無題
　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　明 太祖・朱元璋

殺盡江南百萬兵， 腰間寶劍血猶腥。 山僧不識英雄漢， 只顧嘵嘵問姓名。

　　　
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　　　　　　　　　　無題

殺し盡くす　　江南　百萬の兵，
腰間の　寶劍　　血　猶（な）ほ　腥（なまぐさ）し。
山僧（は）　識（し）らず　　英雄漢を，
只（た）だ 顧（ひたすら）に　嘵嘵（けうけう）として　　姓名を　問ふ。

　　　　　　　　　　　　　******************

◎　私感訳註：

※朱元璋：１３２８年（天暦元年）〜１３９８年（洪武三十一年 ）。明の初代皇帝。洪武帝のこと。（在位１３６８年〜１３９８年）。安徽省の農民の出身。元末の白蓮教の紅巾の乱に参加し、やがて、金陵（現・南京）に拠って皇帝に即位。字は國瑞。廟号は太祖。諡は高皇帝。

※無題：詩題がない。朱元璋が身分を隠して寺院を訪れた際、僧侶が何度も「どちら様でしょうか」と煩く問い訊ねてきたきたことへの返事の詩。新王朝を開いた帝王の歌に相応しい気魄がある。後世、日本の武田信玄が『偶作』として「鏖殺江南十萬兵，腰間一劍血猶腥。豎僧不識山川主，向我慇懃問姓名。」として使う。

※殺盡江南百萬兵：江南の百万もの兵士を鏖（みなごろ）しした（ので、腰間の宝剣は）。　・殺盡：殺し尽くす。皆殺しにする。鏖殺する。　・江南百萬兵：中国南部の多数の軍勢。朱元璋が長江を渡って金陵を占領、浙江に進み、江西の陳友諒、蘇州の張士誠などを降したときの中国南部を舞台とした戦闘を指す。金の皇帝・完顏亮の『呉山』に「萬里車書盡混同，江南豈有別疆封。提兵

西湖上，立馬呉山第一峰。」とある。

※腰間寶劍血猶腥：腰におびた立派な剣は、（そこにに附いている）血糊は、なおもまだ、なまぐさい。　・腰間：腰。腰のあたり。腰のまわり。 腰におびた（剣）。　・寶劍：立派な剣。　・血：（宝剣に附いている）血糊。　・猶：なおもまだ。　・腥：なまぐさい。

※山僧不識英雄漢：山寺の僧侶は、天下の大人物を知らない（ので）。　・山僧：山寺の僧侶。　・不識：知らない。蛇足になるが、「しらず」と読むもので、「不識」は「眼識がない、わきまえない」の意だが、「不知」は「…かどうか分からない」の意になる。また、「不識」は●●で、「●●」のところで使い、「不知」は●○で、「○○」のところで使う。ここの句は「○○

○○●」とすべきところで、●●の「不識」を用いる。　・英雄漢：英雄。大人物。「-漢」は男児に附く。「男子漢」のように。

※只顧嘵嘵問姓名：ただひたすら、ブツブツと姓名を問いかけることのみに一生懸命である。　・只顧：ただ…にのみ気を取られる。ひたすら…のことのみに一生懸命になる。…にかまける。　・嘵嘵：〔けうけう；xiao1xiao1〕不平不服を述べ立てるさま。恐れる声。「」〔きうきう；xiu1xiu1〕ともする。その場合は、動物の鳴き声で「ギャーギャーとうるさく」の意になる。　・問姓名：姓名を問いかける。

◎　構成について

２００４．７．２７ 　　　　　７．２８完 ２００９．５．　６補

漢詩　唐詩　漢詩　宋詞

次の詩へ 前の詩へ 「唐宋・碧血の詩篇」メニューへ戻る 　　　　********** 辛棄疾詞 陸游詩詞 李�U詞 李清照詞 花間集 婉約詞 歴代抒情詩集 秋瑾詩詞 天安門革命詩抄 毛主席詩詞 碇豊長自作詩詞 豪放詞　民族呼称 詩詞概説　　 唐詩格律　之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 詩韻 参考文献（宋詞・詞譜） 参考文献（詩詞格律） 参考文献（唐詩・宋詞）

わたしの主張

メール

トップ