眞州絶句六首之四 | |
清・王士禛 |
江干多是釣人居,
柳陌菱塘一帶疎。
好是日斜風定後,
半江紅樹賣鱸魚。
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真州絶句 六首の四
江干 多くは是 れ釣人 の居 ,
柳陌 菱塘 一帶疎 なり。
好 し是 れ日 斜めにして 風定 まるの後 ,
半江 の紅樹 に鱸魚 を賣る。
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◎ 私感註釈
※王士禛:清代の詩人。字は貽上、また子眞。号して漁洋。士禎と名を賜る。1634年(明・崇禎七年)~1711年(洪煕五十年)。
大きな地図で見る長江北岸:東より揚州(扬州)、儀徴(仪征)。
※真州絶句:真州での詩。六首の四。船旅で見えた漁村の風景を詠う。 ・真州:揚州と南京の中間にある長江北岸の都市。揚州の西南西30キロメートル、南京の東北東40キロメートルの地にある(現・江蘇省儀徴市)。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)62ページ「南宋 淮南東路 淮南西路」の「揚州附近」にある。
※江干多是釣人居:川岸の多くは、漁師の家で(はあるが)。 ・江干:〔かうかん;jiang1gan1○○〕(長江などの)川の岸。 ・多是:多くは(…だ)。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・釣人:〔てうじん;diao4ren2●○〕魚を釣る人。ここでは、魚釣りを職業としている人のことをいう。 ・居:すまい。
※柳陌菱塘一帶疎:ヤナギ並木の道や、ヒシの(集まっている)堤(つつみ)の辺りでは、(漁師の家は)まばらになっている。 陌:〔はく;mo4●〕道。街路。あぜ道。(東西に走る)畦道。 ・菱:ヒシ。 ・塘:つつみ。土手。池。 ・疎:〔そ;shu1(su1)○〕(枝が)まばらなさま。
※好是日斜風定後:すばらしいことには、日が傾き、風が止んでから。(夕日になって、夕凪(ゆうなぎ)となったころ。 ・好是:すばらしいことには(…だ)。「好是」は「日斜風定後,半江紅樹賣鱸魚」までかかっていく。 ・日斜:日が傾く。 ・風定:風が静まる。ここでは、夕凪(ゆうなぎ)のことになる。
※半江紅樹賣鱸魚:(すばらしいことには、)川の半まで繁った紅葉(の木蔭で、故郷の味覚である)スズキを売っているではないか! ・半江:川の半ば。白居易の『暮江吟』に「一道殘陽鋪水中,半江瑟瑟半江紅。可憐九月初三夜,露似眞珠月似弓。」とある。後世、日本・夏目漱石の『無題』に「大愚難到志難成,五十春秋瞬息程。觀道無言只入靜,拈詩有句獨求淸。迢迢天外去雲影,籟籟風中落葉聲。忽見閑窗虚白上,東山月出半江明。」と使う。 ・紅樹:紅葉した樹木。南宋・陸游『望江道中』「吾道非邪來曠野,江濤如此去何之。起隨烏鵲初翻後,宿及牛羊欲下時。風力漸添帆力健,艣聲常雜雁聲悲。晩來又入淮南路,紅樹靑山合有詩。」とある。 ・鱸魚:〔ろぎょ;lu2yu2○○〕すずき。魚の名。「鱸魚膾」のことが有名。「鱸魚膾」「故郷の味覚」の意。『晋書・文苑・張翰』に「張翰は秋風が吹き出したのに逢って、故郷の呉中の菰菜と蓴羹と鱸魚の膾とを思い出して食べたいと思い、『人生は思いに従った生き方を尊ぶべきで、どうして故郷を数千里も離れたところで高官に就くべきだろうか』と言って、駕に乗って故郷に帰っていった。」(『晋書・文苑・張翰』「翰因見秋風起,乃思呉中菰菜、蓴羹、鱸魚膾,曰:『人生貴得適志,何能羈宦數千里以要名爵乎!』遂命駕而歸。」)。ただ、この部分だけを引用すると、張翰は隠棲を願う脱俗の士のように見えるが、そうではない。同書では引き続いて、「この後すぐに、主君は敗れた。人々は、張翰のことを機を見るに敏な人で、上手に身を引いた人だと思った」(「俄而冏敗,人皆謂之見機。」)と述べている「菰菜、蓴羮、鱸魚膾」での鱸魚(すずき)の膾(なます)をいう。菰菜(まこも)、蓴菜(じゅんさい)の羹(あつもの)とともに張翰の辞職の口実となった故郷の味。北宋・范仲淹の『江上漁者』に「江上往來人,但愛鱸魚美。君看一葉舟,出沒風波裡。」とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「居疎魚」で、平水韻上平六魚。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2011.5.22 5.24 |
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