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秋來 | |
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唐・李賀 |
桐風驚心壯士苦,
衰燈絡緯啼寒素。
誰看靑簡一編書,
不遣花蟲粉空蠹。
思牽今夜腸應直,
雨冷香魂弔書客。
秋墳鬼唱鮑家詩,
恨血千年土中碧。
******
秋來 る
桐風 心を驚 かして 壯士 苦しみ,
衰燈 絡緯 寒素 に啼 く。
誰 か看ん青簡 一編の書を,
花蟲 をして粉 として空 しく蠹 ま遣 めざる。
思ひは牽 かれて 今夜腸 應 に直 なるべく,
雨は冷ややかにして香魂 書客 を弔 む。
秋墳 鬼 は唱 ふ鮑家 の詩,
恨血 千年土中 の碧 。
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◎ 私感註釈
※李賀:中唐の詩人。字は長吉。官職名から李奉礼。出身地から李昌谷とも呼ばれる。昌谷(現・河南省洛陽附近『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期都畿道44-45ページ(中国地図出版社)にはなかった)の人。791年(貞元七年)~817年(元和十二年)。その詩風は不気味で、「鬼才」(日本語での意とは異なり、「幽鬼に通じる才能」)と評される。
※秋来:秋が来た。 *人の世に出ることの無い、(詩)才ある自分を嘆き、詩について幽鬼との交わりの中で、詩才を認めてもらったことを訴えた詩。
※桐風驚心壮士苦:(大きな葉の)アオギリに風が当たって、葉が音を立てるのに心を驚かせるが、血気さかんな壮年の男子(=作者自身)でも、耐えがたい(ものがある)。 ・桐風:(大きな葉の)アオギリ(梧桐)に風が当たり、葉が音を立てているさまを謂う。 ・驚心:驚く。心を驚かす。 ・壮士:血気さかんな壮年の男子。勇壮な男子。ここでは、作者自身をを指す。 ・苦:つらい。耐えがたい。
※衰灯絡緯啼寒素:油が減ってきた夜更けのともしびで、焔(ほのお)が小さくなって明るさが減じてきて、クダマキ(=キリギリスよりやや小さい虫)が清貧の生活の中で鳴いている。 ・衰灯:油が減ってきた夜更けのともしびで、焔(ほのお)が小さくなって明るさが減じてきたもの。 ・絡緯:〔らくゐ;luo4wei3●●〕クダマキ。キリギリスよりやや小さい虫。クツワムシ。南宋・周密の『秋日即事』に「絡緯聲聲織夜愁,酸風吹雨水邊樓。堤楊脆盡黄金縷,城裏人家未覺秋。」とある。 ・寒素:(読書人の)貧しいが穢れのないこと。=清貧。
※誰看青簡一編書:(一体、)だれが一冊の編輯した(作者(=李賀)自身の詩)集を見て、…ようとするまい。 ・誰看:だれが見ようか。(だれも見まい)。 ・青簡:青い竹ふだ。転じて、書籍。 ・一編書:本を一冊編輯する。作者(=李賀)自身の詩集を謂うか。
※不遣花虫粉空蠹:(作者(=李賀)自身の詩集を)紙魚(しみ)に粉々にすっかりとむしばまれない(ようにとしようか)。 ・遣:しむ。せしむ。…をして…せしむ。使役の助字。「不遣」は「しめず」。 ・花虫:紙魚(しみ)のこと。シミ目シミ科の昆虫の総称で、体長は約1センチメートル。体は銀白色の鱗に被(おお)われ、書籍や衣料などを食害する。また、ワタアカミムシ。また、ワタキバガの幼虫。綿の球ざやの中の種を常食する。=花鈴虫。 ・粉:粉々(に)。 ・空:むなし(く)。 ・蠹:〔と;du4●〕虫が食う。むしばむ(動詞)。蠧魚(シミ)。キクイムシ。(名詞)。ここは、前者の意。
※思牽今夜腸応直:心の思いに引かれてしまって、(断腸の思いになる手前で、)腸(はらわた)は伸びきって真っ直ぐになってしまったかのようで。 ・牽:〔けん;qian1○〕引っ張る。ひかれる。引く。 ・腸:はらわた。こころ。長くのびた臓器。 ・応:…のはずだ。当然…である。…だと思う。まさに…べし。 ・直:まっすぐである。「腸…直」の意は:「牽…腸…直」((思いに)引かれて、腸(はらわた)は伸びきって真っ直ぐになってしまった)。非常に強い慨嘆を謂う。
※雨冷香魂弔書客:雨が冷たく降る時、昔の詩人の魂が読書人(=作者自身)の安否を問うて見舞ってくれた。 ・香魂:花の精。美人の魂。ここでは前代の詩人の魂を謂う。 ・弔:人の安否を問う。いたむ。あわれむ。死者の遺族を見舞う。死者の霊を慰める。とむらう。 ・書客:文人。書生。読書人。また、書籍商。ここは、前者の意で、作者自身を指す。
※秋墳鬼唱鮑家詩:秋の墓場では、幽鬼が、鮑照の(死者を詠った)詩を唱(うた)って(くれているが)。 ・鬼:幽鬼。亡霊。幽霊。後世、現代・毛沢東は『七律 送瘟神 其一』一九五八年七月一日で「綠水靑山枉自多,華佗無奈小蟲何!千村薜茘人遺矢,萬戸蕭疏鬼唱歌。坐地日行八萬里,巡天遙看一千河。牛郞欲問瘟神事,一樣悲歡逐逝波。」とする。 ・鮑家:鮑照のこと。南朝宋の詩人。華麗な文才で、楽府に秀でた。前軍刑獄参軍事となったので鮑参軍とも呼ばれる
。
※恨血千年土中碧:恨みを抱いて死んだ者の血(=作者の血)は、千年経(た)てば、土の中の(血が変じてできた)碧玉(となっていることだろう)。 ・土中碧:土の中の(血が変じてできた)碧玉。萇弘の故事を指し、忠烈の士の殉難、流した血を謂う。碧血の故事に:周の萇弘が蜀で殺され、その血が三年後に(青色の)碧玉に変わったことに基づく。『莊子・外物』に「人主莫不欲其臣之忠,而忠未必信,故伍員流于江,萇弘死于蜀,藏其血三年而化爲碧。」とあり、北宋・曾鞏の『虞美人草』に「鴻門玉斗紛如雪,十萬降兵夜流血。咸陽宮殿三月紅,覇業已隨煙燼滅。剛強必死仁義王,陰陵失道非天亡。英雄本學萬人敵,何用屑屑悲紅粧。三軍散盡旌旗倒,玉帳佳人坐中老。香魂夜逐劍光飛,靑血化爲原上草。芳心寂莫寄寒枝,舊曲聞來似斂眉。哀怨徘徊愁不語,恰如初聽楚歌時。滔滔逝水流今古,漢楚興亡兩丘土。當年遺事久成空,慷慨樽前爲誰舞。」とあり、清末・秋瑾の『寶劍歌』に「炎帝世系傷中絶,茫茫國恨何時雪?世無平權祗強權,話到興亡眦欲裂。千金市得寶劍來,公理不恃恃赤鐵。死生一事付鴻毛,人生到此方英傑。饑時欲啖仇人頭,渇時欲飮匈奴血。侠骨崚嶒傲九州,不信大剛剛則折。血染斑斑已化碧,漢王誅暴由三尺。五胡亂晉南北分,衣冠文弱難辭責。君不見劍氣棱棱貫斗牛?胸中了了舊恩仇,鋒芒未露已驚世,養晦京華幾度秋。一匣深藏不露鋒,知音落落世難逢。空山一夜驚風雨,躍躍沈吟欲化龍。寶光閃閃驚四座,九天白日闇無色。按劍相顧讀史書,書中誤國多奸賊。中原忽化牧羊場,咄咄腥風吹禹城。除却干將與莫邪,世界伊誰開暗黑。斬盡妖魔百鬼藏,澄淸天下本天職。他年成敗利鈍不計較,但恃鐵血主義報祖國。」
とある。
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◎ 構成について
韻式は、「aaabbb」。韻脚は「苦素蠹 直客碧」で、平水韻上声七麌(苦)・去声七遇(素蠹)。入声十一陌(客碧)・入声十三職(直)。この作品の平仄は、次の通り。
○○○○●●●,(a韻)
○○●●○○●。(a韻)
○◎○●●○○,
●●○○●◎●。(a韻)
◎○○●○○●,(b韻)
●●○○●○●。(b韻)
○○●●●○○,
●●○○●○●。(b韻)
2015.9. 9 9.10 9.11 9.12 2016.2. 3完 |
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