王勃蜀中九日　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Wang Bo

蜀中九日
	唐・王勃

九月九日望鄕臺，
他席他鄕送客杯。
人情已厭南中苦，
鴻雁那從北地來。

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蜀中九日

九月九日　　望鄕臺，
他席他鄕　　客を送る杯。
人情　已に厭ふ　　南中の苦，
鴻雁　那ぞ北地より來る。

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◎　私感註釈

※王勃：６４８年（貞觀二十二年）～６７５年（上元二年）。初唐の詩人。字は子安。絳州の龍門（現・山西省河津市）の人。神童の誉れが高く、早くに官に就いたが、諸王の闘鶏を難じた檄文を作り剣南（現・四川省『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）６５－６６ページ「唐　劍南道北部」にある。）に左遷された。後、罪を犯した官の奴隷を匿いきれなくて殺し、父と共に左遷された。王勃は父を訪ねる途中、南海を航行する船から転落して溺死した。二十七（二十八、二十九）歳。

※蜀中九日：蜀の国（現・四川省）での九月九日の重陽節。　*全てが対句によって構成されている。『蜀中九日登玄武山旅眺』ともする。

※九月九日望鄕臺：九月九日（の重陽節に）故郷を望む高台（望郷台）で。　・九月九日：重陽節を謂う。（陰暦九月九日は陽暦の十月中旬）菊の節句。「九月九日」が陽の数字（奇数）の最大の「九」が重なることから「重陽」という。重九。九日登高節は、高いところに登り、遙か離れた地にいる親族を偲ぶ節。王維の『九月九日憶山東兄弟』「獨在異鄕爲異客，毎逢佳節倍思親。遙知兄弟登高處，插茱萸少一人。」や李煜の『謝新恩』「冉冉秋光留不住，滿階紅葉暮。又是過重陽，臺登臨處，茱萸香墮。　　　紫菊氣，飄庭戸，晩煙籠細雨。新雁咽寒聲，愁恨年年長相似。」や李清照の『醉花陰』「薄霧濃雲愁永晝，瑞腦消金獣。佳節又重陽，玉枕紗廚，半夜涼初透。　　　東籬把酒黄昏後，有暗香盈袖。莫道不消魂，簾捲西風，人比黄花痩。」や、現代では毛沢東の『采桑子』「重陽一九二九年十月」「人生易老天難老，歳歳重陽。今又重陽，戰地黄花分外香。　　　一年一度秋風勁，不似春光。勝似春光，寥廓江天萬里霜。」らにある。蛇足だが、一月一日（元旦）、三月三日（上巳）、五月五日（端午）、七月七日（七夕）、そしてこの九月九日（重陽）と、奇数の重なる日は全て節日になっている。　・望鄕臺：故郷を眺める高台。固有名詞か普通名詞か不明。固有名詞とすれば、現・四川省成都近郊か。

※他席他鄕送客杯：（自分はよそ者でありながら、）よその土地のよそ宴会の席で、よそからやって来ていた人物を歓送するために杯（さかずき）（を傾けている）。　*作者・王勃は龍門、また長安の者と謂える北方人であるが、左遷されて他郷の蜀（四川）におり、そこでの重陽節を迎えた。その折に、やはりよそからこの蜀の地に来ていた人物の旅立ちがあり、その送別の宴も開いた。よそ者である作者・王勃がよそ者（蜀の地に来ていた人物）を見送るとは、何たる皮肉か、ということ。　・他席：よそでの宴会の席。　・他鄕：よその土地。　・送客：他所からの旅人を送る。　・客：よそ者。旅人。

※人情已厭南中苦：（わたしの）人としての感情では、（この）南方の地に居ることがとっくに厭（いや）になっているが。　・人情：人としての感情。人間らしい心のはたらき。ここでは作者自身の感情のことをいう。　・已：とっくに。すでに。　・厭：〔えん；yan4●〕あきる。いやがる。倦む。いとう。　・南中：南方の地。　・苦：つらさ。蛇足になるが、当時の北方（秦の地）と南方（蜀）との違いは、気候の違いにとどまらず、言語・文化等が大きく隔たっていたことに注意が必要。

※鴻雁那從北地來：大きなカリよ、どうしてまた（わたしの焦がれている）北の地方から（、このうんざりする南方の地へ、わざわざ）やって来たのだ？　・鴻雁：〔こうがん；hong2yan4○●〕かり。大きなかり。雁信（雁帛＝たより）の意もある。張若虚の『春江花月夜』に「春江潮水連海平，海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里，何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸，月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛，汀上白沙看不見。江天一色無纖塵，皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月，江月何年初照人。人生代代無窮已，江月年年祗相似。不知江月待何人，但見長江送流水。白雲一片去悠悠，青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子，何處相思明月樓。可憐樓上月裴回，應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去，擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞，願逐月華流照君。鴻雁長飛光不度，魚龍潛躍水成文。昨夜閒潭夢落花，可憐春半不還家。江水流春去欲盡，江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧，碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸，落月搖情滿江樹。」とある。　・那：〔な（だ）；na3●〕なんぞ。いづくんぞ。反語の辞。蛇足になるが、「那」は「あの、かの、あれ」といった遠称で「彼」字と似た働きをする語でもあるが、その場合は〔な；na4●〕。なお、現代語の表記では両者を区別するため、疑問・反語の辞〔な；na3●〕は「哪」と書き表して、遠称と区別する。　・從：…より。　・北地：北方の地方。作者・王勃にとっては、龍門、また長安のこと。

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◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「春塵人」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○○●○，（韻）
●○○●●○○。（韻）
○○●●○○●，
○●○○○●○。（韻）