![]() |
![]() |
|
![]() |
||
櫻井邨看梅花側有待宵小侍從墳 | ||
藤井竹外 |
||
美人曾此葬冰肌, 化作寒梅南北枝。 一脈香魂誰喚返, 春風竹外雪消時。 |
美人曾 て此 に冰肌 を葬 り,
化 して 寒梅 南北の枝と作 る。
一脈の香魂 誰 か喚 び返す,
春風 竹外 雪の消 ずる時。
*****************
◎ 私感註釈
※藤井竹外:江戸末期の漢詩人。高槻藩の家臣。文化四年(1807年)~慶応二年(1866年)名は啓。字は士開。摂津国(大阪府)の人。頼山陽に学ぶ。
※桜井邨看梅花 側有待宵小侍従墳:桜井の村で梅花を看る。傍らに待宵小侍従(まつよいのこじじゅう)の土を盛り上げて造った墓があった。 ・桜井邨:桜井の村。桜井駅のこと。桜井の宿駅。西国街道の桜井の駅(摂津国島上郡桜井村(現・大阪府三島郡島本町桜井)に置かれた大原駅)で、楠木正成が、子の正行(まさつら)と訣別した場所。桜井の駅で別れた後、正成は多勢に無勢を知りつつ、湊川の戦いに赴いて戦死し、この別れが父子の今生の別れとなった。桜井の駅の別れ、桜井の訣別とも言う。河野天籟の『大楠公』に「赤坂之城千早屯,妖雲漠漠捲天臻。夢新笠置山頭曉,花散香薰芳野春。呑涙別兒櫻井驛,笑而就死湊川津。南風不競雖塗地,偉績長傳忠烈神。」とある。 ・邨=村。 ・待宵小侍従:平安末~鎌倉初期の有名な女流歌人。晩年は桜井に隠棲したという。 ・墳:土を盛り上げて造った墓。
※美人曽此葬氷肌:美しい女官(=待宵小侍従)が、以前にここで、美しい肌を葬(られ)たことがあり。 ・美人:美しい女性。女官の称号。 ・曽此-:以前に…たことがある。かつてここに…。の意。 ・氷肌:〔ひょうき;bing1ji1○○〕清らかなはだ。雪の肌。美女の白い肌。
※化作寒梅南北枝:(その美女の霊魂は、)寒中の梅の南北の枝となった。 ・化作-:…に変わる。…になる。…となる。この語、平仄上の都合によっては「化爲」ともする場合がある。南宋・文天祥の『金陵驛』に「草合離宮轉夕暉,孤雲飄泊復何依。山河風景元無異,城郭人民半已非。滿地蘆花和我老,舊家燕子傍誰飛。從今別卻江南路,化作啼鵑帶血歸。」とあり、『搜神後記』卷一に「丁令威,本遼東人,學道於靈虚山。後化鶴歸遼,集城門華表柱。」とある。 ・寒梅:寒中の梅。
※一脈香魂誰喚返:一すじの美女の魂(=梅の花)を、(一体、)誰が呼び返すのか。 ・一脈:一つの血統。 ・香魂:〔かうこん;xiang1hun1○○〕美人の魂。また、花の精。ここは、前者の意。中唐・李賀の『秋來』に「桐風驚心壯士苦,衰燈絡緯啼寒素。誰看青簡一編書,不遣花蟲粉空蠹。思牽今夜腸應直,雨冷香魂弔書客。秋墳鬼唱鮑家詩,恨血千年土中碧。」とある。北宋・曾鞏の『虞美人草』に「鴻門玉斗紛如雪,十萬降兵夜流血。咸陽宮殿三月紅,覇業已隨煙燼滅。剛強必死仁義王,陰陵失道非天亡。英雄本學萬人敵,何用屑屑悲紅粧。三軍散盡旌旗倒,玉帳佳人坐中老。香魂夜逐劍光飛,靑血化爲原上草。芳心寂莫寄寒枝,舊曲聞來似斂眉。哀怨徘徊愁不語,恰如初聽楚歌時。滔滔逝水流今古,漢楚興亡兩丘土。當年遺事久成空,慷慨樽前爲誰舞。」
とある。 ・誰:だれがいったい…か。 ・喚返:呼び返す。
※春風竹外雪消時:(それは、)春風(はるかぜ)(であって)、竹の傍(かたわ)らの雪を溶かす時である。=春風の暖かさが、美女の魂である梅の花を咲かすことができる。 ・竹外:竹の傍ら。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「肌枝時」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
●●○○○●○。(韻)
●●○○○●●,
○○●●●○○。(韻)
令和元.10.1 |
![]() トップ |