ミステリ&SF感想vol.239

2025.03.13

パレードの明暗 座間味くんの推理  石持浅海

ネタバレ感想 2016年発表 (光文社文庫 い35-16)

[紹介と感想]
 『月の扉』に始まる〈座間味くんシリーズ〉の第四作で、基本的な形式は前作『玩具店の英雄』を踏襲しています(ので、そちらをご覧ください)。前作と大きく異なるのは、大迫警視長*1と“座間味くん”の飲み会に参加する語り手が、科学警察研究所の津久井操から警視庁女性特別機動隊の南谷結月巡査に交代している点で、飲み会の名目も“警察の警備失敗事例の研究”から“悩める若手警察官の視野を広げる*2に変わり、“お題”も警備の失敗事例から、大迫が語る警察関連の様々な話*3へと広がっています。

 大迫の話を“座間味くん”がひっくり返すという定型ゆえに、どのように“反転”するのか/“座間味くんが何を言い出すのか”までは予測できるエピソードも多いのですが、その“座間味くん”の一言こそが読者に対する謎の提示――ミステリとしての“発端”であって、“なぜその一言に至るのか”が最大の見どころといえるでしょう。

 いくつか気になるところもありますが、安定した面白さが魅力のシリーズであることは確かですし、巻末の阿津川辰海氏の解説――少なくとも石持浅海ファンであれば必読でしょう――も含めておすすめです。

「女性警察官の嗅覚」
 職場結婚して退職した元女性警察官が、スーパーマーケットで買い物をしている最中、生活雑貨コーナーの特定の商品が売り切れているのに気づき――そして大惨事を未然に防ぐことに成功した。警察官の視点だけでなく女性の視点も重要だと南谷に説く大迫だったが……。
 “視野を広げる”という名目がわかりやすく体現されているエピソードで、大迫の結論も教訓として十分ではあるのですが、さらに新たな視点を加える“座間味くん”の推理と、ある意味作者らしい真相が印象的です。

「少女のために」
 自宅で女児の写真や映像を撮影し、売りさばいていた母親。その行為が露見したため、児童ポルノに関する容疑で警察が家宅捜索を行って証拠を押収し、母親に任意同行を求めることになったが、捜査に参加した生活安全課の女性警察官が余計な一言を口にしたことで……。
 女性警察官が被害者に感情移入しすぎたあまりの“失敗談”として語られた事件ですが、その反転が鮮やか……というよりも、反転させるための仕掛けが実に見事でうならされます。本書の中では最も切れ味鋭い作品といっていいのではないでしょうか。

「パレードの明暗」
 大学祭で行われるコスプレパレードに対して脅迫が行われたため、実行委員たちは警戒していたが、まさにパレードが始まったところで、沿道に罠が仕掛けられていることが発覚する。罠を発見した実行委員の男子学生と女子学生はそれぞれに対処したが、そこで明暗が……。
 さほど危険性はないとはいえ、パレードに大きな被害を与える罠に対して、男子学生と女子学生の対応の違いによって“明暗”が分かれるのが興味深いところですし、その反転もよくできています。ただし、最後の部分は少々疑問が。

「アトリエのある家」
 日曜画家としての活動が評判になり、妻の許可も得て、念願のアトリエのある家に住んだ男。ところがある夜、熱狂的なファンの女性がアトリエに忍び込み、出くわした男をナイフで刺して殺してしまう。犯人は描きかけの絵を奪って逃走中に、交通事故に遭って死亡したが……。
 大迫が語った事件の話は、一見すると隙がなく(?)完結している*4ようで、何がどうひっくり返るのかまったく予想がつかない一篇。(当然ながら)困惑を余儀なくされる“座間味くん”の一言が、終わってみると納得しかなくなるのがお見事です。

「お見合い大作戦」
 まだ結婚など考えていないところへ、縁談を持ち込まれて頭を抱える男性警察官。お相手の中学校教師の女性とお見合いをすることになったが、父の上司からの紹介とあっては断るわけにもいかず、何とか先方から断ってもらおうと、警察官の苦労を大げさに吹聴するが……。
 事件ではなく若い警察官のお見合い話、しかも先方から断ってもらうために悪戦苦闘するというコントのような(?)状況から、思わぬ結論が飛び出してくるのが見どころ……ですが、どうにもすっきりしない部分が残るのが残念。

「キルト地のバッグ」
 来日中の某国閣僚の訪問で厳重な警備が敷かれる中、付近に幼稚園児を迎えに来たというフィリピン人の母親が。やがて通園バスが到着し、母親は女児の手を引いて帰っていく……が、女児から受け取ったはずのキルト地のバッグが、母親の手からなくなっていたのだ……。
 決め手を欠いてはっきりしないまま終わったテロ(未遂)事件に、新たな光を当てる“座間味くん”の推理が圧巻。そしてその真相も秀逸で、物語の幕を閉じる“座間味くん”の言葉も心に残ります。

「F1に乗ったレミング」
 その向こう見ずな行動力から、“F1に乗ったレミング”とあだ名される女性警察官。ゲリラ豪雨で冠水した道路の手前で車両に迂回を促していたところ、パトカーに追われて猛スピードの乗用車が、冠水に突っ込んで立ち往生してしまう。それを見た“レミングさん”は咄嗟に……。
 題名にもなっているあだ名がまずインパクト十分ですが、そのあだ名に恥じない(?)“レミングさん”の行動も凄まじいものがあります。そして“座間味くん”が解き明かす“レミングさん”の真意がまた強烈。これを最後に“いい話”としてまとめてしまう作者の豪腕(?)も見逃せません。
*1: 前作で警視正に昇進していた大迫ですが、本書ではさらに昇進しています。
*2: 一つ間違えると説教/パワハラじみた構図になりかねないかもしれませんが、語り手の南谷が素直に受け止めているのでいやらしさは感じられません。
*3: 事件の話ではない「お見合い大作戦」も、一応警察関連の話ではあります。
*4: しいていえば、大迫が結論として持ち出す教訓が今ひとつしっくりこないくらいでしょうか。

2019.07.01読了  [石持浅海]
【関連】 『月の扉』 『心臓と左手』 『玩具店の英雄』

滅びの掟 密室忍法帖  安萬純一

ネタバレ感想 2019年発表 (南雲堂)

[紹介]
 忍びたちが住まう伊賀の木挽の里に、服部半蔵から五人の甲賀忍者の殺害指令が下され、指名された精鋭五人が甲賀の里へ向かう。だが、甲賀の里の側にも同じような指令が下されており、忍者同士による凄絶な殺し合いが始まった。一方、木挽の里ではその後、村人たちが何者かに殺される事件が起き始め、厳重な警戒にもかかわらず正体不明の殺人者の魔の手は止まらない。次々と忍者たちが斃れていく中、次第に浮かび上がってくる陰謀。そして最後に待ち受けるのは……?

[感想]
 伊賀と甲賀の精鋭たちが指令を受けて忍者同士の死闘を繰り広げる――という、山田風太郎『甲賀忍法帖』へのオマージュ的なプロットを軸としながら、そこは『ボディ・メッセージ』(未読)で第20回鮎川哲也賞を受賞した作者のこと、“密室忍法帖”という副題で明示されているようにミステリ的な趣向も大々的に用意されており、第20回本格ミステリ大賞候補作にもなった異色の“忍者ミステリ”です。

 風太郎忍法帖にもミステリ色の強いエピソードがあります*1が、考えてみれば、ルールがない上に原則一回限りの対決となる忍者同士の戦いでは、純粋な技術(体術)の優劣もさることながら、いわゆる“初見殺し”の効果が大きくなる――忍法/忍術という“特殊能力”による自由度の高さが加わればなおさら――わけで、そうすると当然ながら“初見殺し破り”、すなわち相手の“初見殺し”を初見で見破ることも重要になってくる*2――という具合に、“トリック”と“謎解き”の要素とは親和性が高いといえるでしょう*3

 ……ということで本書でも、忍者同士の対決にはしばしば“トリック”と“謎解き”の要素が盛り込まれているのですが、それにとどまらず、自らの術に絶大な自信を持つがゆえに敵に謎解きを挑む忍者まで登場する――“者への挑戦”ならぬ“者への挑戦”(?)――のが本書のものすごいところで、必ずしもフェアプレイとはいえない部分はあるとしても、忍術合戦と同時に推理合戦でもある凄まじい勝負は、忍法帖としてもミステリとしてもなかなか見ごたえがあります。

 一方、伊賀と甲賀の忍者勝負と並行して描かれていくのが、伊賀の木挽の里で発生する不可解な連続殺人――というよりも、もはや忍者たちの大量殺戮という有様ですが、こちらも事件の犯人探しはもちろんのこと、それ以外にもミステリ的要素が散見される内容となっています。そして、物語が進むにつれて自体の背後にうごめく陰謀が浮かび上がると同時に、忍者たちの悲哀もしっかりと描き出されていきます。

 忍者たちが次々と斃れていった末に、ついに明らかになる最後の真相も何ともやるせないものですが、物語はそこで終わることなく、(おそらく大半の読者が予想できるとは思いますが)史実を絡めた結末につながっていくところがよくできていて、実に味わい深い幕切れとなっています。異色の作品ながら、傑作といっていいのではないでしょうか。

*1: 一通り読んだ中で特にミステリ色の強いエピソードとしては、『忍者月影抄』中の「忍法「足八本」」の章や「忍者枯葉塔九郎」『野ざらし忍法帖』収録)が挙げられます(どちらも(一応は)密室ものとなっています)。
*2: 風太郎忍法帖の第一作である『甲賀忍法帖』にもすでに、“初見殺し”と“初見殺し破り”(ただし謎解きではない)の構図が登場しています。
*3: 風太郎忍法帖の場合、山田風太郎自身がミステリ作家であったことも大きいのでしょうが。

2019.07.06読了

魔偶の如き齎{もたら}すもの  三津田信三

ネタバレ感想 2019年発表 (講談社)

[紹介と感想]
 『密室の如き籠るもの』『生霊の如き重るもの』に続く〈刀城言耶シリーズ〉の第三短編集です。言耶の学生時代の物語で統一されていた『生霊の如き重るもの』に対して、本書にはその後の時代、言耶が大学を卒業して間もない頃のエピソードが収録されています。シリーズではおなじみの担当編集者・祖父江偲との出会いもありますが、これは偲が登場する他の作品*1を先に読んでからの方がより楽しめると思われるので、シリーズを本書から読むのはおすすめできません。
 それぞれに違った面白さで甲乙つけがたいところがありますが、個人的ベストは「獣家の如き吸うもの」

「妖服の如き切るもの」
 仲の悪い兄弟が、坂道の上と下に分かれた二軒の家でそれぞれ、互いの息子と暮らす砂村家。その兄弟が、“上”と“下”の家で同じ剃刀を使って殺されるが、犯人らしき息子たちには剃刀を受け渡す機会がなかったという。事件には、服の姿で人を操る怪異〈妖服〉も関わっているらしい。事件の話を聞いた刀城言耶は……。
 新本格ミステリを思わせる、謎のための奇抜な設定が目を引く作品で、犯人がほぼ明らかなため、言耶の“一人多重解決”もハウダニット版となっているのが珍異色です。真相はかなりわかりやすいと思いますが、よく考えられているのは確かでしょう。ホラー要素が少々取って付けたように感じられるのが残念。

「巫死の如き甦るもの」
 刀城言耶に助けを求めてきた女学生が語るのは、何とも不気味な話だった。復員してきてから様子がおかしくなり、村の中に独自の集落を作ってそこで暮らしてきた兄が、不治の病にかかって不死の妄想――〈巫死〉に取り憑かれ、集落を高い塀で囲って閉じこもった末に、いつしかその中で消え失せていたというのだ……。
 閉ざされた空間からの人間消失……ではありますが、必ずしも不可能状況とはいえない*2上に、消えた当人をはじめとする集落の人々の不可解な様子も相まって、ハウダニットというよりもホワットダニットというべき内容となっているのが面白いところです。言耶がいきなり突きつける真相の衝撃*3、そしてそこからの恐るべき結末が強烈な印象を残します。

「獣家の如き吸うもの」
 山道で迷って“そこ”にたどり着いた歩荷{ぼっか}*4の体験談、苦労して“そこ”を探し当てた学生が綴った手記、かつて“そこ”に招かれた投資家と新聞記者の対話――三つの話には、体が二つに分かれようとしている獣たちの石像が飾られた、山中の奇怪な家が登場してくるが……話を聞いた刀城言耶の推理は?
 旧知の本宮教授*5らが提供する怪異譚の謎を解く、安楽椅子探偵形式の作品。怪異譚のホラー的な雰囲気の中、メインの謎が示されたところでは思わず笑ってしまいましたが、海外古典の名作をひっくり返したような謎はユニークですし、それが思わぬところから解き明かされるのが鮮やかです。そして一気にホラーに転じる結末もお見事。

「魔偶の如き齎すもの」
 執筆依頼に訪れた編集者・祖父江偲から、持ち主に“福”と“禍”をもたらすという土偶の骨董〈魔偶〉の話を聞いた刀城言耶は、偲とともに現在の持ち主の屋敷を訪れるが、収集した骨董を納めた卍堂の中で事件が起きる。しかし卍堂の四つの出入り口はそれぞれ、刑事を含む四人の客でふさがれていたのだ……。
 刀城言耶と祖父江偲の出会いが描かれた作品ですが、(100頁ほどで長めとはいえ)短編ということもあってか、いきなり〈魔偶〉の持ち主を訪ねるスピーディな展開*6から、奇妙な建物を舞台に事件が発生します。容疑者の数こそ少ないものの、工夫を凝らした“一人多重解決”は圧巻で、その果てに待つ意外な真相と、それを踏まえた最後の一幕もよくできています。
*1: 『山魔の如き嗤うもの』以降の長編と、短編集『密室の如き籠るもの』に登場しています。
*2: 集落を囲む塀は、深い森と山に続く背後を除いた三方に築かれています。
*3: 一部には既視感もありますが……。
*4: 山小屋などに荷物を運ぶ労働者(→Wikipedia)。
*5: 「死霊の如き歩くもの」「屍蝋の如き滴るもの」(いずれも『生霊の如き重るもの』収録)に登場した民俗学者。
*6: もっとも、訪問先で思わぬ同行の士を得た言耶が、ノリノリで脱線してしまうのが愉快ですが(苦笑)。

2019.09.02読了  [三津田信三]

君待秋ラは透きとおる Sister of the Invisible  詠坂雄二

ネタバレ感想 2019年発表 (KADOKAWA)

[紹介]
 一千万人に一人ともいわれる、唯一無二の特殊な能力“匿技”の持ち主――匿技士たちを集める、戦後の混乱期に設立された〈日本特別技能振興会〉。自分自身や手に触れたものを透明化する匿技を持つ大学生・君待秋ラは、〈振興会〉からの勧誘に一旦は背を向けるが、初めて他の匿技士に出会ったことで関心を抱き、〈振興会〉に所属することになった。匿技の研究への協力、さらには米軍の匿技士との模擬戦など、〈振興会〉での活動にもなじんでいく君待だったが、ある匿技士の死が事態を一変させる……。

[感想]
 ひねくれたミステリを発表し続ける作家・詠坂雄二による、“匿技”と呼ばれる異能を題材として、透明化の匿技を持つ主人公・君待秋ラ*1をはじめとする匿技士たちの活躍を描いたSFミステリです。帯には“バトル&リドル”という言葉がありますが、どちらも本格的になるのは物語後半に入ってからで、むしろそこに至るまでの“土台”がしっかりしているという印象を受ける*2のは、この種の作品としては異色かもしれません。

 その“土台”を担っているのが〈振興会〉の造形で、匿技の研究という役割は当然として、それよりもまず、君待を勧誘する際に説明されているように、現代の日本社会*3における公的な組織として、匿技士たちを“どのように扱うべきか”を丁寧に考えてあるのが目を引きます。その結果として、(それなりのインセンティブも用意して)匿技士を“所属させる”こと自体が第一義という穏当な(?)ものとなり*4、あまり荒唐無稽にならないような形で“超能力者の組織”を成立させてあるところがよくできています。

 そして匿技の研究についても、主に君待の透明化を対象として、現象が発生するプロセスや効果の範囲(距離や時間)などを多角的に検証し、原理の解明には至らないまでも、あるべき仮説を立てていく――という科学的なアプローチが積み重ねられていき、SF的で非常に面白いものになっています*5。そのような部分も含めて――さらにいえば設立の歴史にまである程度言及されることで、〈振興会〉が確かな存在感をもって描かれているのが本書の見どころの一つで、それ自体が本書の影の主役といえるでしょう。

 その中で、物語後半の「第六章」に入ると正体不明の“敵”の存在が浮かび上がり、“誰が?/なぜ?”という謎とともに本格的なバトルが幕を開けます……と書いてしまうと唐突に思われるかもしれませんが、バトルとミステリの両面において、それまでの物語が伏線として機能しているのが秀逸です。そして凄絶な決着を迎えるバトルと歩調を合わせるかのように、そこで明らかになる真相もまた凄絶としかいいようがなく、特にホワイダニットが何とも強烈な印象を残します。

 とある理由で自身の匿技を嫌っていた君待ですが、〈振興会〉での活動を通じて匿技への抵抗が次第に減じていったその矢先、バトルの顛末に大きな打撃を受けることになります。それでも、新たな一歩を踏み出すための“救い”が用意されており、そこから――物語全体が、作中である人物が口にした“世代を繋ぐ”という言葉を体現しているかのように――第一章と同じ「勧誘」という題名の最終章で幕を閉じるのも印象的。作者のファンであればニヤリとさせられる結末もありますが、ファンでなくとも素直に楽しめる快作といっていいのではないでしょうか。

*1: 名前が微妙(?)ですが、女性です。
*2: 主人公の透明化の他にも、鉄筋生成、座標交換、猫化……といった突拍子もない匿技が登場するにもかかわらず。
*3: 戦時中ではなく、軍備に力が注がれた国家でもなく、ましてや“悪の組織”など存在しない――要するに、匿技を戦闘に利用することが想定できない状況であり、また独裁国家のように強権的かつ秘密裏に組織を構築することもまず不可能でしょう。
*4: 三津田信三『九孔の罠』の〈ダークマター研究所〉も、多少はそのようなところがなきにしもあらずですが……。
*5: このあたり、“透明人間”をあくまでもミステリのための特殊設定として使った阿津川辰海「透明人間は密室に潜む」『透明人間は密室に潜む』収録)と読み比べてみると、方向性の違いが楽しめるように思います。

2019.09.20読了  [詠坂雄二]