ミステリ&SF感想vol.239

2019.10.09
『パレードの明暗』 『滅びの掟』 『魔偶の如き齎すもの』 『首のない女』 『君待秋ラは透きとおる』



魔偶の如き齎{もたら}すもの  三津田信三
 2019年発表 (講談社)ネタバレ感想

[紹介と感想]
 『密室の如き籠るもの』『生霊の如き重るもの』に続く〈刀城言耶シリーズ〉の第三短編集です。言耶の学生時代の物語で統一されていた『生霊の如き重るもの』に対して、本書にはその後の時代、言耶が大学を卒業して間もない頃のエピソードが収録されています。シリーズではおなじみの担当編集者・祖父江偲との出会いもありますが、これは偲が登場する他の作品*1を先に読んでからの方がより楽しめると思われるので、シリーズを本書から読むのはおすすめできません。
 それぞれに違った面白さで甲乙つけがたいところがありますが、個人的ベストは「獣家の如き吸うもの」

「妖服の如き切るもの」
 仲の悪い兄弟が、坂道の上と下に分かれた二軒の家でそれぞれ、互いの息子と暮らす砂村家。その兄弟が、“上”と“下”の家で同じ剃刀を使って殺されるが、犯人らしき息子たちには剃刀を受け渡す機会がなかったという。事件には、服の姿で人を操る怪異〈妖服〉も関わっているらしい。事件の話を聞いた刀城言耶は……。
 新本格ミステリを思わせる、謎のための奇抜な設定が目を引く作品で、犯人がほぼ明らかなため、言耶の“一人多重解決”もハウダニット版となっているのが珍異色です。真相はかなりわかりやすいと思いますが、よく考えられているのは確かでしょう。ホラー要素が少々取って付けたように感じられるのが残念。

「巫死の如き甦るもの」
 刀城言耶に助けを求めてきた女学生が語るのは、何とも不気味な話だった。復員してきてから様子がおかしくなり、村の中に独自の集落を作ってそこで暮らしてきた兄が、不治の病にかかって不死の妄想――〈巫死〉に取り憑かれ、集落を高い塀で囲って閉じこもった末に、いつしかその中で消え失せていたというのだ……。
 閉ざされた空間からの人間消失……ではありますが、必ずしも不可能状況とはいえない*2上に、消えた当人をはじめとする集落の人々の不可解な様子も相まって、ハウダニットというよりもホワットダニットというべき内容となっているのが面白いところです。言耶がいきなり突きつける真相の衝撃*3、そしてそこからの恐るべき結末が強烈な印象を残します。

「獣家の如き吸うもの」
 山道で迷って“そこ”にたどり着いた歩荷{ぼっか}*4の体験談、苦労して“そこ”を探し当てた学生が綴った手記、かつて“そこ”に招かれた投資家と新聞記者の対話――三つの話には、体が二つに分かれようとしている獣たちの石像が飾られた、山中の奇怪な家が登場してくるが……話を聞いた刀城言耶の推理は?
 旧知の本宮教授*5らが提供する怪異譚の謎を解く、安楽椅子探偵形式の作品。怪異譚のホラー的な雰囲気の中、メインの謎が示されたところでは思わず笑ってしまいましたが、海外古典の名作をひっくり返したような謎はユニークですし、それが思わぬところから解き明かされるのが鮮やかです。そして一気にホラーに転じる結末もお見事。

「魔偶の如き齎すもの」
 執筆依頼に訪れた編集者・祖父江偲から、持ち主に“福”と“禍”をもたらすという土偶の骨董〈魔偶〉の話を聞いた刀城言耶は、偲とともに現在の持ち主の屋敷を訪れるが、収集した骨董を納めた卍堂の中で事件が起きる。しかし卍堂の四つの出入り口はそれぞれ、刑事を含む四人の客でふさがれていたのだ……。
 刀城言耶と祖父江偲の出会いが描かれた作品ですが、(100頁ほどで長めとはいえ)短編ということもあってか、いきなり〈魔偶〉の持ち主を訪ねるスピーディな展開*6から、奇妙な建物を舞台に事件が発生します。容疑者の数こそ少ないものの、工夫を凝らした“一人多重解決”は圧巻で、その果てに待つ意外な真相と、それを踏まえた最後の一幕もよくできています。

*1: 『山魔の如き嗤うもの』以降の長編と、短編集『密室の如き籠るもの』に登場しています。
*2: 集落を囲む塀は、深い森と山に続く背後を除いた三方に築かれています。
*3: 一部には既視感もありますが……。
*4: 山小屋などに荷物を運ぶ労働者(→Wikipedia)。
*5: 「死霊の如き歩くもの」「屍蝋の如き滴るもの」(いずれも『生霊の如き重るもの』収録)に登場した民俗学者。
*6: もっとも、訪問先で思わぬ同行の士を得た言耶が、ノリノリで脱線してしまうのが愉快ですが(苦笑)。

2019.09.02読了  [三津田信三]
【関連】 〈刀城言耶シリーズ〉


黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.239