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題畫 | |
元・薩都剌 |
綠樹陰藏野寺,
白雲影落溪船。
遮卻靑山一半,
只疑僧舍茶煙。
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畫に題す
綠樹陰 に野寺 を藏 し,
白雲影 は溪船 に落とす。
青山の一半を遮卻 するは,
只 だ 僧舍の茶煙 かと疑ふ。
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◎ 私感註釈
※薩都剌:〔さつとら(さっとら);Sa4du1la4〕元代の詩人。1305年頃~1355年頃。字は天錫(てんせき)、別号は直斎。西域の色目人・答失蛮(タシマン)氏(回教徒)の一族。書画に巧みで、詩詞に長じた。泰定帝イェスン・テムルの治世に実施された科挙に及第し、進士となるが、元末の混乱が激しくなると官界を退き、杭州に隠棲した。なお、「薩都剌」の「剌」〔らつ;la4〕字に注意。「刺」〔し(せき);ci4〕ではない。「薩都剌」の名前について、『中国大百科全書・中国文学Ⅱ』(673ページ 中国大百科全書出版社1986年北京・上海)では「薩都剌:Sadula」となっている。(なお、『中国大百科全書』での姓名のピンイン(=ローマ字)表記では、例えば「田漢」は「Tian Han」と、姓と名のはじめの一字を大文字としている)。「薩都剌」では、姓・名という扱いにはなっていない。蛇足になるが、現代(中国)語(=普通話)では「薩都剌」〔Sa4du1la4〕は「サードゥーラー」「サドゥラ」に近い音で言う。
※題画:絵に対して詩を作る。 *六言詩。節奏は「□□・□□・□□」となっている。 ・題:(…についての)詩文を作る。 ・画:ここでは、作者自身が描いた絵画のこと。「緑」「白」「青」と視覚に訴えてくる表現である。
※緑樹陰蔵野寺:緑の木の日陰(ひかげ)に、野の中にある寺がかくれていて。 *対句表現。 ・陰:かげ。日の当たらない場所。日陰。なお、後出・「影」は読みは同じ「かげ」でも、光りが遮られて出来る黒い形、かげぼうし、水面などに映る像の意。 ・蔵:〔ざう;cang2○〕隠(かく)す。隠れる。ひそむ。動詞。 ・野寺:野中にある寺。
※白雲影落渓船:白い雲が谷川の船に影を落としている。 ・白雲:白い雲。俗世間を超越したことを暗示する語でもある。唐の王維の『送別』「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」や、唐・杜牧の『山行』「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」
また、崔顥(さいかう:cui1hao4)の七律『黄鶴樓』「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹,芳草萋萋鸚鵡州。日暮鄕關何處是,煙波江上使人愁。」
、漢の武帝・劉徹の樂府『秋風辭』「秋風起兮白雲飛,草木黄落兮雁南歸。蘭有秀兮菊有芳,懷佳人兮不能忘。汎樓船兮濟汾河,橫中流兮揚素波。簫鼓鳴兮發櫂歌,歡樂極兮哀情多。少壯幾時兮奈老何。」
がある。また、「白雲」の語はなく「雲」だけになるが、晉・陶淵明の『歸去來兮辭』の「歸去來兮,田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役,奚惆悵而獨悲。悟已往之不諫,知來者之可追。實迷途其未遠,覺今是而昨非。舟遙遙以輕
,風飄飄而吹衣。問征夫以前路,恨晨光之熹微。乃瞻衡宇,載欣載奔。僮僕歡迎,稚子候門。三逕就荒,松菊猶存。攜幼入室,有酒盈樽。引壺觴以自酌,眄庭柯以怡顏。倚南窗以寄傲,審容膝之易安。園日渉以成趣,門雖設而常關。策扶老以流憩,時矯首而游觀。雲無心以出岫,鳥倦飛而知還。景翳翳以將入,撫孤松而盤桓。歸去來兮,請息交以絶遊。世與我以相遺,復駕言兮焉求。悅親戚之情話,樂琴書以消憂。農人告余以春及,將有事於西疇。或命巾車,或棹孤舟。既窈窕以尋壑,亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮,泉涓涓而始流。羨萬物之得時,感吾生之行休。已矣乎,寓形宇内復幾時。曷不委心任去留,胡爲遑遑欲何之。富貴非吾願,帝鄕不可期。懷良辰以孤往,或植杖而耘
。登東皋以舒嘯,臨淸流而賦詩。聊乘化以歸盡,樂夫天命復奚疑。」
や、唐の賈島『尋隱者不遇』「松下問童子,言師採藥去。只在此山中,雲深不知處。」
がある。 ・影落:影を落とす。前出・「陰」との違いに注意。 ・影:かげ。光りが遮られて出来る黒い形。かげぼうし。水面などに映る像。 ・渓船:谷川の船。
※遮却青山一半:青い山の半分を遮ってしまっている(のは)。 ・遮却:遮ってしまう。 ・-却:動詞の後に附けて、「…してしまう」のおもむきを示し、強調する。…し終わる。…してしまう。…し去る。…し捨てる。 ・一半:半分。
※只疑僧舎茶煙:僧房からの茶をわかすときに立ちのぼる煙なのだろうかと、疑いをかけてしまった。 ・疑:疑う。疑いをかける。盛唐・李白の『望廬山瀑布』に「日照香爐生紫煙,遙看瀑布挂前川。飛流直下三千尺,疑是銀河落九天。」とあり、同・李白の『靜夜思』に「床前明月光,疑是地上霜。舉頭望明月,低頭思故鄕。」
とあり、中唐・白居易の『逢舊』に「久別偶相逢,倶疑是夢中。即今歡樂事,放盞又成空。」
とある。 ・僧舎:僧侶の住む建物。僧房。 ・茶煙:〔さえん;cha2yan1○○〕茶をわかすけむり。晩唐・杜牧の『題禪院』に「船一棹百分空,十歳青春不負公。今日鬢絲禪榻畔,茶煙輕落花風。」
とあり、南宋・陸游の『漁家傲』寄仲高に「東望山陰何處是?往來一万三千里。寫得家書空滿紙!流淸涙,書回已是明年事。 寄語紅橋橋下水,扁舟何日尋兄弟?行遍天涯眞老矣!愁無寐,鬢絲幾縷茶煙裏。」
とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「船煙」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●,
●○●●○○。(韻)
○●○○●●,
●○○●○○。(韻)
2012.6.27 |
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