40歳~からの読書回帰


第61回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント




 
その女アレックス

死のドレスを花婿に

ピエール・ルメートル

文藝春秋 929円(込)

文藝春秋 853円(込)

 
978-4-16-790196-7
978-4-16-790356-5

 
 

 去年の秋に出版されて以来、各文学賞総なめ 数えること6冠!!達成。その勢いでかつて柏書房から出版されていた「死のドレスを花婿に」も文春より文庫化されました。全くの別シリーズですが筆致は訳者の違いこそあれ、裏切らないでしょう。表題の女性アレックスが、表紙のように何者かに拉致監禁されます。彼女とその足取りを追う警部カミーユの、二つの視点がカットバックしていくテンポの良い展開とびっくり結末は、後半の“イヤミス”と言われ賛否の分かれた内容を凌駕します。日本でいえば「中町 信」の作風あたりでしょうか。6冠制覇(2015/4~現在7冠目追加!)…にひかれた方は、読書回帰のきっかけにして下さい。





















第62回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント




 
桑港特急

山本一力

文藝春秋 1,782円(込)

 
978-4-16-390195-4
 

 クワコー”と読めるが、奥泉光の桑潟准教授のあだ名ではない。“ソーコー”サンフランシスコの漢字あてです。時代小説中心の著者が少しだけ変化球、ゴールドラッシュのアメリカに渡った兄弟の冒険活劇。自身のベストセラー「ジョン・マン」こと長浜万次郎も絡んできます。ぶ厚いが大丈夫!ト書きが多いのとテンポのよい展開でツイーと読めます。悪漢はどこまでも悪く、兄弟は成功を夢見て奔走し、ときに故郷を思い出します。フロンティア・フォーティーナイナー・西部劇…ピンとくるようであればここから読書を始めて下さい。「~ローラ」「モヒカン族の最後」「ジェロニモ」に行くもよし


















第63回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント




 
メディアはマッサージである

マーシャル・マクルーハン

河出書房新社 918円(込)

 
978-4-309-46406-0

 

 発売後 何年か経っても気の利いた人に必ず売れた 95年発行の書籍の、新訳文庫化。なんせインターネットなんぞ、小説の中(W・ギブソン!)でしか存在しなかった時代の1987年、このジャンルの予言の書ともいえる「メディア論」にて一世を風靡した著者の名著だから。多様なフォント・ポップな校正デザイン・テクストと写真・反転し連続する印刷の書籍になにを見出すか…「メディアはマッサージでありコミュニケーションの手段である」とするこの教授の“メッセージ”に現代の感性は追いついたのか、「ネット」なるものの可能性は いま読み返しても色褪せないこのアナログテキストを超えられるのか。はたまた別の方向へ向かっていくのか、…のか の羅列の答えを感じて下さい。



















第64回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント




 
旅のラゴス

筒井康孝

新潮社 529円(込)

 
9978-4-10-117131-9

 

 初版は86年・徳間書店。改訂・改版・改出版社()にて現在に至る…なぜならば巷で絶好調だから!というア〇ゾンの策に乗っかってみた次第です。筒井といえば「農協 月へ行く」などの山藤章二の表紙シリーズや「七瀬ふたたび」「時をかける少女」などのひねったSF・ジュブナイルがすぐに思い浮かびます。本作はバッサリいえば、主人公ラゴスが旅に出て行って帰って来る話です。がそこは筒井節、奴隷になり学者になり、さらに生涯をかけて旅を続けるラゴスの一生を、散りばめられた物語のなかを泳ぐように追体験できます。このプチ大河ドラマ的展開が受けている理由でしょうか。読み応え有り!はずし無し!!


















第65回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント




 
戦艦武蔵

吉村昭

新潮社 562円(込)

 
978-4-10-111701-0
 

 

 “零式戦闘機”、“陸奥爆沈”などとならぶ吉村昭の記録文学シリーズ。戦後70年目の今年、各出版社が関連本を出版し、戦争関係既刊本の紹介も頻繁になってきています。そんな中での武蔵の発見は、因縁めいたものを感じさせます。兵器の主力が、航空機に取って代わろうとしていた時期に出てきたゆがんだ野望の具現化、ひいては戦争という狂気の仇花を 今一度世に問うために“発見させた”のかもしれません。さて圧倒的取材量からなる本書は、エモーショナルな部分や右・左という思想的なスタンスもない、ノンフィクション・戦記というよりも前述のように「記録文学」という表現がぴったりなので構えずに入っていけます。夏までに一丁読んでおいてください。



















第66回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント




 
ジェームズボンドは来ない

松岡圭祐

角川書店 1,512円(込)

 
978-4-04-110719-5
 

 

 .フレミング亡き後の007小説“赤い刺青の男”に、アートと猫で有名な直島を舞台にした場面が出てくるということで映画の誘致に奔走するという実話をもとに、ミステリーの雄 松岡圭介が仕上げた町おこしの青春小説。岡崎・康生も多分に漏れず地域を盛り上げる必要に迫られているというところで参考になるかも。有名人やメジャーどころ、巨大SCによるのではなく 住んでいる人たちの熱意と発想で、地域なりの発展と活性化を支えましょう…で読書するきっかけはこんなところにも転がっています。はたしてボンドは来るのか?! タイトル通り来ないのか?! .コネリーがボンドのイメージですが引退して来られないので、D.クレイグに来てっ!!



















第67回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント




 
光る牙

吉村龍一

講談社 637円(込)

 
978-4-06-293062-8
 

 

 マタギ小説というよりは動物パニック-「ジョーズ」に近いか。~が野生の動物が、無差別に捕食のために猛威を振るうのではない。エサを求めて・子を守るため…環境破壊も含め人の手が要因の多くを占める場合が多いのも現状。より自然に近い存在がはなつ畏敬と畏怖とに、相対峙したとき人はどうするのか、どうすることもできないのか。同ジャンルでは、吉村昭「羆嵐」・増田俊也「シャトゥーン ヒグマの森」・熊谷達也「剋の森」などを。内容的には消息を絶ったカメラマン、手負いの羆、通常よりも大きいサイズの「シロイクマ」というより灰色熊:グリズリークラスの羆が半分あたりからご登場、死闘など、わりと普通に展開ですが 山岳冒険小説としても可な内容です。脱走未遂で謹慎中の、東山マレーグマのマーチンくんへ(>_<)



















第68回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント




 
怪奇恋愛作戦

ケラリーノ・サンドロビッチ

小学館 616円(込)

 
978-4-09-406112-3
 

 ケラリーノ・サンドロビッチである。テレ東の深夜枠にふさわしい()みょーなドラマのノベライズ。オダギリジョー主演「時効警察」の時もそうだった。タイトル元ネタSRSの「怪奇大作戦」ばりにぞぞっとする怪奇現象に、アラフォー3人が翻弄されるラブコメ。夜中ぼーっと見ていて にやりとされた方へ、文章もありますよ気が向いたら読んでもいいんじゃ?という珍しく控えめでとても失礼!!なおすすめの理由は…映像の方が圧倒的に面白かったりする監督だからでした。いや当コーナーの趣旨に反してます、ちょっと反省。


















第69回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント




 
しずかな日々

椰月美智子

講談社 535円(込)

 
978-4-06-276677-7
 

 

 「…人生は劇的ではない。ぼくはこれからも生きていく」これからも続く通過点にすぎない。父は幼いころに死別、故有って母と離れ、じいちゃんと夏休みを過ごすことになった主人公“えだいち”少年。子供が受け止めがたい境遇と、自身の引っ込み思案な性格がどうなっていくのか。表題通りしずかな日々の中に、その人生のターニングポイントとなる5年生の夏がある。なにかがに起こるわけでもなく、逆に言えばなにも無い。当たり前のような日常が流れ、自分以外の人間が様々な考えや思いを持っていることを感じる。じいちゃんとのやりとり・活発な友達たち・花火・空き地の野球・自由研究・母親との再会などノスタルジーに陥りがちな描写のなかで、ただしずかにしずかに感じていくのだ。よくある懐かしいねジュブナイルだね前向きに終わるね な小説では、北上次郎が絶賛しない。たしかにイイ!外に逃げていくスライダーのような(-_-;)小説で再び読書し始めてみては。


























第70回タイトル・著者・出版社・税込・ISBN コメント




 
海と毒薬

遠藤周作

新潮・講談・角川書店  391~484円(込)

 
978-4-10-112302-8
978-4-04-124525-5
978-4-06-276925-9

 

 

 大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件をもとにした小説で、御存知 狐狸庵先生の有名作。読書感想文の季節になると、書きやすい題材でもないのにちょいちょいと目にしますね。医者の卵クンたちは上司と自分たちの行為を、戦争だから医学の進歩だからみんなに知られていないから…受け入れます。が良心の呵責どころか世に対して無感動であり、自分に対しても何も感じない自分たちこそが恐怖であると。ただの断罪小説でもセンセーショナル小説だけでもない、読んでいるとイラっときて その実“オマエモカカワリタクナイニホンジンダロウ”と言われているようで、「回帰」で読書し始めたときより「再読」することで少し印象が変わるかもしれません。何度でも読んでみて下さい。























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