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| 古從軍行 | |
李頎 |
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| 古從軍行 | |
李頎 |
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白日登山望烽火，
黄昏飮馬傍交河。
行人刁斗風沙暗，
公主琵琶幽怨多。
野雲萬里無城郭，
雨雪紛紛連大漠。
胡雁哀鳴夜夜飛，
胡兒眼涙雙雙落。
聞道玉門猶被遮，
應將性命逐輕車。
年年戰骨埋荒外，
空見蒲桃入漢家。
古從軍行
白日 山に登りて 烽火を望み，
黄昏 馬に飮ふ 交河の傍。
行人の刁斗 風沙 暗く，
公主の琵琶 幽怨 多し。
野雲 萬里 城郭 無く，
雨雪 紛紛として 大漠に 連なる。
胡雁 哀鳴して 夜夜 飛び，
胡兒の眼涙 雙雙 落つ。
聞道く玉門 猶ほ遮らると，
應に性命を將って 輕車を逐ふべし。
年年 戰骨 荒外に埋め，
空しく蒲桃を見て 漢家に入る。
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◎ 私感註釈
※李頎（りき；Li3Qi2）（６９０～７５１年）東川（現・四川省）の人で穎陽に家がある。開元年間の進士で、新鄕尉に任じられる。
※古從軍行：『從軍行』のことで、出征兵士や戦場のさまを詠う漢楽府の篇名。その『從軍行』にわざわざ「古」を附けたのは、「この作品は漢代のことを詠ったもの」と強調するため。この作品は唐代の軍事拡張政策を強烈に諷刺している。
※白日登山望烽火：白昼には、山に登って烽火（のろしび）を眺めて。 ・白日：昼間。 ・烽火：のろし火。敵が攻め寄せてくるのを味方に知らせる、非常時の緊急連絡のためにあげる煙（昼間）や火（夜間）。
※黄昏飮馬傍交河：黄昏（たそがれ）時には、交河（こうが）に寄り添った傍（ほとり）で馬に飲（みずか）う。 ・黄昏：〔くゎうこん；huang2hun1○○〕夕暮れ。たそがれ。日が暮れかかる（頃）。夕闇（やみ）のせまるさま。 ・飮馬：〔いんば；yin4ma3●●：「飮」で「飲ませる」の意は〔yin4〕〕馬に水を飲ませる。馬に水飼（みずか）う。攻め寄せるの意。唐・王昌齢の『塞下曲』に「飮馬渡秋水，水寒風似刀。平沙日未沒，黯黯見臨。昔日長城戰，咸言意氣高。黄塵足今古，白骨亂蓬蒿。」
や、王翰は『古長城吟』（『飮馬長城窟行』）で「長安少年無遠圖，一生惟羨執金吾。麒麟前殿拜天子，走馬西撃長城胡。胡沙獵獵吹人面，漢虜相逢不相見。遙聞撃鼓動地來，傳道單于夜猶戰。此時顧恩寧顧身，爲君一行摧萬人。壯士揮戈回白日，單于濺血染朱輪。歸來飲馬長城窟，長城道傍多白骨。問之耆老何代人，云事秦王築城卒。黄昏塞北無人煙，鬼哭啾啾聲沸天。無罪見誅功不賞，孤魂落魄此城邊。當昔秦王按劍起，諸侯膝行不敢視。富國強兵二十年，築怨興徭九千里。秦王築城何太愚，天實亡秦非北胡。一朝禍起蕭墻内，渭水咸陽不復都。」
がある。 ・傍：近づく。寄り添う。動詞として使う。 ・交河：今の新疆ウイグル自治区吐魯蕃の西を流れる河。車師王の居城の周りを河の水が分かれて交河城を取り巻いたことから交河の名称ができたという。『中国歴史地図集』第二冊 秦・西漢・東漢時期（中国地図出版社）６５－６６ページ「東漢 西域都護府」天山の南の車師前部にある。盛唐・岑參の『送崔子還京』（送人還京）に「匹馬西從天外歸，揚鞭只共鳥爭飛。送君九月交河北，雪裏題詩涙滿衣。」
※行人刁斗風沙暗：出征している兵士の刁斗（ちょうと：銅鑼鍋）に砂煙が暗く覆って。 ・行人：出征兵士。旅人。ここは、前者の意。その用例は、杜甫の『兵車行』「車轔轔，馬蕭蕭，行人弓箭各在腰。耶孃妻子走相送，塵埃不見咸陽橋。牽衣頓足闌道哭，哭聲直上干雲霄。道旁過者問行人，行人但云點行頻。或從十五北防河，便至四十西營田。」
※公主琵琶幽怨多：（劉細君や王昭君）公主の琵琶の音には、秘められた怨みが多く籠もっている。 ・公主：姫君。ここでは劉細君は前者「檣」。昭君は字。明君、明妃は、「昭」字をさけたための晋以降の称。蛇足になるが、「竟寧」（辺境がやっと平和になった）という年号は、とても分かりよい。元帝の慶びが伝わってくる。そのような状況下での通婚である。この時代背景から推察するに、元帝がその美貌を惜しんだという話は後世のものになるのではないか。『漢書・本紀・元帝紀』に「竟寧元年春正月，匈奴 呼韓邪單于來朝。詔曰：「匈奴呼韓邪單于不忘恩德，鄕慕禮義，復修朝賀之禮，願保塞傳之無窮，邊垂長無兵革之事。其改元爲竟寧，賜單于待詔掖庭王檣爲閼氏。」とある「王檣」が王昭君のこと。「閼氏」とは、單于の正妻の称≒皇后。『漢書・匈奴傳・下』「王昭君號寧胡閼氏，生一男伊屠智牙師，爲右日逐王。」この外、多くの子供をもうけ、夫の没後は、匈奴の習慣に従った再婚をし、父子二代の妻となり、更に子供を儲けている。子供達の名も記録されている。当の本人の願望はともかく、漢・匈奴友好使節の役を果たしたとも謂え、辺疆安寧のための犠牲になったとも謂える。 ・琵琶：〔びは；pi2pa2○○〕弦楽器の一つ。木製で甲と柄があり、通常四弦四柱または五弦。胴は扁平で茄子形をしており、柄の頭部は背側に折れ曲がった形状で、ギターや三味線のように爪などで弾く。西域をイメージするものであり、漢民族にとっては王昭君をも想起させるもので、「琵琶」「王昭君」「馬」…は「西域」の縁語とも謂え、塞外の風情を描写するのに屡々使われる。唐・王昌齡の『從軍行』 「琵琶起舞換新聲，總是關山離別情。繚亂邊愁聽不盡，高高秋月照長城。」
※野雲萬里無城郭：原野に浮かぶ雲が萬里（ばんり）の彼方まで続き、町の城郭は見えないで， ・野雲：野原に浮かぶ雲。 ・萬里：遥か彼方まで、の謂い。 ・城郭：城市（＝都市）の外まわりに設けられた城壁。
※雨雪紛紛連大漠：雪（雨雪（みぞれ））が次々と降り続き、それが沙漠にまで連なっている。 ・雨雪：雪が降る。「雨」字は動詞で「雨（雪）ふる」の意（「雨雪」yu4xue3）。また、みぞれ（「雨雪」yu3xue3）。 ・紛紛：入り交じって乱れるさま。 ・連：つらなる。 ・大漠：ゴビ砂漠。また、広大な砂漠。
※胡雁哀鳴夜夜飛：西方異民族の地の雁が、もの哀しく鳴いて、夜ごと飛び， ・胡雁：西方（異民族の地）の雁（がん）。 ・哀鳴：もの哀しく鳴く。 ・夜夜：夜毎（に）。よよ。
※胡兒眼涙雙雙落：胡兒（えびす）の眼からは、涙が二筋流れている。 ・胡兒：えびすの子ども。えびすを軽んじていうことば。西方異民族
※聞道玉門猶被遮：聞くところによると、玉門関は、なおまだ遮（さえぎ）られて、（故郷へ凱旋できずにおり）。 ・聞道：伝え聞くところによると。きくならく。伝聞を表す表現。 ・玉門：西域への入り口（要衝）である玉門関のこと。現・甘粛省西部の敦煌県の西北西５０キロメートルの地にある所を指す。なお、『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期「唐 隴右道東部」６１－６２ページ（中国地図出版社）では、前記の所が「玉門故関」で、陽関とも５０キロメートルの近さ。またそこより１５０キロメートルのところに「玉門関」がある。そこから更に東南１００キロメートルのところに「玉門軍」があり、その近くが現在の玉門市。 ・猶：ずっと今まで。なお（も）。 ・遮：玉門関の封鎖を謂う。漢・武帝の命により、大宛国の汗血馬を入手しようとした弐師将軍・李広利だが、難路のため、大宛を攻略できずにいた。部下の兵士も多くは戦死・戦病死したため、李広利は敦煌に退却し、撤兵を願い出た。このことを聞いて武帝は激怒し、「玉門関より中に入る（漢土に戻る）ようなら斬る」と命を下した。この武帝の命令を謂う。
※應將性命逐輕車：当然、命懸けで指揮官に追いすがって行った。 ・應：当然…であろう。まさに…すべし。 ・將：…を。…をもって。ここでは、古語の「以」に似た働きをする。 ・性命：生命。 ・逐：追う。 ・輕車：戦車。また、速く走る車。ここでは､「輕車将軍」や「輕車都尉」などの指揮官。
※年年戰骨埋荒外：年年、戦争で死んだ者の亡骸を遠い果ての野蛮地に埋（うず）めて。 ・年年：毎年。 ・戰骨：戦死者の遺骸。 ・荒外：荒れ果てた野蛮地。漢民族の地ではない異境。塞外。
※空見蒲桃入漢家：空しくブドウを見ながら漢の地に戻ってきた。（異域に戦士の骨を埋めながらの対外拡張戦争で得たものは）中央アジア原産のブドウを漢民族の地・中原へ移入したことだった、ということ。 ・蒲桃：〔ふ（ほ）たうpu2tao2○○〕ブドウ。葡萄（ぶ（ほ）だ（た）うpu2tao2(0)○○）。中央アジア原産。前出・唐・王翰『涼州詞』に「葡萄美酒夜光杯，欲飮琵琶馬上催。」
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◎ 構成について
韻式は、「ＡＡｂｂｂＣＣＣ」。韻脚は「河多 郭漠落 遮車家」。この作品、換韻の仕方から「ＡＡＡ」「ｂｂｂ」「ＣＣＣ」であるかのように見え、「火河多 郭漠落 遮車家」としたいが、「火」は去声で、韻脚ではない。敢えて韻式で表せば、「ａＡＡｂｂｂＣＣＣ」。（現代詩や、一部の填詞の詞調には見受けられるが…）。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○◎○●，（Ａ韻）
○○●●○○○。（A韻）
○○○●○○●，
○●○○○●○。（A韻）
●○●●○○●，（b韻）
●●○○○●●。（b韻）
○●○○●●○，
○○●●○○●。（b韻）
○●●○○●○，（C韻）
○○●●●○○。（C韻）
○○●●○○●，
○●○○●●○。（C韻）
| ２００８．７．２５ ８． １ ８． ２完 ８． ９補 ２０１２．９．１４ |
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