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      烏衣巷  

                 劉禹錫

朱雀橋邊野草花,
烏衣巷口夕陽斜。
舊時王謝堂前燕,
飛入尋常百姓家。


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烏衣巷
                       
朱雀橋
(すざくけう)(へん)  野草(やさう)の花,
烏衣巷
(ういかう)(こう)  夕陽(せきやう) 斜めなり。
舊時
(きうじ)の王謝(わうしゃ)  堂前(だうぜん)の燕,
飛びて  尋常
(じんじゃう) 百姓(ひゃくせい)の家に 入る。

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◎ 私感註釈


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 烏衣巷(図中央の東西の短い通り)
『聯珠詩格』巻十二より
※劉禹錫:中唐の詩人。772年(大暦七年)〜842年(會昌二年)。白居易や柳宗元との詩の応酬も多い。白居易とともに『竹枝詞』や『楊柳枝』を作る等、前衛的、実験的なことに取り組む。字は夢得。監察御史、太子賓客。

※烏衣巷:金陵城(建業、建鄴、建康、現・南京)の南側、秦淮区の白鷺洲公園のすぐ西側にある町内の名(中国では通りの名称:右図中央“
乌衣巷”)。三国・呉の烏衣営(黒い制服の兵営)の駐屯地であったことからその名が附いた。南朝の名族である王導、謝安の一族も住んだところ。この詩どことはなく唐・韓翃の『寒食』「春城無處不飛花,寒食東風御柳斜。日暮漢宮傳蝋燭,輕煙散入五侯家。」に次韻をしたようでもあり、表現も似通っている。関聯があるのか。

※朱雀橋邊野草花:(南京城の南にある浮橋の)朱雀橋あたりは、雑草で覆われている。 ・朱雀橋:南京城の南にある秦淮河の上の浮橋の名。 ・邊:あたり。一帯。 ・野草花:野生の草花が咲く。雑草が生える。荒れ果てたさまを表現している。古来、伝統的に「朱雀橋邊野草花」の部分は「朱雀橋邊 野草の花」の読む(写真:右)が、「朱雀橋邊野草花」と「烏衣巷口夕陽斜」とは対句になっており、「野草花」と「夕陽斜」と対になっている。「夕陽・斜」、「野草・花」でと「斜」は「ななめになる」、「花」は「はなさく」といった動詞として使われているのが分かる。李白の『登金陵鳳凰臺』では「鳳凰臺上鳳凰遊,鳳去臺空江自流。呉宮
花草埋幽徑,晉代衣冠成古丘。三山半落天外,二水中分白鷺洲。總爲浮雲能蔽日,長安不見使人愁。」と金陵の曾ての栄光を詠ったが、これは名詞としての用例。

※烏衣巷口夕陽斜:(南京城の南寄りにある)烏衣巷の街の入り口では、夕日が斜めに(射し込んでいる)。 ・-巷口:路地の入り口。 ・夕陽斜:凋落の雰囲気を持った表現。 ・斜:傾いている。斜めになっている。

※舊時王謝堂前燕:過ぎ去った昔(の六朝に王導や謝安を出した南朝の名族である)王・謝一族の大邸宅の前のツバメは。 ・舊時:〔きうじ;jiu4shi2●○〕過ぎ去った昔。 ・王謝:王導や謝安を出した南朝の名族。 ・堂前:大きい建物の前。表座敷の前。

※飛入尋常百姓家:(今では)普通の庶民の家に飛んで入ってきている。(場所は同じ烏衣巷でも、既に王謝の堂は無くなって、その跡には庶民の家が建っているということを謂う)。 ・飛入:飛んできて入り込む。 ・尋常:〔じんじゃう;xun2chang2○○〕普通の。 ・百姓:〔ひゃくせい;bai3xing4●●〕一般の人民。庶民。「百姓」の住むところは「家」であって、「王・謝」のような権門の住むところは「堂」と、使い分けている。

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◎ 構成について

一韻到底。韻式は、「AAA」。韻脚は「花斜家」で、平水韻下平六麻。次の平仄はこの作品のもの。

○●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
●○○●○○●,
○●○○●●○。(韻)

2007. 5.19
      5.20完
2009.10.27補
2013. 5.26

漢詩 填詞 詩餘 詩余 

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