詩詞世界　碇豊長の漢詩　李清照　如夢令

　　　如夢令

昨夜雨疏風驟，
濃睡不消殘酒。
試問卷簾人，
却道海棠依舊。
知否？
知否？
應是綠肥紅痩。

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如夢令

昨夜　　雨　疏にして　風　驟なり，
濃き睡りも　　殘酒を消さず。
試みに問ふ　　簾を卷く人に，
却って道ふ：「海棠は　舊に依る」と。
知るや否や？
知るや否や？
應に是れ　　綠肥え　紅痩せたるべし。

私感訳注：

※如夢令：詞牌の一。単調。詳しくは下記「構成について」を参照。この作品は、両宋・左緯の『春日晩望』「屋角風微煙霧霏，柳絲無力杏花肥。朦朧數點斜陽裏，應是呢喃燕子歸。」

と趣を同じくする。韓

の詩『懶起』の「昨夜三更雨，臨明一陣寒。海棠花在否？倒臥巻簾看。」（昨夜　三更（午前零時）の雨，明（夜明け）に臨みて　一陣の寒あり。海棠の花　在りや否や？倒に臥して　簾を巻きて看る。）や、孟浩然の『春曉』「春眠不覺曉，處處聞啼鳥。夜來風雨聲，花落知多少？」

や、杜甫の『春夜喜雨』「好雨知時節，當春乃發生。隨風潛入夜，潤物細無聲。野徑雲倶黑，江船火獨明。曉看紅濕處，花重錦官城。」

の雰囲気がある。

※昨夜雨疏風驟：昨夜は雨は疎（まば）らだったが、風が急に吹き出した。　・疏：まばらである。うとい。とぼしい。　・驟：にわか。すみやか。

※濃睡不消殘酒：深い眠りも昨日の酔いを消せなかった。　・濃睡：深い眠りの表現。　・不消殘酒：昨晩飲んだ酒の酔いが残っていること。

※試問卷簾人：簾（カーテン）を巻いている（使用）人に少し尋ねますが。　・試問：こころみに　とう。おたずねしますが。本当に声を出して尋ねたかどうかは、問題ではない。　・卷簾人：簾を巻く人。使用人。婢。ここでも実際に使用人がいたかどうかは別として、この詞は問答のおもしろさを詠い込んでいるのを味わうところ。南宋・陳與義の『雨過』に「水堂長日淨鴎沙，便覺京塵隔鬢華。夢裏不知涼是水，卷簾微濕在荷花。」

とある。

※却道海棠依舊：なのに「海棠の花は以前のままですよ」と言う。　・却：でも。なのに。意に反して、という感じの時に使う。　・道：いう。のべる。　・海棠：カイドウ。薔薇科の落葉灌木。淡紅色の花を春先につける。美人の比喩に、詩詞でもよく使われる。　・依舊：旧による。昔のまま。変化のないこと。つまり、「花は散っていませんよ。大丈夫です。そのままです。」と答えたことをいう。

※知否？知否：そうなの？そうなの？　・知否：しるや　いなや。　・-否：前述の事柄を疑問文にする働きを持つ。助詞。「本当にあなた、ちゃんと見たの？」「外の様子が分かっているの？」という風になろう。

※應是綠肥紅痩：きっと慈雨で緑の葉が増えて、風で花が散って減ったことでしょうよ。　・應是：きっと…だろう。ちょうど。まさに　これ。「是」字を「これ」と読んでいるが、指示詞としての機能は、この場合ない。　・緑肥紅痩：緑の葉が茂り、花びらが散って花の（赤い）色が減ったこと。雨後の庭の植物のようすを、擬人的な表現で表した有名な一節。北宋・柳永の『八聲甘州』に「對蕭蕭暮雨灑江天，一番洗清秋。漸霜風淒緊，關河冷落，殘照當樓。是處紅衰翠減，苒苒物華休。惟有長江水，無語東流。　　　不忍登高臨遠，望故鄕渺