對花 | |
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唐・于濆 |
花開蝶滿枝,
花落蝶還稀。
惟有舊巣燕,
主人貧亦歸。
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花に對す
花開 けば蝶 枝に滿ち,
花 落つれば蝶 還 ること稀 なり。
惟 だ舊巣 の燕 有りて,
主人 貧しきも亦 た 歸る。
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◎ 私感註釈
※于濆:〔うふん;Yu2 Pen1〕晩唐の詩人。字は子漪。咸通年間の進士で、泗州の判官で終わる。
※対花:花に向かって。この詩、『全唐詩』では于濆の『対花』とし、或いは武瓘の『感事』ともする。日本では于濆の『感事』とする。ここは、『全唐詩』に従う。 *後世、日本・江戸時代の廣P旭莊はこのページの詩のモチーフを借りて『夏初遊櫻祠』「花開萬人集,花盡一人無。但見雙黄鳥,緑陰深處呼。」を作った。 ・対:…について。向かって。面して。
※花開蝶満枝:花が咲けばチョウは、枝にいっぱいになり。(人生が順調で盛んであれば、寄ってくる者が多く。) ・花開:花が開く。この詩では「人生が万事順調で盛んである」時をいう。初唐・劉希夷(劉廷芝)の『白頭吟(代悲白頭翁)』「洛陽城東桃李花,飛來飛去落誰家。洛陽女兒惜顏色,行逢落花長歎息。今年花落顏色改,明年花開復誰在。已見松柏摧爲薪,更聞桑田變成海。古人無復洛城東,今人還對落花風。年年歳歳花相似,歳歳年年人不同。寄言全盛紅顏子,應憐半死白頭翁。此翁白頭眞可憐,伊昔紅顏美少年。公子王孫芳樹下,清歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫~仙。一朝臥病無人識,三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時,須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地,惟有黄昏鳥雀悲。」とある。晩唐・薛濤の『春望』に「花開不同賞,花落不同悲。欲問相思處,花開花落時。」とある。 ・蝶:チョウ。この詩では「順調な者の余沢にあずかる者」、「おこぼれを狙う者」をいう。
※花落蝶還稀:花が散れば、チョウがもどってくることは少ない。/花が散れば、チョウは、やはり稀(まれ)である。(前者は「還」を動詞と見る。後者は「還」を副詞と見る。)(人生が衰勢になれば、以前に寄ってきた者が戻って来ることは稀(まれ)である。) *この「花落蝶還稀」の句、日本では「花 落つ(/謝す)れば 蝶 還(ま)た稀(まれ)なり」と、「還」を副詞(:「また」)として読み下すのが伝統的なようだが、この「還」は動詞(:「かえる」、戻る。)なのではないか。この「花開蝶滿枝,花落蝶還稀。惟有舊巣燕,主人貧亦歸。」の詩の構成を見ると、「花開蝶滿枝,花落(/謝)蝶還稀。」では、「花開 蝶滿枝,花落(/謝) 蝶還稀。」のように(不完全ながら)対句・句中の対で、ここでは動詞(戻る。かえる)と見るのが詩として自然。「還」は「滿」と対になり、「落(/謝)」と対になり、「開」とも対になっている。また「還」は、「主人貧亦歸。」の「歸」(動詞)とも意味の上で、対比させるように作られている。ここは「還」を動詞とみて「花 落つ(/謝す)れば 蝶 還(かへ)ること稀(まれ)なり」と読み下すのが本来的には適切なのだろうが、従来の伝統に従って「花 落つ(/謝す)れば 蝶 還(ま)た稀(まれ)なり」との読み下しも、ここに紹介しておく。 ・花落:花が散る。ここでは「人生が凋落傾向にある」ことを謂う。武瓘の『感事』では「花落」を「花謝」として、この句を「花謝蝶還稀」とする。同義。 ・還:副詞:〔?:hai2○〕やはり。また。ふたたび。 動詞:〔くゎん;huan2○〕戻る。(もとの状態に)復する。かえる。 ・稀:〔き;xi1○〕(まれ。まばら。少ない。
※惟有旧巣燕:ただ、昔から棲み着いているツバメだけは。 ・惟有:ただ…だけがある。=唯有。曹操の『短歌行』に「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。」とあり、唐の劉希夷『白頭吟(代悲白頭翁)』に「洛陽城東桃李花,飛來飛去落誰家。洛陽女兒惜顏色,行逢落花長歎息。今年花落顏色改,明年花開復誰在。已見松柏摧爲薪,更聞桑田變成海。古人無復洛城東,今人還對落花風。年年歳歳花相似,歳歳年年人不同。寄言全盛紅顏子,應憐半死白頭翁。此翁白頭眞可憐,伊昔紅顏美少年。公子王孫芳樹下,C歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫~仙。一朝臥病無人識,三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時,須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地,惟有黄昏鳥雀悲。」とあり、李白の『將進酒』に「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金尊空對月。天生我材必有用,千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂,會須一飮三百杯。岑夫子,丹丘生。將進酒,杯莫停。與君歌一曲,請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴,但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞,惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂,斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢,徑須沽取對君酌。五花馬,千金裘。呼兒將出換美酒,與爾同銷萬古愁。」とあり、中唐・白居易の『闍瘁xに「自從苦學空門法,銷盡平生種種心。唯有詩魔降未得,毎逢風月一闍瘁B」とあり、中唐・劉長卿は『尋盛禪師蘭若』で「秋草黄花覆古阡,隔林何處起人煙。山僧獨在山中老,唯有寒松見少年。」とあり、晩唐・杜牧の『懷呉中馮秀才』に「長洲苑外草蕭蕭,卻算遊程歳月遙。唯有別時今不忘,暮煙秋雨過楓橋。」とあり、後世、北宋・蘇軾の『江城子』乙卯正月二十日夜記夢には「十年生死兩茫茫,不思量。自難忘。千里孤墳,無處話淒涼。縱使相逢應不識,塵滿面,鬢如霜。 夜來幽夢忽還ク。小軒窗,正梳妝。相顧無言,惟有涙千行。料得年年腸斷處,明月夜,短松岡。」と使い、司馬光『居洛初夏作』「四月清和雨乍晴,南山當戸轉分明。更無柳絮因風起,惟有葵花向日傾。」と使う。 ・旧巣:昔から巣(を作って住み着いている)。古巣。 ・燕:ツバメ。ここでは「旧来の交情を忘れずに、(初夏になれば)引き続きやって来る者」のことをいう。
※主人貧亦帰:あるじが貧しくなっても、(初夏になれば、旧来の情誼を重んじるがごとく)帰って来ている。 ・亦:…もまた。…も。…でもやはり。 ・帰:(そこが自宅であるかのように)かえる。「帰」は本来の居所である自宅・故郷・祖国・墓地などにもどることをいう。前出・ツバメの行為を指す。「花落蝶還稀」の「還」(動詞)と、対比させて使う。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「枝稀歸」で、平水韻上平四支(枝)、五微(稀歸)。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●○,(韻)
○●●○○。(韻)
○●●○●,
●○○●○。(韻)
2013.1.29 1.30完 2018.1.20補 |
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