<簡易案内板>ダンジョンマップ書庫案内所書名インデックス著者別インデックス

前ページへ次ページへ

イクシーの書庫・過去ログ(2005年5月〜6月)

<オススメ度>の解説
 ※あくまで○にの主観に基づいたものです。
☆☆☆☆☆:絶対のお勧め品。必読!!☆☆:お金と時間に余裕があれば
☆☆☆☆:読んで損はありません:読むのはお金と時間のムダです
☆☆☆:まあまあの水準作:問題外(怒)


オブザーバーの鏡 (SF)
(エドガー・パングボーン / 創元SF文庫 2001)

タイトルだけはずっと昔から知っていて、ようやく復刊フェアで入手した1冊。
書かれたのが1955年ですから、半世紀前の作品ですが、同年の国際幻想文学賞(ちなみに「指輪物語」も受賞しています)受賞作。
地球には、はるか昔から火星人が移住して来ており、地球人に混じって暮らしていました。外見を人間と変わらない姿に変えられる火星人ですが、心臓の鼓動が1分で1拍、微妙な芳香を放ちます。かれらは3万年前から地球人類を見守ってきました(つまり、それがタイトルになっている「オブザーバー」)。いつかは地球人が火星人と同じレベルに達して共に暮らせる日が来るまで、ごくわずかな必要最低限の干渉だけをして、人類が滅亡するような運命に陥るのを防いでいたのです。
しかし、火星人の中にも人類は悪だから滅ぼすべきだという思想を持つ一派がいました。そのひとりナミールを追って、「オブザーバー」のエルミスが派遣されます。ナミールはどうやら、12歳の天才少年アンジェロに影響を与え、カリスマ的な指導者に祭り上げて人類を滅亡へ導こうとしているようでした。エルミスはマイルスと名を変えて、アンジェロの家に寄宿します。アンジェロ母子やピアニストを夢見る少女シャロン、不良少年のリーダー、ビリーなどと知り合いながら、ナミールとその息子の動向を探るマイルス。しかし、ナミール親子の策謀によりアンジェロは行方不明となり、警察の追及を逃れるためにマイルスも身を隠さねばならなくなります。
それから9年、マイルスは名前と顔を変えて、ナミール親子を追跡していました。一流ピアニストとしてデビューを果たしたシャロンと再会したマイルスは、とある革新政党の後援者の中にナミールの影を見出します。アンジェロに想いを寄せるシャロンと共に、アンジェロを救い出そうとしますが、その政党の党首は恐るべき陰謀を計画していました。
後半は、描きようによっては凄絶なディザスター小説にもなったはずですが、物語はあくまで淡々と進みます。ネビル・シュートの「渚にて」やオールディスの「グレイベアド」などと同じような穏やかな筆致で、滅亡に瀕した人類と、その悲劇的な状況で生き抜くアンジェロやシャロンの姿が描かれ、「人間も捨てたもんじゃない」というさわやかな気持ちにさせてくれます。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.5.3


封印再度 (ミステリ)
(森 博嗣 / 講談社文庫 2001)

犀川&萌絵シリーズの第5巻。
第1巻以来の登場となる、犀川の姉・儀同世津子が萌絵に紹介したパズル。それは、壺の中に入っていて出すことができない鍵と、その鍵を使わなければ開けることができない匣でした。その壺と匣が伝えられているのは、岐阜県にある旧家・香山家で、戦後すぐに仏画家の当主・風采が密室状態の蔵で変死体となって発見されているという曰くつきの屋敷でした。
匣と壺に興味を抱いた萌絵は、建築学科の先輩のコネを使って香山家を訪れますが、その直後、香山家当主の林水(風采の息子)が、父親と同じ状況で変死します。犯行場所は蔵の中と思われるのに、遺体は近くの河原で発見されます。同じ頃、里帰りした娘で漫画家のマリモ(世津子のパズル友だち)が事故を起こして病院へ運ばれていました。
風采の時と同様、現場に残されていた壺と匣に秘められた謎とは何か――?
第1作から2年の月日が流れ、犀川と萌絵の関係にも、劇的とは言えないまでも明らかに変化が出てきたようです。今回は、事件の謎解きよりもこちらの方が興味しんしんでした(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2005.5.4


インスマス年代記(上・下)  (ホラー:アンソロジー)
(スティーヴァン・ジョーンズ:編 / 学研M文庫 2001)

H・P・ラヴクラフトが創造し、後続の作家たちが現代も連綿と書き継いでいる暗黒の神話『クトゥルー神話』。『クトゥルー神話』とラヴクラフトに関するアンソロジーはいくつも編纂されています。「ラヴクラフトの遺産」(創元推理文庫)、「クトゥルー怪異録」(学研M文庫 未読)、「秘神界」(創元推理文庫 未読)など、いろいろありますが、この「インスマス年代記」は、ラヴクラフトの代表作のひとつ「インスマスを覆う影」を原典とし、そこに登場するさびれた港町インスマスと不気味な住民、沖合いに潜む“深きものども”にまつわる物語に絞って編まれた異色のアンソロジーと言えます。
原典「インスマスを覆う影」を含む17編は、書下ろしと再録が交じっていますが、原典の時代の直後から第二次大戦中、80年代〜90年代、そして現代(近未来?)まで時系列順に並べられています。 作者は、初めて読む人から、R・キャンベル、B・ステイブルフォード、キム・ニューマン、B・ラムレイといった大物まで揃っていますが、その分、玉石混交という感じ。(余談ですが、ジャック・ヨーヴィルとキム・ニューマンって、同一人物のペンネームじゃありませんでしたっけ? 作者紹介ではまったくの別人として扱われていますが)
原典の設定と雰囲気をそのまま生かして描いた「暗礁の彼方へ」(ベイザル・カパー)、チャンドラーばりのハードボイルドとクトゥルー神話を融合させた「大物」(ジャック・ヨーヴィル)、巨匠のデビュー作でもある「ハイ・ストリートの教会」(ラムジイ・キャンベル)、アイルランド神話をクトゥルー神話と結びつけた「ダオイネ・ドムハイン」(ピーター・トレマイン)、正統派オカルト探偵もの「プリスクスの墓」(ブライアン・ムーニイ)、インスマウスの住民の異変を遺伝学的に解釈しようとする「インスマスの遺産」(B・ステイブルフォード)、東欧の民主化革命を背景にした異色作「帰郷」(ニコラス・ロイル」、現代らしくパソコンネットによって蔓延する恐怖「ディープネット」(デイヴィッド・ラングフォード)、「タイタス・クロウ」の作者が重厚に描く本格編「ダゴンの鐘」(ブライアン・ラムレイ)、ポピュラーな伝説の怪物と“深きものども”が対決する「世界の終わり」(ニール・ゲイマン)など。

<収録作品と作者>上巻:「インスマスを覆う影」(H・P・ラヴクラフト)、「暗礁の彼方に」(ベイザル・カパー)、「大物」(ジャック・ヨーヴィル)、「インスマスに帰る」(ガイ・N・スミス)、「横断」(エイドリアン・コール)、「長靴」(D・F・ルーイス)、「ハイ・ストリートの教会」(ラムジイ・キャンベル)、「インスマスの黄金」(デイヴィッド・サットン)
下巻:「ダオイネ・ドムハイン」(ピーター・トレマイン)、「三時十五分前」(キム・ニューマン)、「プリスクスの墓」(ブライアン・ムーニイ)、「インスマスの遺産」(ブライアン・ステイブルフォード)、「帰郷」(ニコラス・ロイル)、「ディープネット」(デイヴィッド・ラングフォード)、「海を見る」(マイケル・マーシャル・スミス)、「ダゴンの鐘」(ブライアン・ラムレイ)、「世界の終わり」(ニール・ゲイマン)

オススメ度:☆☆☆

2005.5.8


探偵小説の世紀(上・下) (ミステリ:アンソロジー)
(G・K・チェスタトン:編 / 創元推理文庫 2001)

ブラウン神父ものの短篇で有名な英国ミステリ黄金時代の重鎮、G・K・チェスタトンが編纂した、20世紀前半(第二次大戦前)の短篇ミステリの精髄を集めた大アンソロジーです。1983〜5年に初版が出たきりになっていましたが(実は当時は読書傾向がミステリから離れていたので、チェックしていませんでした)、2001年の復刊フェアでめでたく入手できました。創元さんありがとう。
とにかく、代表作以外はめったに読めない作者の作品が並んでいたり(E・C・ベントリー、E・フィルポッツ、E・D・ビガーズ、E・ウォーレス、C・ブッシュ、トマス・バークといったラインアップを見たら、マニアならよだれがたれてくるでしょ?(^^;)、A・B・C・ホークス、ウィルスン警視、フィリップ・トレント、ソーンダイク博士、フォーチュン氏など、懐かしの名探偵たちが顔を揃えます。
内容も、古き懐かしき時代(“良き”時代というと語弊がありますが)を代表するものばかりで、現代ミステリによく見られるような幼児虐待も女性だけを狙うサイコキラーも狂信的なカルト教団もありません。その代わり、怪しげな東洋人やアフリカの秘密結社や幽霊騒ぎや古代遺跡と強盗団や怪盗対名探偵という、大時代なわくわくするネタがてんこ盛りです。
人情味のある登場人物(ヘンリー・ウッド夫人「エイブル・クルー」。これはいいですよ〜)に、読んでいる方が赤面してしまうような臆面のないラブロマンス(ベロック・ローンズ「エルキュールの功績」、F・A・クマー「豚の足」、E・D・ビガーズ「一ドル銀貨を追え」など)がからむのも、この時代ならではでしょう。
もちろん、作者もそれほどひねくれていませんから、伏線が見え見えだったり展開があっさりと読めてしまったりという点はありますが、それだけ緊張せず安心して読めるというものです(笑)。
全部で34編の楽しさが詰まっています。現代ミステリに疲れた(飽きた)方、気分転換にどこからでもどうぞ。

<収録作品と作者>上巻:「ジグソー・パズル」(レナード・R・グリブル)、「大強盗団」(E・フィリップス・オッペンハイム)、「アズテカ族の髑髏」(ギャヴィン・ホルト)、「鉄のパイナップル」(イーデン・フィルポッツ)、「真珠のロープ」(H・ド・ヴィア・スタクプール)、「読心術合戦」(エドガー・ウォーレス)、「8:45列車内の死」(フランク・キング)、「根気づよい家捜し人」(C・E・ベックホファー・ロバーツ)、「くずかご」(アラン・メルヴィル)、「死の舞踊」(ジョージ・グッドチャイルド)、「犯罪学講義」(G・D・H&M・コール)、「無抵抗だった大佐」(E・C・ベントリー)、「剣によって」(セルウィン・ジェプスン)、「無用の殺人」(ミルウォード・ケネディ)、「ハムプステッド街殺人事件」(クリストファー・ブッシュ)、「エルキュールの功績」(ベロック・ローンズ)、「みずうみ」(W・F・ハーヴェイ)、「極秘捜査」(G・R・マーロック)、「真紅の糸」(J・J・ベル)、「金色の小鬼」(トマス・バーク)
下巻:「三つの鍵」(ヘンリー・ウエイド)、「遺伝」(アントニイ・マースデン)、「青年医師」(H・C・ベイリー)、「豚の足」(F・A・クマー)、「一ドル銀貨を追え」(アール・デア・ビガーズ)、「ミス・ヒンチ」(H・S・ハリスン)、「封印された家」(ハルバート・フットナー)、「強い兄ジョン」(ハーバート・ショー)、「障壁の向こうから」(J・S・フレッチャー)、「カステルヴェトゥリを殺したのは誰か」(ギルバート・フランコウ)、「白い足跡の謎」(R・オースチン・フリーマン)、「偽痣」(J・D・ベリズフォード)、「中の十二」(ネリー・トム=ギャロン&コールダー・ウィルスン)、「エイブル・クルー」(ヘンリー・ウッド夫人)

オススメ度:☆☆☆☆

2005.5.11


盗まれた脳 (SF)
(H・G・エーヴェルス&ハンス・クナイフェル / ハヤカワ文庫SF 2005)

『ペリー・ローダン・シリーズ』の第311巻。
ここ数巻、銀河系を悩ませていたPAD禍は、前半のエピソードのほとんど掟破りとも言える荒技で(いえ、ストーリー構成という意味でですね)解決されますが、休む間もなく新たな危機が・・・。
とはいえ、この巻は強引で無理のある展開が目立ちます。PAD問題解決の立役者となったコル=ミモに関して突然新たな設定が追加されるは、味方だった人物がいきなり敵に回ってとんでもないことをやらかすは、確かにルール無用の“銀河のチェス”ですが、どうも読者が置いてきぼりにされているような気がします。このパターンって、以前にも出てきましたし、やっぱりプロット作家(ちょうどシェールが入院してフォルツが代行していた時期)の不調でしょうか?

<収録作品と作者>「時間改変」(H・G・エーヴェルス)、「盗まれた脳」(ハンス・クナイフェル)

オススメ度:☆☆

2005.5.11


M・R・ジェイムズ怪談全集2 (怪奇)
(M・R・ジェイムズ / 創元推理文庫 2001)

先日読んだ「M・R・ジェイムズ怪談全集1」の続き。英国伝統の怪奇小説の巨匠ジェイムズの後期の作品を集めたもので、本邦初訳の作品も5篇含まれています。第1巻と合わせて読めば、ほぼ全作品が網羅できます(他にファンタジー作品「五つの壺」がハヤカワ文庫FTから出ていますが、絶版)。
久しぶりに読んだ「ポインター氏の日記帳」のクライマックスにはわかっていてもぞくりとさせられましたし、禁忌の遺物に手を出した男の悲劇「猟奇への戒め」、黒魔術を扱った「ホイットミンスター寺院の僧房」と「フェンスタントンの魔女」(後者は初読み)、短いけれども圧倒的に不気味な余韻を残す「鼠」、禁断の土地に足を踏み入れた生意気な不良学生を襲う「むせび泣く泉」、ドールハウスをテーマにした怪談「呪われた人形の家」など21篇。

<収録作品>「ホイットミンスター寺院の僧房」、「ポインター氏の日記帳」、「寺院史夜話」、「失踪綺譚」、「二人の医師」、「呪われた人形の家」、「おかしな祈祷書」、「隣の境界標」、「丘からの眺め」、「猟奇への戒め」、「一夕の団欒」、「ある男がお墓のそばに住んでいました」、「鼠」、「真夜中の校庭」、「むせび泣く泉」、「私が書こうと思っている話」、「小窓から覗く」、「死人を招く――大晦日の怪談」、「無生物の殺意」、「フェンスタントンの魔女」、「暗合の糸」、「キングズ・カレッジ礼拝堂の一夜」

オススメ度:☆☆☆

2005.5.13


目覚めよ、女王戦士の翼!(上・下) (SF)
(キャサリン・アサロ / ハヤカワ文庫SF 2001)

宇宙大冒険浪漫活劇『スコーリア戦史』の第4弾。
でも、時代的には前3巻よりも少し前に属するものです。実は作者アサロが最初に書いた小説がこれだそうで。
スコーリア王圏の王子で王位継承権者のひとりであるケルリック(
1巻3巻のヒロイン、ソズの年若い弟です)は、仇敵ユーブ帝圏との戦闘で傷つき、未知の惑星に不時着します。その惑星コバは、スコーリア王圏では立ち入り禁止とされている禁断の惑星でした。
実は、コバはスコーリア人と同じく、今は亡きルビー帝国の子孫が植民した惑星で、完全な女系制の文化を築いていました。『坊』と呼ばれる12の都市国家が権謀術数を尽くす社会では、政治家や戦士はすべて女性が独占し、男性は社会的には補助的な役割しか課せられず、売買されることもありました。昔は戦争に明け暮れたコバですが、今は『クイス』と呼ばれる複雑なゲームで、微妙な外交や駆け引きが行われています。そして、男性は『クイス』の有能なプレイヤーとなり、『坊』の主(坊代。もちろん女性)に召し抱えられる(ついでに夫となる)ことが最高の栄誉となるのです。
戦闘で重傷を負い、体内の免疫システムや代謝システムを司るナノマシンが故障してしまったケルリックは、土地の食物や水にも苦しみ、なかなか健康を取り戻せません。最初に収容されたダール坊を脱出しようとする際、戦闘システムの暴走で意図しないのに衛兵を死なせてしまったケルリックは、次いでハカ坊の牢獄へ送り込まれ、独房のつらさを紛らすために『クイス』に没頭します。
『クイス』というのは、囲碁とチェスとモノポリーを一緒にして徹底的に複雑化したようなゲームで、最大12人まで同時にプレイできます。各坊の中枢で行われた『クイス』の流れはコバ全土に伝播し、政治や社会に影響を与えていきます。いわば、暗号と隠喩だけで語られるインターネットみたいなものでしょうか。
コバでも最強の『クイス』プレイヤーとなったケルリックは、その黄金の肌と美貌もあって、次々と主要な坊(と、女性たち)を遍歴していきます。
もちろんアサロのことですから、ただの異星冒険譚で収まるはずもなく、共感能力を持つローン系遺伝子に絡む確執や、コバ宗主カーン坊に伝わる古代の遺産、ケルリックという不確定要素の闖入で急速に加速されるコバの科学力、それぞれ際立った魅力を持つ坊代の女性たち(誰をヒロインと呼んだらいいのか迷うほどです。まあ妥当なところはイクスパーなのでしょうけれど、ラシバもサビーナも捨てがたい)など、複雑なプロットが破綻せずに織り上げられていきます。
いかにもこの先に続きそうなラストですが、予想通り続篇が出ているようです。でも現時点では邦訳はまだ(^^;

オススメ度:☆☆☆☆

2005.5.17


ブレス・ザ・チャイルド(上・下) (ホラー)
(キャシー・キャッシュ・スペルマン / 竹書房文庫 2001)

2001年の暮れに公開された映画「ブレス・ザ・チャイルド」の原作小説(ノヴェライゼーションではありません)。ただし、解説によれば、映画化に当たって設定やキャラクター、ストーリーにかなり改変が加えられ、別物に仕上がっているそうです(映画は見ていません)。
骨董店を経営する中年の寡婦マギーは、ある晩、麻薬中毒で行方不明になっていた娘ジェナの訪問を受けます。ジェナは生まれたばかりの自分の赤ん坊コーディを母親マギーに預け、再び姿を消します。
それから3年、賢くかわいい娘に育ったコーディはマギーと幸せに暮らしていましたが、突然、ジェナが怪しげな億万長者エリックの妻として現れ、嫌がるコーディを強引に連れ去ってしまいます。しかし、法律上はコーディはジェナの許にいることが正当であり、マギーは時々エリックの屋敷に孫を訪ねていく他は、何もできません。ですが、コーディはマダガスカル人の不気味な乳母ガニアに世話をされ、元気を失っていました。
実はエリックは世界を裏から支配することを目論む悪魔崇拝の秘密結社マア・ケルの幹部で、古代エジプトで創られた“女神イシスのアミュレット”と“セクメトの石”を入手しようと、<イシスの使者>の生まれ変わりであるコーディを利用しようとしていたのです。ガニアは古代レムリアから伝わる黒魔術の魔女で、コーディを支配し覚醒させようとしていました。
コーディを心配するマギーは、旧知のカトリック神父ピーター、ニューヨーク市警の警部補デヴリン、白魔術の使い手エリーらの協力を得て情報を集めていきます。マア・ケルの正体と目的が次第に明らかになり、4月30日のワルプルギスの夜に、かれらが秘儀を行って、世界を支配する力をもたらすアミュレットと石を手に入れようとしていることが判明します。
一方、エジプトの諜報機関とイスラエルの諜報機関モサドも、この力を手に入れるために暗躍を始めていました。
心にそれぞれの苦悩をかかえながらも、協力して作戦を練り、コーディ救出のために動き出すマギーたち。ガニアの無慈悲な手腕で、パワーを目覚めさせられていくコーディ。そして運命の夜が訪れます。
ネタとしては
「エクソシスト」と「オーメン」にニューエイジ風味を加え、クーンツかダン・シモンズの冒険伝奇要素を混ぜてロマンスのエッセンスを追加した、という感じでしょうか。ジャンル・ミックスという意味では、正統派モダンホラー。登場人物たちの内面に踏み込んだために中盤にテンポが悪くなるのと、なんとなくどこかで見たようなストーリーだと思えてしまうあたりが気になりますが。

オススメ度:☆☆☆

2005.5.21


突入! 炎の叛乱地帯(上・下) (SF)
(デイヴィッド・ファインタック / ハヤカワ文庫SF 2000)

『銀河の荒鷲シーフォート』シリーズ第5弾。
かつて異星生物“魚”の攻撃から地球を死守したニコラス・ユーイング・シーフォートは、その後、軍を退役して修道院に入り、10年に渡って内省の生活を過ごしました。過去の4巻は、すべてこの期間にシーフォートがつづった回想録ということになっています。
その後、シーフォートは国連事務総長に就任、士官学校時代の寝台仲間(変な意味ではないです)アーリーンと結婚し、息子のフィリップが生まれ、政争に破れて再び引退生活を送っていました。かつての部下アダム・テネアとその息子ジャリッドが同居しています。
しかし、平和だった生活にも、再び波乱が起きようとしていました。
反抗期を迎えて父親への反発を強めたジャリッドが、たまたまつかんだ政治的スキャンダルをマスコミに売ろうと、家出してニューヨークへ行きますが、ちょっとした偶然から安全なホテルを飛び出し、スラムと化したマンハッタンへ迷い込んでしまいます。ジャリッドをとらえたのは半人前のトランニー(スラムに住む人々の蔑称)プークでした。
一方、ジャリッドが家出したのは自分のせいだと悩んだフィリップも後を追って家出。シーフォート夫妻とアダムは、
第4巻では士官学校の新入生だったロバート・ボーランド(有力な上院議員の息子で、現在は下院議員)の助けを得てニューヨークへ向かいます。
マンハッタンでは、政府の政策のために水道が止められ、住人たちは各グループに分かれて対立しながらも、危機感を強めていました。第4巻でも登場した中立派の老人ペドロ・チャンはトランニーを救うべく、伝説の“魚退治”ことシーフォートに連絡を取ろうとします。しかし抗戦派のトランニーは交渉でなくテロを選び、ジャリッドはおのれのハッカーの才能を役立てようと申し出ます。
これまでの物語がすべてシーフォートの一人称で語られていたのに対し、今回はフィリップ、ジャリッド、プーク、ペドロ、ロバートの5人の視点から事件の顛末が語られるモザイク・ノベルのような構成になっています。それだけに、些細なすれ違いと勘違い、ちょっとした悪意とおせっかいが重層的に組み合わさって事態が紛糾し、最悪の状態にまで転がっていくのがダイナミックに説得力をもって描かれていきます。これまでと違って、あまりストレスを感じずに読み進められるのは、シーフォートの際限ない癇癪と反省と自己憐憫に付き合わされなくて済むせいなのかも知れません。でも、初めて第三者の視点から描かれるシーフォートは――特に息子のフィリップが目の当たりにするクライマックスの彼は、これまでになく最高に格好いいです。
恒星間飛行もなく、異星生物との戦いもない一編ですが、5作の中で最も楽しめる作品だと思います(個人的な好みの問題かも知れませんが)。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.5.24


幻想の画廊から (評論)
(澁澤 龍彦 / 河出文庫 2001)

シュールレアリズムの絵画を中心に、中世から20世紀までの奇想・幻想画について、澁澤さんが自由気ままに記述した独特の美術論集。
もともと絵画の中ではシュールレアリズムが好きで、ルネ・マグリットやダリの絵画展には出かけたことがあり、画集も持っています。ほかに好きなのはエッシャーとかミロとか。ですので、モノクロではありますが収録された図版はたいへん興味深く、実物を見てみたい気分になります。
いつもながら文章は平易ながら高尚にして流麗、これらの作品や作者に対する筆者の羨望と偏愛(ほめてるんですよ)が生き生きと伝わってきます。

オススメ度:☆☆☆

2005.5.25


竜王戴冠8 ―竜王の旗のもとに― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 2001)

大河ファンタジー『時の車輪』の第5シリーズの最終巻。
ケーリエンを平定したアル=ソアは、闇セダーイのひとりサマエルとの対決に向けて準備をしていましたが、そこへ突然もたらされたのは、アンドール王国のモーゲイズ女王(エレインの母親)が死んだという知らせ。実は、女王は闇セダーイのラヴィンの魔手を逃れてひそかに脱出していたのですが(読者は知っている)、アル=ソアにはそんなことはわからず、敵討ちのためにアンドールの首都シームリンへの侵攻を決意します。遠く離れたシームリンも、絶対力で秘密の通路をつくる“移動の技”を使えば、数千人の兵士を瞬時に送り込むことができます。
ところが、出撃前に陣営を攻撃が襲い、とある重要人物が退場(死んだかどうかは不明)してしまいます。
今回の決戦は、クライマックスにふさわしい迫力と必然性があり、なかなかのものです。
しかし、主要メンバーは世界各地に散ってしまっており(たぶん作者の計算通り)、今後『時の車輪』がどのように運命をつむぎ出していくのか楽しみなところです。

オススメ度:☆☆☆

2005.5.25


幻惑の死と使途 (ミステリ)
(森 博嗣 / 講談社文庫 2001)

犀川&萌絵シリーズの第6巻。本作の前に短編集「まどろみ消去」が出ていますが、事情により(買い忘れてたんです(^^;)後回し。
さて、萌絵も4年生となり、大学院進学の試験が近付いていました。気晴らしに犀川を誘って、地元で開催されるマジックショーに出かけようとする萌絵ですが、犀川が身代わりに先輩大学院生の浜中をよこしたせいで、萌絵はおかんむり。
次の日曜日、仲直り(?)を兼ねて、研究室の面々と共に近くの公園で開かれる脱出マジック(先代の引田天功がやってたようなやつです)を見物に行ったふたりは、奇怪な殺人事件に遭遇します。鍵のかかった箱に閉じこめられたまま池に沈められて、爆破された箱から奇跡の脱出を遂げたはずのベテランマジシャン有里匠幻がステージ上で刺殺されてしまったのです。テレビカメラが回され、大勢の見物人がいたにもかかわらず、犯人の手掛かりはありません。
さらに数日後、セレモニーホールで行われた有里の葬儀で、霊柩車の中から有里の遺体が消え失せてしまいました。容疑者は有里の3人の弟子、プロダクションの社長らに絞られますが、どこにも決め手がありません。持ち前の厚かましさ(笑)を発揮して独自の捜査を始めた萌絵は、警察も気付かなかった情報をたぐって真相に肉薄していきます。しかし、第2、第3の殺人が――。
この作品、これまでのシリーズとはいささか異なった構成になっています。奇数章しかないということと、登場人物一覧が記載されていないこと。第1章の終わりに記されているように、どうやらこの事件と並行してもうひとつの事件が起きているようなのですが、それが語られるのは別の巻だそうです。それと組み合わされることで、新たな趣向が浮かび上がるのかもしれません。後者に関しては、プロットかトリックに絡んでくるのだろうと思っていたら、やっぱりそうでした。
前作と同様、トリックや犯人探しよりも、レギュラーメンバーの日常の(でも内容はかなり非日常的)やり取りをながめているだけで楽しいです。

オススメ度:☆☆☆

2005.5.27


奇妙な論理1 (ノンフィクション)
(マーチン・ガードナー / 現代教養文庫 1999)

ここ10年、日本でもトンデモ本ブームが起きていますが、その嚆矢となった「トンデモ本の世界」(1995年)で、マニアなら必読!と紹介されていたのが、この「奇妙な論理」でした。現代教養文庫版は絶版となってしまいましたが、現在はハヤカワ文庫NFから再刊されています(山本弘さんの解説付き)。
原書が書かれたのは1952年ですから、半世紀以上も前のことです。当然、題材として採り上げられている理論や本は当時のものですが、それにもかかわらず、まったく古びた印象がありません。要するに、トンデモさんサイドがまったく進歩がないことを示しているのかも知れませんが。
この1巻目では、原書にある25章のうち11章を抜粋して訳出したものです。残りの章は「奇妙な論理2」として続刊が出ています。
この巻で扱われているのは、地球平板説、地球空洞説など地質学的な疑似科学から、ヴェリコフスキーの「衝突する宇宙」に代表される天文学的トンデモ理論、おなじみの反相対論本、進化論を認めないキリスト教原理主義、人種差別をあおった様々な理論、現代まで絶え間なく続いている科学的根拠のない医療、精神分析、超能力実験など。
疑似科学を笑い飛ばすでもなく、それらの沿革を分析し、弊害を鋭く指摘して読者の啓蒙をうながすガードナーの真摯な姿勢には共感がもてます。
続いて第2巻に取りかかります〜。

オススメ度:☆☆☆

2005.5.28


奇妙な論理2 (ノンフィクション)
(マーチン・ガードナー / 現代教養文庫 1999)

「奇妙な論理1」の続刊――というよりも、前巻で訳出されなかった原書の11章分を訳したものです。残り3章の未訳分がありますが、チャールズ・フォートを紹介した章などは読んでみたかったような気も(笑)。
この巻では、「空飛ぶ円盤」をはじめ、アトランティスやレムリアといった古代大陸、ダウジング、ピラミッドの秘密などの現代でも相変わらず採り上げられているポピュラーな疑似科学から、骨相学などによる性格診断、生物の自然発生説、いんちき医療器械(そういえば、小さいころ家にも1台似たような装置があったような・・・汗)、その他、当時は流行っていたのかも知れませんが現在ではすたれてしまったものまで、いろいろと収められています。

オススメ度:☆☆☆

2005.5.30


偶然世界 (SF)
(フィリップ・K・ディック / ハヤカワ文庫SF 1995)

SFの鬼才ディックの処女長篇です(なんで今ごろ読んでいるんだ、というツッコミはご勘弁)。
23世紀の世界は、クイズ・マシンが支配し、最高権力者は一般市民の中から無作為に選ばれるという偶然に左右される異様な状況になっていました。悪人や無能者が権力者に選定された場合を是正するため、権力者には合法的に刺客が送られます。権力者はテレパス集団に防御されますが、短命に終わることもしばしばです。その度に、権力者は無意味に交代することになるわけです。
折りしも、時の権力者ベリックは権力を剥奪され、平民のレオンが後継者に選ばれます。それを知らずにベリックに宣誓して部下となった生化学者ベントレイは、友人たちと共に返り咲きを狙うベリックが企む前代未聞の陰謀に巻き込まれていきます。
一方、レオンが主宰する『プレストン会』は、遥かな過去に冥王星の外軌道に存在するという第10番惑星『炎の月』へ向けて宇宙船を発進させていました。
謎めいた刺客ぺリッグに対し、テレパス機関は最大限の力を払ってレオンを守ろうとします。権力闘争の結末は、そして大宇宙へ向かった宇宙船のクルーは、『炎の月』で何を見出すのか――。
一読して、ヴァン・ヴォークトの『非A』シリーズを思わせるワイドスクリーン・バロックです。後の諸作品よりもストレートな切り口で語られているため、複雑ではありますが、とっつきやすいと思います。

オススメ度:☆☆☆

2005.6.1


スター・キング (SF)
(エドモンド・ハミルトン / 創元SF文庫 2001)

「キャプテン・フューチャー」で知られるSF作家ハミルトンのスペース・オペラ。「キャプテン・フューチャー」は、舞台が太陽系を中心にしているのに対し、こちらは銀河規模の大宇宙活劇です。
ニューヨークに住む平凡な保険会社の社員ゴードンは、夜な夜な頭の中に呼びかけてくる謎の声を聞きます。最初は夢だと思っていましたが、なんとその声の正体は20万年後の宇宙から話しかけてきた銀河帝国の王子ザースでした。歴史研究をライフワークにしているザースは、過去の世界の住人で脳波の合致する相手に精神を投影して、自分の精神と一時的に交換する技術を開発し、実地研究をしていたのです。
6週間という約束で精神交換に合意したゴードンですが、20万年後の宇宙に到着したとたん、銀河規模の動乱に巻き込まれてしまいます。中央銀河帝国の第2王子であるザースの誘拐を試みた暗黒星雲帝国の独裁者ショール・カンの策略によって、未来の地球に存在したザースの研究所が襲撃され、帝国軍の介入でザース(精神はゴードン)誘拐は未遂に終わりますが、精神交換装置の秘密を知る科学者は侵略軍に殺されてしまいます。
中央銀河帝国の中枢、カノープス星系に帰還させられたザース(ゴードン)は、銀河を二分する謀略に否応なく巻き込まれていきます。ショール・カンが狙っていたのは、二千年前にマゼラン星雲からの侵略者を一掃した究極の兵器ディスラプターでした。ディスラプターに関する知識は、皇帝(ザーンの父)とふたりの息子(ザースと兄のジャル)だけが持っていたのです。が、もちろん精神は別人であるゴードンは知りません。
何の予備知識もないまま王子としての役割を果たさなければならなくなったゴードン。政略結婚の相手と恋に落ちたり、敵軍に誘拐されたり、未開惑星に不時着して窮地に陥ったりと、まさにスペースオペラの王道を行く展開です。
半世紀前の作品なので、科学技術的な矛盾は散見されますが、それを補って余りある血湧き肉踊る骨太のドラマが味わえます。
続篇
「スター・キングへの帰還」も出ています。近日登場。

オススメ度:☆☆☆

2005.6.2


弟切草 (ホラー)
(長坂 秀佳 / 角川ホラー文庫 1999)

世界初(?)のサウンドノベル・ゲーム「弟切草」の小説化。ゲームでもシナリオを手がけた長坂さんがご自分で書き下ろしています。
さて、ゲームの「弟切草」をご存じない方のために、以前に某サイト(現在は休止中)に投稿したゲームレビューを再掲します。

「オトギリソウ・・・
ケルトの妖精物語などにも、良く出てくる草花です。ノボロギクだのサクラソウだのブルーベルだのと一緒に。
何でも、妖精の魔力から身を護ってくれる効果があるとか。
なので、きっと漢字で書いてもロマンチックでほんわかとしたイメージの字なんだろうな、と勝手に思っていました。例えば、『乙霧草』とか『音切草』とか・・・。
それがまさか、『弟を切る草』だなんて!!!
で、ここからが本題です。ゲームの『弟切草』。
『サウンドノベル』という新しい(あんまり大々的には流行らなかったけど)ジャンルを切り拓いた、記念碑的な作品。
SFC版が初めて出たのが92年で、その時買って、相当にハマリました。
で、昨年、新シナリオを追加した『蘇生篇』がPS版として出たので、こちらも買ってみたわけです。
中身はというと、絵と効果音と音楽が付いた紙芝居的な小説に、アドベンチャーゲームの要素が加わったものとでも言えばいいのでしょうか。ひと昔前に流行った『ゲームブック』のTVゲーム版。
主人公(名前はデフォルトが『公平』ですが、自由に変えられます)が、GFの奈美(残念ながらこちらは名前変更できない。くやしいっ!←おい)とドライブの帰りに事故に遭い、怪しげな屋敷に迷い込みます。それが発端で、プレイヤーはシーン毎に次々に出てくる選択肢を選びながら、ストーリーを進めていくことになります。
どの選択肢を選んでも、ストーリーのおおまかな流れは決まっていて、「事故」→「落雷」→「屋敷を見つける」→「2階のミイラ」→「弟切草の花言葉」→「電話」→「台所」→「悲鳴」→「風呂場」→「背比べの跡」・・・といったキーポイントを通りながら(選択肢によってシチュエーションは微妙に違う)、話はEDに向かって突き進んでいきます。
そして、1回EDを体験し、それをセーブすると、今度は新しい選択肢が加わり、EDも増えていきます。ちなみに、初めてプレイした時にたどりつくEDは5種類しかありませんが、2回、3回とプレイし続けるにつれ、EDの数も増えてきます。更に、1度体験したEDにも先に続くストーリーが加わったりして、まさに千変万化。いったんハマったら、なかなか抜け出せません。
ある程度のEDをこなすと、ピンクのしおりが出て来て、ちょっぴりエッチいストーリーになるのも◎(おい)。
さらにPS版ではZAPシステムといって、話の視点を主人公から奈美に切り替えることもできるようになっていて、これがまた、おいしい(笑)です。特にシャワーシーンとか・・・(こら)。
1回のプレイが(読む早さによって違いますが)1時間〜1時間半で済むのも手ごろで良いと思います。ま、全部の分岐を記録しようなんてばかなことを考えると(それは自分だ)、時間かかりますけど。 たぶん、人によって好き嫌いが分かれるゲームだと思いますが、いちばんの楽しみ方は・・・。
深夜(2時前後がおすすめ)、家中の灯りを消して真っ暗な部屋でひとり、ヘッドホンをつけてプレイすると、最高です。ううう、怖いよぉ・・・。

おすすめな人:ホラー小説が好きな人、ゲームブックにハマったことがある人
おすすめしない人:字を読むのが面倒な人、夜ひとりでトイレに行けない人」

さて、この小説版「弟切草」は、PS版「弟切草・蘇生編」をベースに、ZAPシステムを最大限に活用して、公平と奈美の視点を交互に繰り返しながら、迷い込んだ洋館での怪しい出来事を描いています。
また、ゲームにはなかった設定がいくつかなされています。
公平はゲームデザイナーで、自分が企画したゲーム「弟切草」が大ヒットして飛ぶ鳥の勢いですが、実はそのアイディアは元の恋人から盗んだものでした。元恋人の明美は1年前に自殺を遂げています。一方、奈美も過去に、父親ほども歳の離れた大学教授・有栖川と不倫関係にありましたが、1年前に山荘で有栖川と過ごした5日間の記憶が空白になっています。有栖川は崖から転落した死体となって発見されており、奈美は自分が殺したのではないかと怯えています。
もちろん文体はゲームとそっくりで、意図的にゲームの中で使われた言い回しが効果的に使われ、すいすい読み進めていけます。何十回となく、いやへたをすればSFC版とPS版をあわせて100回以上読み返しているわけですから(笑)。
ゲームをプレイしたことがなくても楽しめますし、プレイ経験があればますます楽しめます。ラストが少し弱い気がしますが、もしかして
続篇狙いでしょうか。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.6.2


塔のなかの姫君 (SF)
(アン・マキャフリイ / ハヤカワ文庫SF 1995)

『パーンの竜騎士』シリーズなどで知られるマキャフリイの短編集。実はこの短編集が彼女の日本初紹介です、たぶん。なのに、なぜ今ごろ読んでいるんだろう(汗)。
でも、もしかすると、マキャフリイの長篇やシリーズ作品をいくつも読んでから、この作品集に取りかかる方が楽しめるのかも知れません。一方、これからマキャフリイを読んでみようという人にも、格好の入門書になるのではないかと思います。なぜかといえば、この作品集にはマキャフリイのエッセンスが凝縮されているから。後の長篇シリーズの原型となった作品や、シリーズのサイドストーリーも、いくつも収められています。
『九星系連盟シリーズ』の原型で、ヒロインの
ローワンダミアがそれぞれ主人公となっている「塔のなかの姫君」(彼女の処女作でもあります)と「精神の邂逅」、『キャテン』シリーズの発端のエピソードでもある「バレヴィの茨」、『パーン』の1エピソード「最年少のドラゴンボーイ」(本シリーズの邦訳前だったため、訳語が『パーン』での専門語化していないのが新鮮です。「感合する」じゃなくて「印象づける」なんですから)、『歌う船』の主人公ヘルヴァの後日談「蜜月旅行」などが、シリーズに関連する諸作品。独立した短篇としては、海洋惑星を舞台としたミステリ風味の「ウェラデイの天気」(どんでん返しに次ぐどんでん返しが続きますが、伏線から流れが見え見えで、予想通りになるのがかえって楽しいです)、超能力者が超能力を持つ犯罪者を追跡するドラマ「腐ったりんご」、同じく超能力のある少年の悲哀を描く「目つけ役」と「ちゃんとしたサンタクロース」、マキャフリイの独壇場であるけなげに自立する女性を描く「娘」と「鈍い太鼓」など。

<収録作品>「塔のなかの姫君」、「精神の邂逅」、「娘」、「鈍い太鼓」、「取り替え子」、「ウェラディの天気」、「バレヴィの茨」、「未知の海から来た馬」、「犬声大合唱」、「目つけ役」、「ちゃんとしたサンタクロース」、「最年少のドラゴンボーイ」、「腐ったりんご」、「蜜月旅行」

オススメ度:☆☆☆☆

2005.6.4


緋色の囁き (ミステリ)
(綾辻 行人 / 講談社文庫 2001)

綾辻さんの長篇第4作で、『館』シリーズ以外の初めての長篇です。
北関東の山奥にそびえたつ洋風の全寮制お嬢様学校『聖真女学園』に転向してきた和泉冴子。彼女はこの学校の校長・宗像千代の姪ですが、12年前に両親と姉を亡くして以来、養女に出されていました。しかし、突然、千代が養父母の家を訪れて、有無を言わさず連れ戻されてしまったのです。
2年生のクラスに転入した冴子は、陰鬱で厳格な雰囲気に、恐れと違和感を覚えます。絵に描いたような美少女で女王然とした城崎綾と取り巻き、“魔女”と呼ばれてクラスから浮いている高取恵、サディストのような数学教師の原。そして、学園には『開かずの間』があり、そこでは35年前に、魔女と呼ばれた生徒が火炙りになって死んだという噂がありました。
寮では恵と同室になった冴子ですが、彼女は昔から、生理が近付くと緋色の惨劇の悪夢に悩まされており、一時的に記憶を失ってしまうこともありました。
そんなある日、恵があの『開かずの間』で焼け爛れた死体となって発見されます。学園側の圧力もあり、警察は自殺として処理しますが、恵の兄・俊記はそれを信じず、独自に捜査を始めます。続いて、寮内で第2、第3の殺人が・・・。冴子は、一時的に記憶を失っている間に自分が殺人を犯したのではないかという疑問にさいなまれます。12年前に両親と姉を失った事件と、なにか関係があるのでしょうか・・・?
作品中でも登場人物が「サスペリアみたいでしょ?」と発言する場面がありますが、映画のサスペリアよりも、四半世紀前のOVA「ドリームハンター麗夢」の第2作「聖美神女学院の妖夢」を思い出しました。山奥の閉鎖的なお嬢様学校、学園内の異分子に対する●●狩り、そして月経の血が惨劇を象徴するという設定など、雰囲気がとてもよく似ています。綾辻さんが「麗夢」のアニメを見ていたかどうか、知りたいところです(笑)。
各章の間に挿入される短い幕間劇がサスペンスをいや増しますが、ここの叙述トリックは中盤で見当がついてしまいました。しかし、真犯人に関する伏線が、序盤で本当にさりげなく記されていたのには脱帽。あまりに意外だったのですが、後から読み返せば完全に納得できます。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.6.6


天使の囀り (ホラー)
(貴志 祐介 / 角川ホラー文庫 2000)

「青い炎」で知られる貴志祐介さんの長篇第3作。この人は初読みです。本当なら第1作から順を追って読む方がいいのですが、そこは都合で(^^;
ホスピスに勤務する精神科医の早苗には、作家の高梨という恋人がいました。高梨は異常なほどに死を恐れる“タナトフォビア”とでも言うべき性格の持ち主ですが、3ヶ月にわたるアマゾン探検から戻って以来、人が変わったように享楽的になり、食欲と性欲が異常に亢進してしまい、早苗は不安に悩みます。そうこうしているうちに、高梨は睡眠薬を大量に服用して自殺してしまいます。
早苗が調べると、アマゾン探検に参加したメンバーが次々に異様な状況下で自殺していることが判明します。猫恐怖症だった科学者はサファリパークで虎の前に身を投げ出し、息子を亡くしてから子供の死を極度に恐れていた女性は、ひとり娘を線路に投げ落として飛び込み自殺していました。そして探検隊のリーダーだった文化人類学者は失踪しています。
一方、他人とのコミュニケーションが苦手で、インターネットと美少女ゲームにしか生き甲斐を見出せないオタク青年・信一は、とあるチャットで知った『地球の子供たち』という自己啓発セミナーに参加して、生まれ変わったような好青年に変身を遂げますが・・・。
早苗は、アマゾン探検を主宰した新聞社の記者・福家や、科学者・依田とともに調査を開始します。
アマゾンのジャングルで、高梨たちに何が起こったのか・・・。高梨が死の前に口にしていた「天使の歌声が聞こえる」という言葉は、何を意味しているのか・・・。
中盤に、実に自分好みの大ネタが明らかにされるわけですが、それをここで明かしてしまうわけにはいきません。ともかく、「そう来るか〜!」と高まる興奮を抑え切れませんでした。特にその道のプロである依田が早苗にレクチャーするくだりは、もうわくわくもの。良質の教養書(中身はまあアレですが)を読んでいるような気分になります。
作中に散見されるミスディレクションの仕掛けも、読者を騙してやろうというよりも、「わかる人だけわかって、にやりとしておくれ」という作者の鷹揚さを感じます。ええ、わかってにやりとしましたとも(笑)。また、登場人物のすべてに必然的な存在理由が与えられているのも、作者の力量を感じるとともに好感が持てます。
たいへん面白いですが、虫(insectじゃなくてwormの方です)が苦手な人は読まない方がよろしいかと。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.6.8


ノパロールの地下霊廟 (SF)
(ウィリアム・フォルツ&クラーク・ダールトン / ハヤカワ文庫SF 2005)

“ペリー・ローダン・シリーズ”の312巻。昨年までは6月(と2月)は刊行がない月だったのですが、今年から毎月刊行になりました。こうなったら毎週刊行に(無理です)。
今回はローダン版「火星の交換頭脳」です(違いますか。でもイメージがかぶってるんですけど(^^;)
前巻で陰謀により、脳だけの姿になって未知の異銀河へ飛ばされてしまったローダン。ナウパウム銀河と呼ばれるそこでは、頭脳の交換が日常的に行われていました。惑星ヤアンツェルの科学者ドインシュトに買われたローダン(の脳)は、補助種族で大白猿(だから火星シリーズ)にそっくりなボルディン族のひとりに移植されてしまいます。
ですが、ようやく自由になる身体を得たローダンは、さっそく不屈の精神で故郷へ還る手段を探し始めます。
今後は当分、故郷銀河の状況と、ローダンの苦闘が並行して描かれていくのでしょうか。

<収録作品と作者>「脳マーケット」(ウィリアム・フォルツ)、「ノパロールの地下霊廟」(クラーク・ダールトン)

オススメ度:☆☆☆

2005.6.9


頼子のために (ミステリ)
(法月 綸太郎 / 講談社文庫 1998)

“新本格”作家のひとり法月さんの初読みなのですが、実は読もうとしていたのは、前から買ってあった「ふたたび赤い悪夢」でした。ところが、数ページ読み進んだところで、これが「頼子のために」という作品の続篇であることがわかり、あわてて買って来て、こちらを先に読んだという次第(^^;
「頼子が死んだ」という書き出しで手記を残した大学教授の西村。ひとり娘の高校生・頼子が公園で絞殺死体となって発見されたのです。しかも頼子は妊娠4ヶ月でした。行きずりの通り魔殺人だという警察の判断に不満な西村は、14年前に事故で身体が不自由になっている愛妻にも告げず、ひとりで事件を調べ、頼子が通っていた高校の教師が彼女を妊娠させたことを突き止めます。そして、その教師を殺害し自らも死を選ぶ・・・そういう内容の手記でした。
しかし、自殺を図った西村は発見が早かったために一命を取りとめます。事件は単純なもののようでしたが、頼子の高校は私立の名門校。スキャンダルを嫌った理事長と政治家の思惑が巡り巡って、小説家で名探偵の評判が高い法月綸太郎が出馬することになります。
西村の手記を読んで矛盾を発見した法月は、関係者の思惑や都合に翻弄されながら真相を究明し、ついには――。
解説を読まなくとも、作者がエラリー・クイーンの信奉者だということは容易にわかります。主人公は作者の名前と同じで、小説家で素人探偵、しかも父親は警視庁の警視、捜査中に関係者との会話の中に散見される青臭さと苦悩。クイーンそのものです。こういうのって、とても微笑ましくて嬉しいです。
さて、「ふたたび赤い悪夢」に取りかかろう。

オススメ度:☆☆☆

2005.6.10


ふたたび赤い悪夢 (ミステリ)
(法月 綸太郎 / 講談社文庫 2001)

「頼子のために」の続編・・・というよりは、「頼子」をプロローグとする本編と表現した方が正しいのかも知れません。解説によると、ふたつの事件の間にはさらに「一の悲劇」があるそうですが、これは既に待ち行列(笑)に入っています。
「頼子」の事件から半年後。あの事件の結末に果たした自分の役割について悩み続け、本業の小説も書けず、現実の事件に取り組む自信も失っていた法月綸太郎ですが、事件の方から勝手にやってきます。
売れない少女アイドル(弱小プロダクションに所属しているため)畠中有里奈は、ラジオの深夜番組に出演した直後、不審な若者に控え室に連れ込まれ、脅迫されます。もみあっているうちに、若者が持っていたナイフが有里奈の腹部に刺さり、おびただしい出血に彼女は気を失います。ですが、気がつくと有里奈は無傷。逆に若者が近くの公園で刺殺死体となって発見されたのです。若者が脅迫に使ったのは、有里奈が秘密にしておきたい17年前に起きた殺人事件・・・赤ん坊だった双子の兄と父親が殺され、犯人と目された母親が自殺した事件でした。
進退きわまった有里奈は、かつて巻き込まれた事件(未読ですが「雪密室」で描かれた事件らしい)で世話になった、警視庁の法月警視(綸太郎の父)に助けを求めます。状況証拠からは、明らかに有里奈が若者を刺殺したように見えます。所轄署には知らせずに、自宅に有里奈を匿い、独自に捜査を始める法月父子。どうやら、映画への主演が決まった有里奈の周辺には、あくどい手段を使う大手プロダクションの策謀の手も回っているようでした。
追い詰められた有里奈を救うには、現在の事件以外に、17年前の殺人事件の真相も突き止める必要があるようでした。自信を喪失し、やる気も起きない綸太郎は、真相を突き止められるのか・・・。
端的に言ってしまうと、「頼子」の事件で精神的にどん底に落ち込んだひとりの探偵が、自らの存在意義を問い直し、再生する物語だと言えます。警官や職業探偵ではない素人探偵が、「自分はなぜ探偵をするのか」という命題に取り組んで苦悩する姿を、ここまで正面から描いている小説は珍しいと思います。これはそのまま、作者自身の「自分はなぜミステリを書くのか」という命題と背中合わせなのでしょう。

オススメ度:☆☆☆

2005.6.12


竹馬男の犯罪 (ミステリ)
(井上 雅彦 / 講談社文庫 1997)

『異形コレクション』の編者などを務め、ホラー作家として知られる井上さんですが、長篇ミステリも書いています。そのひとつがこれ、「竹馬男の犯罪」。
しかし、設定もプロットも登場人物も、すべて“異形”が横溢しています。
八ヶ岳近くの美晴沢高原(こういう名前の土地は実在しません)の湖の真ん中にある孤島・盆ノ森。そこに建てられた養老院・天幕荘は異様な場所でした。建物はサーカスかカーニバルになぞらえられて観覧車やアリーナ、動物園までがあり、入所者はすべて元・サーカス団員のひと癖もふた癖もある老人たち。
台風に襲われた天幕荘では、落雷で観覧車に火災が発生、慰問に来ていた近所の聖セザーレ学園の子供ゴローは、火事を消そうと駆けつけましたが、謎の“刺青男”に捕まり、空中ブランコのヒロイン・マリアの転落事故を目撃した直後、“阿弗利加園”と名付けられた動物園に幽閉されてしまいます。
一方、セスナで取材に出ていた雑誌記者・真野は台風に巻き込まれ墜落しそうになりますが、老パイロット・万丈目(この名前にニヤリとしたあなたは「ウルトラQ」ファン)の機転で盆ノ森に不時着、天幕荘へ難を逃れたところで、介護ヘルパーとして天幕荘へやって来た麻純(高校時代の真野の恋人)と再会。麻純は、天幕荘へ近付くなという脅迫状を受け取っており、真野のことを探偵事務所から送り込まれた護衛役だと誤解します。
ですが、天幕荘は嵐と火事と転落死体でてんやわんやの大騒ぎ。タイミングよく駆けつけた警官隊は、事件を聞きつけたのではなく、別の盗難事件の容疑者を追跡してきたのでした。いったん引き上げようとした警官隊は、地元の凶悪な暴走族(魔物や怪物のコスプレをしたぶっ飛んだ連中です)と追撃戦を繰り広げ、そうこうするうちに、なんと島と対岸を結ぶふたつの橋が崩壊して、盆ノ森は孤立してしまいます。
この辺の展開は、クイーンの「シャム双児の謎」を意識しているのではないかと思いますが、それ以上にサーカス、カーニバル、見世物小屋にフリークスという小道具が効果的に散りばめられ、密室殺人に姿なき怪盗の跳梁は、江戸川乱歩の世界です。あ、「ラーオ博士のサーカス」(C・G・フィニー)も意識してるんじゃないかな。
ともかく、そういう世界が好きな方は必読です。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.6.14


戦艦陸奥 (ミステリ他)
(山田 風太郎 / 光文社文庫 2001)

「山田風太郎ミステリー傑作選」の第5巻。今度は「戦争篇」です。
とはいえ、戦記ものではなく、戦争による傷跡が色濃く刻まれたミステリから、怪奇・幻想・冒険ものまで幅広く収められています。
呉軍港で謎の爆沈を遂げた戦艦陸奥――その爆沈の真相を皮肉に描いた「戦艦陸奥」、パナマ運河を空襲に向かった潜水空母艦隊(これは史実です)の末路「潜艦呂号99浮上せず」、ゾルゲ事件を背景とした猟奇犯罪譚「最後の晩餐」、戦いに敗れて絶海の孤島に流れ着いた男女らの本能を赤裸々にむき出した姿を描いた「裸の島」「女の島」、小栗虫太郎やハガードの魔境冒険小説と比べても遜色ない南洋秘境冒険譚「魔島」、戦争で引き裂かれ、翻弄された男女の切ない悲喜劇「さようなら」「黒衣の聖母」、やるせなく痛切で後味の悪い長篇「太陽黒点」など。

<収録作品>「戦艦陸奥」、「潜艦呂号99浮上せず」、「最後の晩餐」、「裸の島」、「女の島」、「魔島」、「腐爛の神話」、「狂風図」、「黒衣の聖母」、「太陽黒点」

オススメ度:☆☆

2005.6.16


二重螺旋の悪魔(上・下) (ホラー)
(梅原 克文 / 角川ホラー文庫 1998)

実は、先日ある本(タイトルを言っただけでネタバレになってしまうので自粛)の中で本書のネタバレを目にしてしまいました。半分、気がそがれたのと同時に、その大ネタがどう処理されているのか気になって、わくわくと読み始めました。
21世紀初頭(ほとんど近未来)、バイオテクノロジーの開発を監視する政府機関「遺伝子操作監視委員会」内部に、『C部門』と呼ばれる部署が開設されていました。
『C部門』に所属する深尾直樹は、バイオ企業ライフテック社で異変が発生したという報を受けて、同社に赴きます。厳重に管理されたP3区画には20人の社員が勤務しているはずでしたが、モニターで見る現場は血まみれの惨状を呈していました。20人の中には、深尾の元恋人・知美もいたのです。
人間の遺伝子の中で何の役にも立っていないと思われている部分、イントロン――そこには暗号化して謎のタンパク質情報が秘められていましたが、それに手を出すのは地獄への入口を開くことにほかなりませんでした。数年前の深尾自身のように・・・。
“C”という略称で呼ばれ、後に“GOO”と呼称変更されることになる、人間のDNAに秘められていた怪物の正体は何か。
そして、“C”との度重なる戦いで再起不能の重傷を負った深尾は、最後の手段として、ある計画の実験台となり、新たなる戦いに立ち向かうことになります。このあたりの(上巻後半)展開は、ランドル・ギャレットのSF「銀河の間隙より」によく似ています。
さらに下巻に至ると、「スティンガー」(ロバート・R・マキャモン)もかくやというすさまじい展開に。これ以上はネタバレになりますので、後は読んでください。損はしません。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.6.20


天使の悪戯 (SF)
(高千穂 遙 / ハヤカワ文庫JA 1999)

「天使の憂鬱」「天使の微笑」に続く、“ダーティペアFLASH”シリーズ第3巻。しばらく間が空いてしまいました(笑)。
惑星アガルタにある薔薇十字学院に通いつつ、WWWAのトラブルコンサルタントの訓練を受けているケイとユリ。薔薇十字学院では、異世界からこちらの宇宙を侵略しようとする妖魔の陰謀が二度企てられ、ケイとユリの手(というか、偶然と幸運で)によって退けられています。
今回は、宇宙でもっとも希少な宝石のひとつ、テレオシュロボスクライト・略称“テレクラ”(おいっ)の人工生産が惑星アガルタで進められており、それを狙った宇宙海賊が星系へ侵入したことが事件の発端になります。ちょうど宇宙船『ラヴリーエンゼル』で訓練飛行中だったケイとユリが海賊の戦闘艇と遭遇、いきあたりばったりのヤケクソ戦闘の果てに、アガルタの衛星スケタリムへ不時着しますが、そこにも新たな危険が――。
例によってスラップスティックに展開するとともに、作者のセルフボケ・ツッコミが全開で、ちょいとやり過ぎな気もしますが、面白いからいいです。

オススメ度:☆☆☆

2005.6.22


魔道士の掟5 ―白く輝く剣― (ファンタジー)
(テリー・グッドカインド / ハヤカワ文庫FT 2001)

『真実の剣』の第1シリーズの完結編。
世界の支配を目論む悪の魔王ダークン・ラールの野望を阻止すべく、ウェストランドからラールの本拠地ダーラへ向かった“探求者”リチャードと“聴罪師”カーラン。しかし、リチャードは
前巻で罠にかかり、“モルド・シス”のディーナに引き渡されてしまいます。“モルド・シス”とは魔法使いに苦痛を与えて屈服させ、支配し飼い慣らす役割を負った女性たちのこと。このあたりの設定はロバート・ジョーダンの『時の車輪』に出てくる男性異能者への対応に通底するところがあります。
これでもかという筆舌に尽くしがたい辛酸をなめるリチャードを救出し、ダークン・ラールを倒すため、カーランは魔道士ゼッドと森番チェイスと共にラールの根城“人民の宮殿”へ向かいますが、ラールの手下の魔手が迫っていました。
ダークン・ラールが伝説の三つの箱の封印を解き、世界を手中にするという、冬の第1日まで、残り1週間。世界は救われるのでしょうか? そして、結ばれぬ宿命を背負ったリチャードとカーランの愛の行く末は――?
ともかく、物語は大団円を迎え、次シリーズへと続きます。近日登場。

オススメ度:☆☆☆☆

2005.6.22


アウラの選択 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 2001)

『グイン・サーガ』の第82巻。
前巻で、パロ王レムス(実はヤツに憑依されている)と会談したグインは、自ら望んで単身、魔が支配するクリスタル・パレスへ乗り込みます。潜入するわけではなく、レムスに許可を得て、堂々と入っていくところがいかにもグインらしいといいますか(笑)。
そして、グインはレムスに導かれて、ヤヌスの塔の奥に設置された例の機械と初対面し、幽閉されていたリンダとも再会します。それから今後の展開の鍵を握ることにもなる、さる人物とも顔を合わせます。
舞台はクリスタル・パレスの内部のみ、ほとんど動きのない巻ですが、少年貴族アドリアンがいい味を出しています。グインの立場は明確となり(謎が増えた、とも言う)、今後の怒涛の展開に期待です。

オススメ度:☆☆☆

2005.6.22


神秘学マニア (エッセイ)
(荒俣 宏 / 集英社文庫 1995)

集英社文庫版『荒俣宏コレクション』の一冊。
守備範囲の広い荒俣さんが、オカルトに関連して雑誌各誌に書いたエッセイを集めたものです。巻末に、コリン・ウィルスンとの対談も収録されています。
英国の幽霊、ナチスとオカルトの関係、吸血鬼の薀蓄、陰謀論、近代神秘思想の歴史概観、コリン・ウィルスン評論、東洋と西洋の数秘論、アメリカ西海岸のドラッグ・カルチャーとカルトなど、テーマは多彩で、ひとつひとつに深く切り込んでいます。
ただ、バラバラに掲載された記事の寄せ集めのため、まとまりは今ひとつ。

オススメ度:☆☆☆

2005.6.24


蠢く触手 (ミステリ)
(江戸川 乱歩 / 春陽文庫 1997)

久しぶりの戦前探偵小説シリーズ。今回は御大・江戸川乱歩です。
ところが、この作品、他社から刊行されている全集には収録されていません。解説によれば、実は乱歩は原案をつくっただけで、実際に執筆したのは編集者兼作家の岡戸武平という人物。長篇執筆を依頼された乱歩が(当時は休筆宣言中)、苦肉の策として選んだのが旧友による代作という次第。当時は代作はかなりおおっぴらに(編集者も承知の上での場合も多かったそうです)行われていたようです。とはいえ、現在でも事情は変わらないか。ゴーストライターという職業はれっきと存在していますからね。
さて、本編は、美女猟奇連続殺人を追う敏腕新聞記者という、通俗探偵小説の典型とでも言うべきもの。他社に特ダネを抜かれて窮地に陥った『あずま日日』新聞の記者・進藤は、公園で出会った謎の老人から「R国公使館に美女の死体が出現する」という情報を知らされます。半信半疑ながら、アメリカ帰りの新任社会部長・三谷の後ろ盾もあって、事件を追う進藤は、警察と共に予言どおり美女の死体を発見します。もちろん『あずま日日』の特ダネ。
殺された美女は某華族の妾の妹と判明しますが、さらに第二の殺人を暗示する映画フィルム(現代で言えばスナッフ・フィルムですね)が警察に送りつけられ、芝浦の廃船で再び美女の死体(横浜は本牧のコールガール)が見つかります。今回も進藤の許には例の老人から情報が入っていました。
現場で何度も出会う謎の青眼鏡の青年と協力しながら事件を追う進藤の前に暴きだされた真相は――。 代作とはいえプロットもトリックも優れていてテンポもよく、そう言われなければ十分に本人のオリジナルで通用する作品に仕上がっています。

オススメ度:☆☆☆

2005.6.26


異邦の騎士 改訂完全版 (ミステリ)
(島田 荘司 / 講談社文庫 1999)

島田荘司さんのデビュー作は「占星術殺人事件」ですが、実は初めて書いた本格ミステリは「異邦の騎士」(当時はタイトルは違っていた)だったそうです。しかし、本人の「あとがき」によれば、デビュー後もずっとお蔵入りしていたとのこと。その後、出版の運びとなったものの、恥ずかしくなって(笑)全面的に加筆修正したのが、この「改訂完全版」なのです。
ですから、この作品が事実上、名探偵・御手洗潔が手がけた初めての事件というわけです。確かにいろいろな意味で、本作はドイルのホームズものにおける「緋色の研究」に匹敵するエポック・メイキングな作品であるといえます(詳細は自粛。序盤で「そうじゃないかな〜?」と読み進んだら、やっぱりそうでした)。
さて、語り手である主人公は、高円寺近くの公園で意識を取り戻した時には、自分に関する記憶の一切を失っていました。たまたま、ヤクザのヒモから逃げ出そうとしていた若い女性・石川良子の手助けをしたことから、彼は良子と一緒に横浜の元住吉にアパートを借りて同棲することになります。仮の名前で町工場に勤め、良子とのささやかですが幸せな生活を送り始めたものの、失った記憶をめぐって不安にさいなまれます。そんな時、彼は電車の窓から目にとまった「占星学教室」の看板に引かれ、そこの主の変人・御手洗潔と知り合い、親しくなります。
ある日、部屋の引き出しから益子秀司という名前の免許証を発見します。実は、彼が記憶を取り戻して自分の元を去っていくのを怖れて、良子が隠しておいたものでした。彼は、ためらいつつも、免許証に記された名前と住所を頼りに、失った過去を探し始めます。過去を知った上で、過去とけじめをつけて良子との新生活を始めようという決意でしたが、たどりついた家で発見したのは、生後1歳に満たない娘を道連れに自殺を遂げた妻が遺した手記でした。彼は、憑かれたように事件の謎を追い始めます。
御手洗潔が鮮やかに暴き出す、事件の真相は何か?
普通に書いたら無理が目立ってしまうトリックですが、思わず引き込まれて納得してしまう筆力はさすがです。中盤、手記が発見されるあたりからは、先が気になって途中でやめられなくなります。

オススメ度:☆☆☆

2005.6.28


前ページへ次ページへ

<簡易案内板>ダンジョンマップ書庫案内所書名インデックス著者別インデックス