白居易想帰田園白楽天詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 baijuyi

想帰田園

                    　　　                       白楽天白居易
      想歸田園

      　　　　　　　　　　　白居易

戀他朝市求何事，
想取丘園樂此身。
千首惡詩吟過日，
一壺好酒醉消春。
歸鄕年亦非全老，
罷郡家仍未苦貧。
快活不知如我者，
人間能存幾多人。

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田園に歸るを　想ふ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
他（か）の　朝市を戀ひて　　何事をか　求むる，
丘園に想ひ取（いた）して　　此の身を樂しましむ。
千首の　惡詩　　吟じて　　日ゝを　過ごし，
一壺の　好酒　　醉ひて　　春を　消す。
鄕に　歸るも　年　亦た　　全（まった）くは老ゆるに　非ず，
郡を　罷（や）めるも　家は　仍（な）ほ　　未だ　苦（はなは）だしくは貧ならず。
快活　　　我の如き者は　知らず，
人間（じんかん）　能（よ）く　　幾多の人　存すやを。

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◎　私感註釈

※想歸田園：田園に隠棲したい。陶淵明の『歸去來兮辭』（歸去來兮，田園將蕪胡不歸）、『歸去來兮辭・序』（余家貧，耕植不足以自給）　『歸園田居五首・其一』（少無適俗韻）　等に基づいて作られている。　*この白居易の作品に基づいて李煜が『漁父』「浪花有情千里雪，桃李無言一隊春。一壺酒，一竿身，快活如儂有幾人」を作った。　・想：…したいとおもう。
※戀他朝市求何事：あのような都会に恋々として、どのような事を求めているのか。　・戀他：かの……を恋い慕う。　・他：あの。かの。　・朝市：朝廷と　いちで、都市。都会。後出の「丘園」に対して使われている。『歸園田居・五首・其四』に「久去山澤游，浪莽林野娯。試攜子姪輩，披榛歩荒墟。徘徊丘壟間，依依昔人居。井竈有遺處，桑竹殘朽株。借問採薪者，此人皆焉如。薪者向我言，死沒無復餘。一世異朝市，此語眞不虚。人生似幻化，終當歸空無。」とある。　・求：もとめる。ここでは（名利を）求める等の意になる。　・何事：どんな事。
※想取丘園樂此身：丘のある田園に思い致して、この我が身を憩わせよう。　・想取：思い致す。　・丘園：いなか。丘のある田園。隠棲地を謂う。『歸去來兮辭』に、「既窈窕以尋壑，亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮，泉涓涓而始流。羨萬物之得時，感吾生之行休。」とある。また、前出『歸園田居・五首・其四』に「徘徊丘壟間，依依昔人居。」とある。　・樂此身：この我が身を憩わせよう。ここには使役の介詞が使われていないが、語順に使役の意味が含まれるので、上記のような読み下しになる。
※千首惡詩吟過日：たくさんのへたな詩をうたって、日々を過ごし。　・千首：（詩歌が）多くの。千首の。・惡詩：（自分が作った）へたな詩。　・吟：うたう。詩歌を口ずさむ。　・過日：日々をすごす。　*蛇足になるが、この表現は現代に至るまで“過日子”として、使われている。
※一壺好酒醉消春：一壷のすばらしい酒で、春の愁いを消す。　・一壺好酒：一ビンのおいしい酒。一壷のすばらしい酒。『歸去來兮辭』「攜幼入室，有酒盈樽。引壺觴以自酌，眄庭柯以怡顏。」や、『飮酒』がある。　・醉：酔う。　・消春：春愁を消す。春を惜しむ心を無くす。春の愁いを消す。　*白居易の『長恨歌』に「醉如春」がある。
※歸鄕年亦非全老：故郷へ帰るのにも年齢も（別段）すっかり老け込んでいるというものでもない。　・歸鄕：故郷へ帰る。　・年：年齢。　・亦：…も。…も（また）。　・非：…ではない。　・全老：すっかり老け込んでいる。完全な老人。
※罷郡家仍未苦貧：郡の役人やめても、一家の生活は、なおもまだ貧しさに苦しむというものではない。　・罷：やめる。　・郡：郡の役人。　・家：作者の一家のことになる。　・仍：なおも。　・未：まだ。　・苦：はなはだ。たいそう。ここは副詞の「全」に対応するところなので、「苦」も副詞の意に解するのが至当。　・貧：貧しい。困窮する。
※快活不知如我者：わたしのように、たのしくすごすのは（この世の中に一体どれほど存在しうるのか）分からない。　*顏回の「楽しみ」を聯想させることばである。　・快活：たのしく（すごす）。たのしい。愉快な。　*蛇足になるが、この意味での用法は、現代に至るまで使われている。　・不知：分からない。　・如我者：わたしのような者。　*南唐後主の李煜はこれに基づき、前出「快活如儂有幾人」を作った。
※人間能存幾多人：この世の中に、どれほど存在しうることだろうか。　・人間：〔じんかん；ren2jian1〕この世の中。浮き世。　・能存：どれほどありえるだろうか。　・幾多人：どれほどの数の人。

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◎　構成について

平起。韻式は、「AAAA」。韻脚は「身春貧人」で、平水韻上平十一真。次の平仄はこの作品のもの。

●○○●○○●，
●●○○●●○。（韻）
○●●○○●●，
●○●●●○○。（韻）
○○○●○○●，
●●○●○●○。（韻）
●●●○○●●，
○○○●●○○。（韻）