送崔子還京送人還京
	唐・岑參

匹馬(ひっぱ)　西のかた　　天外(てんがい)より歸り，
鞭(むち)を揚(あ)げて　只(た)だ 鳥と飛ぶを爭ふ。
君を送る　九月　　交河(かう が )の北，
雪裏(せつ り )　詩を題(だい)して　　涙(なみだ) 衣(ころも)に滿(み)つ。

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◎　私感註釈

※岑参：〔しん・じん；Cen2 Shen1〕盛唐の詩人。開元三年（７１５年）〜大暦五年（７７０年）南陽の人。安西節度使に仕え、当時西の地の涯までいった。ために、辺塞詩をよくする。蛇足になるが、岑參の「參」字は〔さん；can1〕〔しん；cen1〕〔じん；shen1〕とあるが、彼の名は〔じん；Shen1〕。（『中国大百科全書・中国文学 �T』中国大百科全書出版）。

※送崔子還京：崔さんが都に戻っていくのを見送る。 *前半を崔侍御の心情とそのさまを詠み、後半は作者自身の心情を詠う。『唐詩選』では『送人還京』（人の京に還るを送る）とする。　・崔子：崔（さい；Cui1）君。崔侍御のこと。『岑參集校注』（陳鐵民 侯忠義校注 上海古籍出版社 ２００４年上海）204ページでは、その一つ前の詩である『熱海行送崔侍御還京』（203ページ）「側聞陰山胡兒語，西頭熱海水如煮。海上衆鳥不敢飛，中有鯉魚長且肥。岸傍青草常不歇，空中白雪遙旋滅。蒸沙爍石然虜雲，沸浪炎波煎漢月。陰火潛燒天地鑪，何事偏烘西一隅。勢呑月窟侵太白，氣連赤阪通單于。送君一醉天山郭，正見夕陽海邊落。柏臺霜威寒逼人，熱海炎氣爲之薄。」での崔侍御のこと。その他は不詳。　・還：かえる。「還」は、行く先から帰る。行った者がくるりと帰る。後出・「帰」はもと出た所、本来の居所（自宅・故郷・祖国・墓所）にかえる。

※匹馬西従天外帰：（あなたの乗った）一匹の馬が、西方のはるか遠いところから（唐の都の方を目指して）帰っていく（が）。　・匹馬：一匹の馬。唐・嚴武の『軍城早秋』に「昨夜秋風入漢關，朔雲邊雪（邊月）滿西山。更催飛將追驕虜，莫遣沙場匹馬還。」とあり、中唐・張謂の『送盧舉使河源』に「故人行役向邊州，匹馬今朝不少留。長路關山何日盡，滿堂絲竹爲君愁。」とある。　・従：…より。　・天外：はるか遠いところ。天の外。天表。

※揚鞭只共鳥争飛：（あなたの「速く帰京したい」という気持ちから、そのさまは、）鞭をふりあげてあて（馬を走らせるのが）鳥と速さを競う（かのように急（せ）いている）。　・揚鞭：鞭を（ふりあげて）あてる。「揚鞭催馬」は、鞭をあてて馬を走らす意。　・共：…と。一緒に。…とともに。

※送君九月交河北：（わたしは、）晩秋の陰暦九月に交河の北で、君（＝崔侍御）（の帰京）を見送る（が）。　・九月：陰暦九月。秋の末。晩秋。秋三ヶ月（七月・八月・九月）の最後の月。　・交河：今の新疆ウイグル自治区吐魯蕃（トルファン）の西を流れる河。車師王の居城の周りを河の水が分かれて交河城を取り巻いたことから交河の名称ができたという。『中国歴史地図集』第二冊　秦・西漢・東漢時期（中国地図出版社）６５−６６ページ「東漢　西域都護府」天山の南の車師前部にある。盛唐・李頎の『古從軍行』に「白日登山望烽火，黄昏飮馬傍交河。行人刁斗風沙暗，公主琵琶幽怨多。野雲萬里無城郭，雨雪紛紛連大漠。胡雁哀鳴夜夜飛，胡兒眼涙雙雙落。聞道玉門猶被遮，應將性命逐輕車。年年戰骨埋荒外，空見蒲桃入漢家。」とある。

※雪裏題詩涙満衣：（わたしは、祖国を遠く離れた交河の北の地の）雪の中で詩を作れば、（独り異郷に留まる切ない思いで）涙でころもがいっぱいになった。　・雪裏：雪の中（で）。　・題詩：詩を作る。


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◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「帰飛衣」で、平水韻上平五微。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○○●○，（韻）
○○●●●○○。（韻）
●○●●○○●，
●●○○●●○。（韻）

２０１２．９．１３ 　　　　　９．１４ 　　　　　９．１５

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