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送王道士還京 | |
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唐・賈至 |
一片仙雲入帝鄕,
數聲秋雁至衡陽。
借問清都舊花月,
豈知遷客泣瀟湘。
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王道士の京に還 るを送る
一片の仙雲 帝郷 に入 り,
數聲の秋雁 衡陽 に至る。
借問 す清都 の舊花月 ,
豈 知らんや遷客 の瀟湘 に泣くを。
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◎ 私感註釈
※賈至:盛唐の詩人。718年(開元六年)~772年(大暦七年)。字は幼幾。洛陽の人。安史の乱には、玄宗に従つて蜀に避れる。
※送王道士還京:王道士が都へ帰るのを見送って。 ・送:見送る。送別の意で、旅立つ人に惜別(の意を表わすために暫(しば)し同行し、宴席を設けて詩の贈答を)する。 ・道士:道義を身につけた人。占い・まじないや医術に秀でた人。道教の僧。仏教の僧。 ・還京:帰京する。都へ帰る。みやこへもどる。
※一片仙雲入帝郷:ひとひらの仙人の乗っている雲が、仙人・天帝の都(実際は首都・長安)へ入っていき。*王道士は北方の長安に向かって帰っていき、ということ。 ・一片:ひとひら。ひときれ。 ・仙雲:仙人の乗っている雲。仙境にかかる雲。 ・帝鄕:〔ていきゃう;di4xiang1●○〕仙人が住んでいると想像される地。仙郷。仙境。また、天帝のおいでになる都、天帝の都。ここは、表面的には両者の意を兼ね備え、実質的には、帝都・長安を指す。『莊子・外篇』「天地 第十二」に、「天下有道,則與物皆昌。天下無道,則修德就閒。千歳厭世,去而上僊,乘彼白雲,至於帝鄕。」に因る。ただし、『莊子』の意は後者。前者の意では、陶淵明の『歸去來兮辭』に「歸去來兮,田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役,奚惆悵而獨悲。悟已往之不諫,知來者之可追。實迷途其未遠,覺今是而昨非。舟遙遙以輕颺,風飄飄而吹衣。問征夫以前路,恨晨光之熹微。乃瞻衡宇,載欣載奔。僮僕歡迎,稚子候門。三逕就荒,松菊猶存。攜幼入室,有酒盈樽。引壺觴以自酌,眄庭柯以怡顏。倚南窗以寄傲,審容膝之易安。園日渉以成趣,門雖設而常關。策扶老以流憩,時矯首而游觀。雲無心以出岫,鳥倦飛而知還。景翳翳以將入,撫孤松而盤桓。歸去來兮,請息交以絶遊。世與我以相遺,復駕言兮焉求。悅親戚之情話,樂琴書以消憂。農人告余以春及,將有事於西疇。或命巾車,或棹孤舟。既窈窕以尋壑,亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮,泉涓涓而始流。羨萬物之得時,感吾生之行休。已矣乎,寓形宇内復幾時。曷不委心任去留,胡爲遑遑欲何之。富貴非吾願,帝鄕不可期。懷良辰以孤往,或植杖而耘耔。登東皋以舒嘯,臨淸流而賦詩。聊乘化以歸盡,樂夫天命復奚疑。」とある。
※数声秋雁至衡陽:幾声か鳴いている秋(になって南方に渡ってゆく))雁は、(越冬地の)衡陽に辿り着いた。 *北に帰る王道士とは逆に、雁は北方からここ南方の地にやって来た。「一片仙雲入帝郷」「数声秋雁至衡陽」は対句。 ・秋雁:秋になって、南方(の衡陽の回雁峰)に渡ってゆく雁。盛唐・王維の『使至塞上』に「單車欲問邊,屬國過居延。征蓬出漢塞,歸雁入胡天。大漠孤煙直,長河落日圓。蕭關逢候騎,都護在燕然。」とあり、中唐・錢起の『歸雁』に「瀟湘何事等閒回,水碧沙明兩岸苔。二十五弦彈夜月,不勝淸怨卻飛來。」
とある。 ・雁:「雁信」のことば通り、「雁」は「便り、通信」を暗示する言葉でもある。 ・衡陽:〔かうやう;Heng2yang2○○〕地名で雁の南下する先の地とされたところ。現・湖南省衡陽で、中国の南部に該る。衡陽の街の南に回雁峰があり、雁が北方からここへ飛んできて、回雁峰の北側の湘江下流で冬を過ごし、冬が過ぎれば再び北へ帰ってゆくと信じられた。北宋・范仲淹の『漁家傲』に「塞下秋來風景異,衡陽雁去無留意。四面邊聲連角起。千嶂裡,長煙落日孤城閉。」
とあり、明・王恭は『春雁』で「春風一夜到衡陽,楚水燕山萬里長。莫怪春來便歸去,江南雖好是他鄕。」
と使う。
※借問清都旧花月:(「雁信」と言われる雁よ、)試みにたずねるが、帝王の住む都(実際は長安を謂う)の昔馴染みである(都の)花や(都の)月は。 ・借問:〔しゃもん;jie4wen4●●〕少しお尋ねするが。たずねる。試みに問う。魏・曹植の『白馬篇』の「白馬飾金羈,連翩西北馳。借問誰家子,幽并遊侠兒。少小去鄕,揚聲沙漠垂。宿昔秉良弓,矢何參差。」
とあり、東晉・陶潛の『歸園田居』五首の其四に「久去山澤游,浪莽林野娯。試攜子姪輩,披榛歩荒墟。徘徊丘壟間,依依昔人居。井竈有遺處,桑竹殘朽株。借問採薪者,此人皆焉如。薪者向我言,死沒無復餘。一世異朝市,此語眞不虚。人生似幻化,終當歸空無。」
とあり、李白の『清平調』に「一枝紅艷露凝香,雲雨巫山枉斷腸。借問漢宮誰得似,可憐飛燕倚新粧。」
とあり、晩唐・杜牧の『淸明』に「淸明時節雨紛紛,路上行人欲斷魂。借問酒家何處有,牧童遙指杏花村。」
とある。 ・清都:帝王の住む都。また、神話の中での天帝が住む宮殿。ここは、前者の意。 ・旧:昔の。 ・花月:花と月。美しいものの代表。花を照らす月。
※豈知遷客泣瀟湘:(都の花や月は、)流謫の人(=わたし・作者)が南方の地・瀟湘で涙を流していることを知っているのだろうか。 ・豈:どうして…か。あに…や。反語。語調を強める働きがある。 ・遷客:〔せんかく;qian1ke4○●〕罪によって遠方に流された人。左遷された人。ここでは、汝州刺史として、また岳州司馬として、これら南方に配流されていた作者自身のことになる。 ・泣:(涙を流して)泣く。 ・瀟湘:〔せうしゃう;Xiao1Xiang2○○〕瀟水と湘水。湖南省(旧国名・湘)を流れ、洞庭湖に注ぐ大河。ここでは衡陽の回雁峰の北側の湘江をも指し、作者の居た場所。遥か南方の地(湖南省(=旧国名・湘))を概括して謂う。(六朝までの詩では)湘水のこと。「清らかな湘江」の意。なお、現在、湘水は“湘江”という。また、湘君をも謂う。舜帝が蒼梧(現・江西省蒼梧)で崩じた時に、娥皇と女英の后妃は深く嘆き悲しみ、舜帝を慕って湘水に身を投じて、川の神(湘君、湘靈、湘神)となったこと。初唐・張若虚の『春江花月夜』「斜月沈沈藏海霧,碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸,落月搖情滿江樹。」にあり、中唐・劉禹錫の『瀟湘神』に「斑竹枝,斑竹枝,涙痕點點寄相思。楚客欲聽瑤瑟怨,瀟湘深夜月明時。」
とあり、中唐・錢起の『歸雁』に「瀟湘何事等閒回,水碧沙明兩岸苔。二十五弦彈夜月,不勝淸怨卻飛來。」
とあり、晩唐・温庭筠は『瑤瑟怨』で「冰簟銀床夢不成,碧天如水夜雲輕。雁聲遠過瀟湘去,十二樓中月自明。」
と使う。初唐・張若虚の『春江花月夜』で言えば「春江潮水連海平,海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里,何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸,月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛,汀上白沙看不見。江天一色無纖塵,皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月,江月何年初照人。人生代代無窮已,江月年年祗相似。不知江月待何人,但見長江送流水。白雲一片去悠悠,青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子,何處相思明月樓。可憐樓上月裴回,應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去,擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞,願逐月華流照君。鴻雁長飛光不度,魚龍潛躍水成文。昨夜閒潭夢落花,可憐春半不還家。江水流春去欲盡,江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧,碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸,落月搖情滿江樹。」
とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「郷陽湘」で、平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
●●○○●○●,
●○○●●○○。(韻)
2012.3.14 3.15 |
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