陸亀蒙憶白菊　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩　Lu Guimeng

憶白菊
	唐・陸龜蒙

稚子書傳白菊開，
西成相滯未容迴。
月明階下窗紗薄，
多少淸香透入來。

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白菊を憶ふ

稚子　書に傳ふ　　白(はく)菊(きく) 開くと，
西成(せいせい)　相(あ)ひ滯(とどこほ)りて　　未(いま)だ迴(かへ)るを容(い)れず。
月明(げつめい)　階下　　窗紗(さうさ) 薄ければ，
多少( たせう)の淸香(せいかう)　　透(とほ)りて入(い)り來(きた)る。

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◎　私感註釈

※陸亀蒙：唐の詩人、農学家。？～８８１年（中和元年）。字は魯望。号は天随子、江湖散人、甫里先生。姑蘇（現・江蘇省）の人。蘇州の名家の出で、湖州、蘇州刺史の幕僚をつとめた。その後、松江の甫里に隠棲して農耕に励み、開墾、農業の改良を行なった。

※憶白菊：白菊を思う。　・憶：思う。思い出す。

※稚子書伝白菊開：幼子（おさなご）から手紙が来て、言うには：「（自宅に）白菊が開いた」（とのことだった）。　・稚子：〔ちし；zhi4zi3●●〕おさなご。幼児。　・書：手紙。　・伝：つたえる。動詞。

※西成相滯未容回：（わたしは、）秋の収穫がとどこおってきて、（その滞在している現場）から帰れない。　・西成：秋に万物の実ること。五行説で、秋は西に該るから謂う。　・相滯：とどこおってくる、意。詩の後半で「透入来」とあるのに関わりがあるか。　・未容：ゆるす。ききいれる。いれる。　・回：かえる。（出て行った者がＵターンして）かえる。もどる。

※月明階下窓紗薄：（わたしのいる宿舎では、）月明りが階（きざはし）の辺りを照らし、窓にはるうすぎぬ（寒冷紗）が薄い（ので）。　・月明：つきあかり。　・階下：きざはしの辺り。　・階：石段。きざはし。　・窓紗：〔chuang1sha1○○〕窓にはるうすぎぬ（寒冷紗）。網戸の網。盛唐・劉方平の『夜月』に「更深月色半人家，北斗闌干南斗斜。今夜偏知春氣暖，蟲聲新透綠窗紗。」とあり、南宋・李清照の『攤破浣溪沙』に「病起蕭蕭兩鬢華，臥看殘月上窗紗。豆連梢煎熟水，莫分茶。枕上詩書閑處好，門前風景雨來佳。終日向人多蘊藉，木犀花。」とあり、南宋・楊萬里の『閒居初夏午睡起』に「梅子留酸軟齒牙，芭蕉分綠與窗紗。日長睡起無情思，閒看兒童捉柳花。」とある。

※多少清香透入来：少しの清香が、とおって入ってくる（ので、自宅の菊が思い起こされる）。　・多少：いくばくかの。多くの。少しの。　・清香：清らかな香り。　・透入来：とおって入ってくる、意。　・透：すく。とおる。通過させる。

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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡ」。韻脚は「開回來」で、平水韻上平十灰。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○●●○，（韻）
○○○●●○○。（韻）
●○○●○○●，
○●○○●●○。（韻）