漢詩  紅毛刀歌
   

一泓秋水淨纖毫,
遠看不知光如刀。
直駭玉龍蟠匣内,
待乘雷雨騰雲霄。
傳聞利器來紅毛,
大食日本羞同曹。
濡血便令骨節解,
斷頭不俟鋒刃交。
抽刀出鞘天爲搖,
日月星辰芒驟韜。
斫地一聲海水立,
露鋒三寸陰風號。
犀象水截蛟,
魍魎驚避魑魅逃。
遭斯刃者凡幾輩

髑髏成羣血湧濤。
刀頭百萬冤魂泣,
腕底乾坤殺劫操。
來掛壁暫不用,
夜夜鳴嘯聲疑
英靈渇欲飮戰血,
也如塊磊需酒澆。
紅毛紅毛爾休驕,
爾器誠利吾寧抛。
自強在人不在器,
區區一刀焉足豪



******


紅毛刀歌

一泓の 秋水  淨ら 纖毫,
遠る看れば 知らず  光ること 刀の如きと。
直ちに駭
(おどろ)かす 玉龍  匣内に蟠(わだかま)るを,
雷雨に乘って  雲霄に騰らんとす。
傳へ聞く 利器は  紅毛より 來
(きた)ると,
大食 日本  同曹たるを羞づ。
血に濡らせば 便ち  骨節をして 解かしめ,
頭を斷たれど 俟
(ま)たず   鋒刃を交ゆるを。
刀を抽き 鞘を出さば  天 爲
(ため)に搖ぎ,
日月 星辰  芒
(ひかり) 驟(たちま)ち 韜(つつ)む。
地を斫
(き)ること 一聲  海水 立ち,
鋒を露すこと 三寸  陰風 號
(ほ)ゆ。
陸は 犀象を 
(き)り  水は蛟(みづち)を 截(た)つ,
魍魎は 驚き避け  魑魅は逃る。
(こ)の 刃に遭ひし者は  凡そ幾輩?
髑髏は 羣を成して  血は 濤を湧かす。
刀頭の 百萬  冤魂 泣き,
腕底の 乾坤  殺して 操を劫
(うば)ふ。
(いさ)み 來れど 壁に掛け  暫し 用ひざれば,
夜夜 鳴嘯して  聲 疑ふらくはの ごとし。
英靈 渇
(かわ)かば  戰血を飮まんと 欲し,
(なほ)も 塊磊の 如くして  酒澆すを 需(ほっ)す。
紅毛 紅毛  爾
(なんぢ) 驕るを休(や)めよ,
爾の器 誠利なれば  吾 寧
(むし)ろ 抛(なげう)たんとす。
自強は 人に在りて  器に在らず,
區區たる 一刀  焉
(いづ)くんぞ 豪たるに 足らんや。


           **********
◎私感注釈

※一泓:一すじの清らかな泉水。清水を数える。
※秋水:秋の澄んだ川の流れ。刀のきらめき。刀。
※淨:ただ…ばかり。もっぱら。すっかり。
※纖毫:少し。極めて細い。
※一泓秋水淨纖毫:一すじの清らかな秋の澄んだ川の流れは、すっかり細くなり。
※淨:ただ…ばかり。もっぱら。すっかり。
※纖毫:少し。極めて細い
※遠看:遠目に見れば。遠くから見れば。
※不知:わからない。
※光:すっかり。ただ。輝く。
※如刀:刀のようだ。
※遠看不知光如刀:遠くから見れば、まるで刀のように輝いている。
※直:ただちに。
※駭:驚かす。驚く。乱す。擾乱する。さわがす。かき乱す。
※玉龍:龍。
※蟠:わだかまる。
※匣内:箱の中。
※待:…しようとする。…んとす。
※乘:のる。
※雷雨:雷雨。
※騰雲霄:天に舞い上がる。
※傳聞:伝えられるところでは…というそうだが。伝え聞く。伝聞の表現。
※利器:鋭利な刃物。便利な物。
※紅毛:ここではヨーロッパ、西洋を指す。
※大食:アラビア。たいしょく。
※日本:日本。日本刀をいう。
※羞同曹:同輩であることがきまりがわるい。「紅毛の刀剣」が優れている、といっている。
※濡血:血でぬらす。血で染める。
※便:すなわち。
※令:…しむ。…に…をさせる。
※骨節:関節。
解:はずれる。
※斷頭:頭を断ち切られる。
※俟:待つ。
※鋒刃:ほこさき。切っ先。
交:。
※抽刀:刀を抜く。
※出鞘:サヤから出す。サヤから出る。
※天爲搖:天を揺るがす。
※日月星辰:太陽や月や星。
※芒驟韜:太陽の光芒が突然隠されてしまう。 ・芒:光芒。切っ先。 ・驟:突然。 ・韜:つつむ。収める。かくす。弓の袋。剣の袋。
※斫地一聲:大地をスパッと断つ。また、スパッと。ザクッと。ザクリと切る。 ・斫:刀や斧などで切る。断ち切る。 ・地:大地(をたちきる)。或いは、〔白話〕…と(する)。…に(なる)。副詞的な接続の時に使われる。
※海水立:海水が縦に立つ。
※露鋒三寸:やいばを三寸だけ抜き出すと。
※陰風號:陰気な風が吹き荒び。
※陸:陸上では…を斬り。
※犀象:サイやゾウなどの巨獣。
※水截:水族では…を斬る。
※蛟:ミズチ。吉祥を表さない鱗獣。
※魍魎:妖怪変化。化け物。「魍魎」(まうりゃう;wang3liang3)は、すだま。山水、木石の精霊。形は三歳の子どものようで、人をよく騙すという。「魑魅」(ちみ;chi1mei4)は山林の気から生じる化け物。人面獣心で人をよく惑わすという。 ・「魑魅魍魎」。怪。霊。ばけものともののけ。
:魍魎驚避:魍魎は、驚いて、身を避けて(隠れ)。
※魑魅逃:魑魅は、(驚いて)逃げ去った。
※遭:…にであう。…に行き当たる。「逢う」という意味だが、佳いことには使わない。不幸なことに出逢うときに使う。
※斯刃者:このヤイバに(行き会って、斬られた)者。
※凡幾輩:いったいどれ程になるだろう。およそ幾人になるか。
※髑髏成羣:ドクロは、累々として、群れを成し。
※血湧濤:血は大波を湧き起こす。
※刀頭百萬:刀の刃先で(斃された)百万にのぼる(霊)。
※冤魂泣:冤罪で殺された霊魂が泣いている。
※腕底:手中。自分の影響下にある。
※乾坤:天地。ここでは、影響力を与え得る世界をいう。
※殺劫操:殺人を犯したり、女人の貞操を奪う。暴虐を尽くすこと。
來掛壁::行く。勇ましい。ここは、後者の意。 ・掛壁:壁に掛ける。こことほぼ同じなのは「寶劍詩」の「~劍雖掛壁, 鋒芒世已驚, 中夜發長嘯, 烈烈如梟鳴。」
※暫不用:暫しの間は、不必要である。
來掛壁暫不用:勇み立っているので、壁に掛けておくということは、暫しの間は、不必要である。
※夜夜:夜ごと。毎夜。謂う。南宋・陸游の『長歌行』に「人生不作安期生,醉入東海騎長鯨;猶當出作李西平,手梟逆賊清舊京。金印煌煌未入手,白髮種種來無情。成都古寺臥秋晩,落日偏傍僧窗明。豈其馬上破賊手,哦詩長作寒螿鳴?興來買盡市橋酒,大車磊落堆長瓶。哀絲豪竹助劇飮,如巨野受黄河傾。平時一滴不入口,意氣頓使千人驚。國仇未報壯士老,匣中寶劍有聲。何當凱旋宴將士,三更雪壓飛狐城。」とある。
※鳴嘯:啼く。吼える。
※聲疑:(刀の夜鳴きの)声は、まるでフクロウのようだ。(刀の夜鳴きの)声は、疑うらくはフクロウの如きものだ。 ・:フクロウの類の総称。猛々しい、という感じが籠もっている。
※英靈渇欲飮戰血:戦闘の英霊は、喉がかわけば、戦で流れた(敵・匈奴の)血を飲み。
※也如:…のようでもある。
※塊磊:胸中不平を抱くこと。=磊塊=塁塊。也如塊磊
※需:必要がある。。
※酒澆:酒で憂さを晴らす。酒で愁いを解く。
※爾休驕,(紅毛よ紅毛よ)おまえは、おごり高ぶるな。なんぢ驕るをやめよ。
※爾器:おまえの(国の)道具。
※誠利:本当に優れている。
※吾寧抛:わたしは、むしろ(その鋭利な器物を)抛棄したい。 ・抛:なげうつ。捨てる。
※自強:みずからを強化していくのは。台湾に「自強号」という列車があるのはこの意。中国風に云えば「自力更正」。
在人:人にある。人的要素である。
※不在器:道具にあるのではない。
※自強在人不在器:みずからを強化していくのは、人的要素であるのであって、道具にあるのではない。
※區區一刀:ささやかな一振りの刀。区々たる一刀。
※焉足豪:どうしてと豪勇と云うに足るだろうか。 ・焉:なんぞ。いずくんぞ。
※區區一刀焉足豪:たった一本の刀が、どうして凄いといえようか。



◎ 構成について

  一韻到底。韻式は「AAAAAAAAAAAAAAAAAA」。韻脚は「毫刀霄毛曹交搖韜號蛟逃濤操澆驕抛豪」。みごとに一韻で到底している。


以下の平仄はこの作品のもの。

   ●○○●●○○,(韻)
    ●◎●○○○○。(韻)
   ●●○○●●○,
   ○●○○●○○。(韻)
   ○○●●○○○,(韻)
   ○○●●○○○。(韻)
   ○○●●○○○,
   ●●○○●●○。(韻)
   ●○○●○○●,(韻)
   ○●○○○●●。(韻)
     
(以下略)

2002.11.15
     11.17
     11.18
     11.19完
     11.25補
2014. 7. 6
     

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