顧況聴角思帰詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩 GuKuang

                     　       　　
      聽角思歸　
　　　　　　　　　　　　　　
      　　　　　　　　　　　　顧況　

故園黄葉滿靑苔，
夢後城頭曉角哀。
此夜斷腸人不見，
起行殘月影徘徊。

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角（かく）を聽きて　歸るを思ふ　　

故園の黄葉（くゎうえふ）　　靑苔に滿つ，
夢後　城頭（じゃうとう）　　曉角（げうかく）　哀し。
此の夜　斷腸（だんちゃう）　　人　見えず，
起ちて行けば　殘月　　影　徘徊（はいくゎい）す。

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◎　私感註釈

※顧況：中唐の詩人。開元十五年（７２７年）～元和十年（８１５年）。字は逋翁。華陽眞逸と号す。蘇州の人。

※聽角思歸：角笛（つのぶえ）の音を聴いて、帰郷の念を起こす。　・聽：耳を欹てて積極的に聴く。　・角：角笛（つのぶえ）。　・思歸：帰郷の念を起こす。唐・李白の『關山月』に「明月出天山，蒼茫雲海間。長風幾萬里，吹度玉門關。漢下白登道，胡窺青海灣。由來征戰地，不見有人還。戍客望邊色，思歸多苦顏。高樓當此夜，歎息未應閒。」とある。

※故園黄葉滿靑苔：（夢の中では）故郷は、（秋の末になって）黄色く色づいた木の葉が青々としたコケの上に一杯になって（散っている）。　*「故園黄葉滿靑苔」は、作者が見た夢の中の情景になる。　・故園：故郷。　・黄葉：秋の末になって黄色く色づいて散る木の葉。≒紅葉。　・滿：いっぱいになっている。みちている。　・靑苔：青々としたコケ。

※夢後城頭曉角哀：（その）夢から覚めた後、城塞の上から明け方（を告げる）角笛が聞こえてくるが、あわれっぽく（感じられる）。　・夢後：夢から覚めた後。　・城頭：城塞の上。　・曉角：明け方（を告げる）角笛。　・哀：あわれである。あわれっぽい。いたましい。

※此夜斷腸人不見：この夜、（深く思っている）人が（夢の中に？現実に？）あらわれないことで、はらわたを断ち切られちぎれるほど悲しさを覚える。　・此夜：この夜。前出・李白の『關山月』「明月出天山，蒼茫雲海間。長風幾萬里，吹度玉門關。漢下白登道，胡窺青海灣。由來征戰地，不見有人還。戍客望邊色，思歸多苦顏。高樓當此夜，歎息未應閒。」、同・李白は『春夜洛城聞笛』「誰家玉笛暗飛聲，散入春風滿洛城。此夜曲中聞折柳，何人不起故園情。」や『三五七言』でこの句を使い、「秋風清，秋月明。落葉聚還散，寒鴉棲復驚。相思相見知何日，此時此夜難爲情。」としている。　・斷腸：非常な悲しみを謂う。腸（はらわた）を断ち切られちぎれるほどの悲しさや辛さのこと。　・人：ここでは､作者が深く思っている人のことになる｡　・不見：あらわれない。会わない。前出・李白の『關山月』に「由來征戰地，不見有人還。」とある。

※起行殘月影徘徊：（寝床より）起き上がって（作者が庭先を）歩き出せば、明け方の空に残っている月の姿も、（共に）行ったり来たりする。李白の『月下獨酌』に「花間一壺酒，獨酌無相親。舉杯邀明月，對影成三人。月既不解飮，影徒隨我身。暫伴月將影，行樂須及春。我歌月徘徊，我舞影零亂。…」とある。　・起行：（寝床より）起き上がって（作者が庭先を）歩き出す。　・殘月：明け方まで空に残っている月。すたれた月。有明の月。　・影：ひかり。姿。形。また、（物の）かげ。この語の解釈で意味は大きく変わる。ここでは､「月（の形）」「月影」ととる。前出・李白の『月下獨酌』の「對影成三人」。この「影」の意は、前出・李白の『月下獨酌』や後出・曹植の『七哀詩』での用法と同義とする。この『聽角思歸』のみ見て、月光に照らし出された作者の影、とはとらない。　・徘徊：〔はいくゎい；pai2huai2○○〕さまよう。ぶらぶら歩く。行ったり来たりする。うろつく。曹植の『七哀詩』に「明月照高樓，流光正徘徊。上有愁思婦，悲歎有餘哀。借問歎者誰，言是客子妻。君行踰十年，孤妾常獨棲。君若淸路塵，妾若濁水泥。浮沈各異勢，會合何時諧。願爲西南風，長逝入君懷。君懷良不開，賤妾當何依。」とある。この曹植『七哀詩』では、「徘徊」するのは「明月」であるが、李白の『月下獨酌』「舉杯邀明月，對影成三人。…影徒隨我身。暫伴月將影，我歌月徘徊，我舞影零亂。…」でも「徘徊」するのは「月」。

◎　構成について

　韻式は「AAA」。韻脚は「苔哀廻」で、平水韻上平十灰。平仄はこの作品のもの。

●○○●●○○，（韻）
●●○○●●○。（韻）
●●●○○●●，
●○○●●○○。（韻）