秦観春日四首其一　詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩 Qin Guan

春日四首　其一
	北宋・秦觀

幅巾投曉入西園，
春動林塘物物鮮。
却憩小亭纔日出，
海棠花發麝香眠。

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春日(しゅんじつ)四首

幅巾(ふくきん)　曉(あかつき)に投(いた)りて　　西園(せいゑん)に入(い)れば，
春は　林塘(りんたう)を動かして　　物物(ぶつぶつ) 鮮(あざ)やかなり。
却(かへ)って　小亭(せうてい)に憩(いこ)へば　　纔(わづか)に日出(い)で，
海棠(かいだう)　花發(ひら)きて　　麝香(じゃかう) 眠る。

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◎　私感註釈

※秦観：北宋の人。１０４９年～１１００年。字は少游。進士になり、中央で活躍し、蘇軾の門下（蘇門四学士）の一として「屈宋之才」と讃えられた。しかし、政争のために、地方へ飛ばされ、地方の任地を転々とし、許されて返る途中、現・江西省の藤州で客死した。作風はその境涯に比例して、艶麗なもの、悲愴なものがある。

※春日：春の日。春の季節。この詩題の意は、作者が「この『春日』詩は、晩唐・高駢の『山亭夏日』「綠樹陰濃夏日長，樓臺倒影入池塘。水精簾動微風起，一架薔薇滿院香。」に基づいている」と謂いたいためのもの。

※春日四首：これは其一。『春日』其二は「一夕輕雷落萬絲，霽光浮瓦碧參差。有情芍藥含春涙，無力薔薇臥曉枝。」。

※幅巾投暁入西園：朝になって、簡素な頭巾姿で、西の庭園に入れば。　・幅巾：ひとはば（＝一幅：二尺二寸＝４９．５センチメートル）の布で作った頭巾（ずきん）。隠士などのかぶり物。ここでは、隠士のかぶり物をかぶった作者を謂う。　・投：至る。　・投暁：あかつきに至って。朝になって。

※春動林塘物物鮮：春（の息吹）は、林の堤（つつみ）に兆（きざ）して、いろいろな物が新しくあざやかで美しい。　・動：うごく。はたらく。かわる。「春動」〔chun1dong4●○〕≠「蠢動」〔chun3dong4●○〕。　・塘：堤（つつみ）。池。　・物物：いろいろな物。　・鮮：あざやか。美しい。あたらしい。

※却憩小亭纔日出：（大自然は動き出している）にもかかわらず、（わたしは）小さなあずまやで休憩していると、ようやく日が出て来た。　・却：（副詞）…が、しかし。…のに。…にもかかわらず。かえって。「〔…動…〕＋〔却〕＋〔憩…〕」。　・小亭：小さなあずまや。　・纔：（副詞）やっと。ようやく。　・日出：（動詞）日が出る。日の出になる。　・「纔日出」：やっと日の出になった。ようやく日が出てきた。の意。（副詞＋動詞）。

※海棠花発麝香眠：（その光の下（もと）で、）カイドウの花が咲いて、麝香鹿（ジャコウジカ）（麝香鹿）が眠っている。　・海棠：〔かいだう；hai3tang2●○〕カイドウ。バラ科の落葉小高木。春に、紅色の花が咲く。　・花発：花が開く意。「花開」に同じ。「花発」は○●で、「花開」は○○なので、どちらを使うかは詩中、使用するところの平仄に因る。　・麝香：〔じゃかう；she4xiang1●○〕ジャコウジカ（麝香鹿）。臍（へそ）の後方に麝香腺があり、芳香を放つ。また、そこから得られる香料。ここは、前者の意。

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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡ」。韻脚は「園鮮眠」で、平水韻下平一先（鮮眠）・上平十三元（園）。この作品の平仄は、次の通り。

●○●●●○○，（韻）
○●○○●●○。（韻）
●●●○○●●，
●○○●●○○。（韻）