韓愈題臨瀧寺　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Han Yu

題臨瀧寺
	唐・韓愈

不覺離家已五千，
仍將衰病入瀧船。
潮陽未到吾能説，
海氣昏昏水拍天。

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　　　　　　臨瀧寺(りんらうじ )に題す

覺(おぼ)えず　家を離(はな)れて　　已(すで)に五千，
仍(な)ほ衰病(すゐへい)を將(も)って　　　瀧船(らうせん)に入(い)る。
潮陽(てうやう)　未(いま)だ到(いた)らざるに　　吾(われ) 能(よ)く説(と)く：
海氣(かいき )　昏昏(こんこん)として　　水(みづ)　天(てん)を拍(う)つと。

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◎　私感註釈

※韓愈：中唐の文人、政治家。７６８年（大暦三年）～８２４年（長慶四年）。洛陽の西北西１００キロメートルの河陽（現・河南省孟県）の人。（『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）４４－４５ページ「唐　都畿道　河南道」）。字は退之。諡は文公。四六駢儷文を批判し、古文復興を倡えた。仏舎利が宮中に迎えられることに対して韓愈は、『論仏骨表』を帝（憲宗）に奉ったが、却って帝の逆鱗に触れ、潮州刺史に左遷された。その時の詩

。唐宋八大家の一人。

※題臨瀧寺：臨瀧寺（りんらうじ）を題にして詩を作る。＊『左遷至藍關示姪孫湘』「一封朝奏九重天，夕貶潮州路八千。欲爲聖明除弊事，肯將衰朽惜殘年。雲横秦嶺家何在，雪擁藍關馬不前。知汝遠來應有意，好收吾骨瘴江邊。」

を作った時のすぐ後の作品。　・題-：…を題にして詩を作る。　・臨瀧寺：不詳。語意は「急流に面した寺/役所」。

※不覚離家已五千：いつのまにか、故郷の自分の家を離れてから、すでに五千里となって。　・不覚：いつのまにか。知らず知らず。また、思わず。ここは、前者の意。　・離家：自分の家を離れる。故郷を離れる。　・已：とっくに。すでに。　・五千：ここでは、五千里となる、ことをいう。動詞的表現。

※仍将衰病入瀧船：その上に、衰え病んだ身で以て（（武夷山山脈？）の谷川の）急流を行く船に乗る。　・仍：〔じょう；reng2○〕なお。そのうえに。そこで。依然として。いまなお。やはり。　・将（＋名詞）：を。…を以て。≒以。≒（現代（中国）語の）把。【将＋名詞…】で、「『名詞』をもって…（する）」の意。　・衰病：（名詞）衰え病んだ身。前出・『左遷至藍關示姪孫湘』では「肯將衰朽惜殘年」

と表現する。　・瀧船：急流を行く船。　・瀧：〔らう；long2○〕急流。はやせ。

※潮陽未到吾能説：潮陽には、まだ着いていないが、わたしは（そこの情況を）よく言い表せる。（そこはきっと、「海氣昏昏として水天を拍つ」ようなさまなのだろう）。＊「潮陽未到吾能説：『海氣昏昏水拍天』。」で「潮陽には、まだ着いていないが、わたしは（そこの情況を）よく言い表せる。（そこは）『海氣昏昏として水天を拍つ』ようなさまになるだろう。　・潮陽：現・広東省にある地名。潮陽市。但し、現在では汕頭（スワトウ）市に属して、汕頭市潮陽区となる。『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社））６９－７０ページ「嶺南道東部」の潮州（州名）にある。蛇足になるが、潮州は州名としての外、市名としてもある。前出・『左遷至藍關示姪孫湘』に「一封朝奏九重天，夕貶潮州路八千。欲爲聖明除弊事，肯將衰朽惜殘年。雲横秦嶺家何在，雪擁藍關馬不前。知汝遠來應有意，好收吾骨瘴江邊。」

とある。　・能説：能弁である。口が達者である。　・説：〔せつ；shuo1●〕（声に出して）言う。話す。語る。　〔えつ；yue4●〕よろこぶ。＝悦。ここは前者の意で、「言う」。

※海気昏昏水拍天：海辺の霧を含んだ空気は暗くて、波が岸に打ち寄せて天に響いている（ことだろう）。＊後世、北宋・秦觀は『金山晩眺』で「西津江口月初弦，水氣昏昏上接天。淸渚白沙茫不辨，只應燈火是漁船。」

と使う。　・海気：海辺の空気。海の霧。　・昏昏：〔こんこん；hun1hun1○○〕暗いさま。また、愚かなさま。深く眠っているさま。頭がふらふらしているさま。ここは、前者の意。　・拍：波が岸に打ち寄せる。（掌で、軽く）たたく。はたく。（軽く）打つ。

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◎　構成について

韻式は「ＡＡＡ」。韻脚は「千船天」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○●●○，（韻）
○○○●●○○。（韻）
○○●●○○●，
●●○○●●○。（韻）

２０１９．３．１
　　　　　３．２