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烏夜啼 | |
唐・李白 |
黄雲城邊烏欲棲,
歸飛啞啞枝上啼。
機中織錦秦川女,
碧紗如烟隔牕語。
停梭悵然憶遠人,
獨宿空房涙如雨。
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烏夜啼
黄雲 城邊 烏 棲まんと欲し,
歸り飛びて 啞啞と 枝上に啼く。
機中 錦を織る 秦川の女,
碧紗 烟の如く 牕を 隔てて語る。
梭を停め 悵然として 遠人を憶ひ,
獨り 空房に宿して 涙 雨の如し。
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◎ 私感註釈
※李白:盛唐の詩人。字は太白。自ら青蓮居士と号する。世に詩仙と称される。701年(嗣聖十八年)~762年(寶應元年)。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して、翰林供奉となるが高力士の讒言に遭い、退けられる。安史の乱では苦労をする。後、永王が謀亂を起こしたのに際して幕僚となっていたために、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。
※烏夜啼:楽府題の一。なお、詞牌にもある![]()
が、詞調は異なる。この作品や詞牌でも閨情詠う。南唐後主・李煜の『烏夜啼』「昨夜風兼雨,簾帷颯颯秋聲。燭殘漏斷頻欹枕,起坐不能平。 世事漫隨流水,算來夢裏浮生。醉鄕路穩宜頻到,此外不堪行。」
や同・李煜の『烏夜啼』「無言獨上西樓,月如鈎。寂寞梧桐深院 鎖淸秋。 剪不斷,理還亂,是離愁。別是一般滋味 在心頭。」
のとある。
※黄雲城邊烏欲棲:夕暮れの雲が城塞一帯にかかり、カラスがねぐらに帰り宿ろうとして。 ・黄雲:夕暮れの雲。黄土の砂煙。同時代人である高適の『別董大』に「十里黄雲白日曛,北風吹雁雪紛紛。莫愁前路無知己,天下誰人不識君。」とある。 ・城邊:城塞一帯。 ・烏:カラス。 ・欲:…よう。…う。…たい。 ・棲:鳥が巣に宿る。すむ。
※歸飛啞啞枝上啼:帰り飛んできて、カーカーと枝の上で啼(な)いている。 ・啞啞:〔ああ;ya1ya1○○〕からすなどの啼き声。カーカー。蛇足になるが、唖(おし)の意では〔あ;ya3●〕。啼き声ともとれる詩には、唐・駱賓王七歳の時の『詠鵞』「鵝鵝鵝,曲項向天歌。白毛浮綠水,紅掌撥淸波。」がある。(鳥の名称は啼き声由来か?烏鴉鳩鵞…??犬猫虎もそういえば……?) ・啼:〔てい;ti2○〕(鳥や虫が)鳴く。
※機中織錦秦川女:機(はた)で錦(の回文)を織り込んだ秦川の(竇滔の妻の蘇蕙(蘇若蘭)のように)。 ・機中:機(はた)で織り込む。 ・機:はた。はたおる。 ・織錦:錦を織る。夫を思い慕ったことばを回文で織り込む。 ・秦川女:蘇蕙(蘇若蘭)のこと。夫を思う妻の典型。彼女の出身地が秦川によるための言い方。回文の錦を織った妻のことで竇滔の妻の蘇蕙(蘇若蘭)のこと。『晋書・列伝第六十六・列女・竇滔妻蘇氏』竇滔の妻の蘇氏のこと。蘇氏は夫・竇滔が罪を得て流沙に流されたのを偲び、錦を織り、その中に回文(順序を逆に読めば、別の意味になる文)を織り込んで送った故事に基づく。『晋書・竇滔妻蘇氏』には「竇滔妻蘇氏,始平人也,名蕙,字若蘭,善屬文。滔苻堅時爲秦州刺史,被徙流沙,蘇氏思之,織錦爲回文旋圖詩以贈滔。宛轉循環以讀之,詞甚淒惋,凡八百四十字,文多不録。」とある。この故事を使った詞に陸游の『淸商怨』葭萠驛作「江頭日暮痛飮,乍雪晴猶凛,山驛凄涼,燈昏人獨寢。鴛機新寄斷錦,歎往事、不堪重省,夢破南樓,綠雲堆一枕。」
や、宋・劉克莊『玉樓春』戯林推「年年躍馬長安市,客舍似家家似寄。靑錢換酒日無何,紅燭呼盧宵不寐。易挑錦婦機中字, 難得玉人心下事。男兒西北有神州,莫滴水西橋畔涙。」
がある。
※碧紗如烟隔牕語:(女性の部屋の)緑色のうす絹のカーテン(の奥深く)けむっているかのようなところから、窓を隔てて(つぶやいて)語っている。 ・碧紗:緑色のうす絹のカーテン。女性の部屋を謂う。 ・如烟:けむっているかのようである。 ・隔牕語:窓を隔てて話す。
※停梭悵然憶遠人:機(はた)を織る手を一時とめて、遠いところにいった人(夫)を思い出しては。 ・停梭:ひを(一時的に)とめる。 ・梭:〔さ;suo1○〕ひ。おさ。機織りの道具。横糸を通す管のついているもの。 ・悵然:恨み嘆くさま。 ・憶:思い出す。 ・遠人:〔ゑんじん;yuan3ren2●○〕遠いところにいる人。遠方へ戦争や守備で行っている人。
※獨宿空房涙如雨:ひとりで誰もいない家屋で寝泊まりしているが、涙が雨のようである。 ・獨宿:ひとりで泊まる。 ・空房:誰もいない家屋。「孤房」ともする。 ・如雨:雨のようである。
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◎ 構成について
韻式は、「AAaaa」。韻脚は「棲啼 女語雨」で、詞韻第四部か。この作品の平仄は、次の通り。押韻や平仄や詩意から、前二句と後四句とに分けられる。
○○○○○●○,(A韻)
○○○○○●○。(A韻)
○○●●○○●,(a韻)
●○○○●○●。(a韻)
○○●○●●○,
●●○○●○●。(a韻)
2009.8.3 8.4 8.5 |
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