 3.14 3.16 3.19 |
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