悠悠風旆繞山川,
山驛空濛雨作煙。
路半嘉陵頭已白,
蜀門西更上靑天。
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嘉陵驛に題す
悠悠たる 風旆 山川を繞り,
山驛 空濛として 雨 煙と作る。
路 嘉陵に半ばして 頭 已に白く,
蜀門 西のかた 更に 青天に上らん。
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◎ 私感註釈
※武元衡:中唐の政治家。字は伯蒼。河南氏の人。758年(乾元元年)~815年(元和十年)。憲宗の元和二年に門下侍郎・同中書門下平章事(宰相)となった。
※題嘉陵驛:作者が蜀に入る途上でうたった。 ・題:…を題とした詩を作る。 ・嘉陵驛:陝西から蜀に入る道の途中にある駅。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)の52-53ページ「唐 山南東道 山南西道」で蜀の入り口附近の、街道と嘉陵江が交わる近くに綿谷、利州や、渡し場の吉柏津が並んでいる。吉伯津から渡って蜀に入った。現・広元よりややわずかに益昌、剣閣(南側:蜀)寄り。
※悠悠風旆繞山川:ゆつたりと落ち着いて風に靡く旗(の行列)が(秦嶺山脈、大巴山の大山脈と、岷山の大山脈の間の地溝帯を嘉陵江の流れる)それらの山川を繞(めぐ)って(進んでいる)。 ・悠悠:〔いういう;you1you1○○〕遠くはるかなさま。限りないさま。長く久しいさま。ゆつたりと落ち着いたさま。『詩經・王風・黍離』に「彼黍離離,彼稷之苗。行邁靡靡,中心搖搖。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉。彼黍離離,彼稷之穗。行邁靡靡,中心如醉。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉。彼黍離離,彼稷之實。行邁靡靡,中心如噎。知我者,謂我心憂,不知我者,謂我何求。悠悠蒼天,此何人哉。」とあり、曹操は『短歌行』「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。青青子衿,悠悠我心。 但爲君故,沈吟至今。鹿鳴
,食野之苹。我有嘉賓,鼓瑟吹笙。」
とある。 ・風旆:〔ふうはい;feng1pei4○●〕風に靡く旗。 ・旆:〔はい;pei4●〕はた。黒地にさまざまの色の縁飾りを附け、その末端を燕の尾のように裂いた旗。大将の立てる旗。 ・繞:〔ぜう;rao4●〕めぐる。まつわる。まとう。 ・山川:秦嶺山脈、大巴山の大山脈と、岷山の大山脈の間の地溝帯を嘉陵江が流れる。それらの山河。
※山驛空濛雨作煙:山の中の宿場では、霧雨が降って薄暗く、靄(もや)が立ち籠めている。 ・山驛:山の中の宿場。嘉陵江を渡る手前側では綿谷、利州、渡し場では吉柏津、対岸に渡った益昌のどれかになろう。 ・空濛:霧雨が降って薄暗いさま。後世、蘇軾の『飮湖上初晴後雨』で「水光瀲晴方好,山色空濛雨亦奇。欲把西湖比西子,淡粧濃抹總相宜。」
と使う。 ・作:(…と)なる。「似」ともする。 ・似:ごとし。 ・煙:もや。
※路半嘉陵頭已白:(蜀の任地への)路程は半ばで、(やっと)嘉陵江(の渡し場吉柏津に辿り着いたが)髪の毛はとっくに白くなって。 ・路半:(蜀の任地への)路程は半ばである。 ・嘉陵:陝西省西部を川から南に流れる川の名。蜀に至る街道と並行しているが、蜀に入る手前で交叉する。陝西省東北部の嘉陵谷を水源とし、四川省東部を南流して、重慶附近で長江に注ぐ川で、秦嶺山脈、大巴山の大山脈西側、岷山の大山脈の東側を南流している。その低地(谷間)に沿って街道もできた。長安など関中から四川に出る唯一の道筋。 ・頭:あたま(の髪)。こうべ。 ・已:とっくに。すでに。 ・白:白い。白髪となる。
※蜀門西更上青天:蜀の剣閣へは西の方に向かい、更に青天に上(のぼ)る(ような嶮しい登り道が続いている)。 *「蜀門西上更青天」ともする。 ・蜀門:蜀の剣閣。街道が蜀の国に入った所の地名。蜀の国の入り口の意。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)65-66ページ「剣南道北部」にある、(長安と成都を結ぶ街道を塞ぐばかりに聳える)大剣山、石門山辺りを指す。杜甫の『恨別』「洛城一別四千里,胡騎長驅五六年。草木變衰行劍外,兵戈阻絶老江邊。思家歩月清宵立,憶弟看雲白日眠。聞道河陽近乘勝,司徒急爲破幽燕。」でうたわれた「剣」でもある。張載の『劍閣録』に「惟蜀之門」とあるというが、未確認。 ・西:西に向かう。西す(る)。動詞。 ・更:その上。 上:のぼる。 ・青天:青空。ここでは天に上るかのような険しい山道が続いていることをいう。李白の『蜀道難』に「噫吁戲危乎高哉,蜀道之難難於上青天。蠶叢及魚鳧,開國何茫然。」とある。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「川煙天」で、平水韻下平一先。次の平仄はこの作品のもの。
○○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2007.11.15 11.16 11.17 11.18 |
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