與我相依卅五年, 論文説法ョ卿宣。 感卿報我無常信, 瘞向垂垂花樹邊。 |
一齒 墮 ちて戲 れに作る
我と相 ひ依 る卅五 年,
文を論じ 法を説 くに卿 にョ りて宣 ぶ。
卿 の 我に無常の信を報 ぜしに感じ,
垂垂 たる花樹 の邊 に瘞 めん
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◎ 私感訳註:
※龔自珍:〔きょう・じちん;Gong1 Zi4zhen1〕清朝中後期の思想家、文学者。1792年(乾隆五十七年)〜1841年(道光二十一年)。一名を鞏祚。字は璱人。号して定盦(盦=庵)。浙江の仁和(現・浙江省杭州市)の人。経世の学を研究した。北方の帝政ロシアの侵入を警告し、対処を講じ、阿片戦争前にはイギリスが戦争をおこすことを予見し、戦備の強化を進言した。清政府の専制支配に対して「萬馬齊喑」(物がいえなくなること)や、「更法」(制度を変えること)、「改圖」(はかりごとを改める)、「變功令」(学問に対するきまりを変ず)、「不拘一格」(ひとつのわくにこだわることなく、人材を登用する)ことを提倡した。
※堕一歯戯作:歯が一本抜けたので、たわむれに作った。 *「我」(=わたし=作者)と、「卿」(=きみ=抜けた歯)との心の中の会話の詩。 ・堕:おちる。 ・戯作:たわむれに作る。
※与我相依卅五年:わたしと(歯は)頼り合って三十五年。 ・与我:わたしと。 ・与-:…と。また、…に。介詞。ここは、前者の意。 ・相依:互いに頼る。頼り合う。「唇歯相依」は、唇と歯のように、互いに密接な関係にあることを謂う。 ・卅五年:三十五年。 ・卅:〔さふ(そう);sa4●〕三十。みそ。
※論文説法頼卿宣:文学を論じ、見解を説くのに、君(=歯)に頼って述べていた。 ・論文説法:文学を論じ、見解を述べる。 ・卿:〔けい;qing1○〕きみ。夫婦間で、夫が妻に対する(妻が夫に対しての)呼称。また、他人に対する敬称。ここは、前者の意で、歯を身内として、親しみを込めて歯に呼びかけたことば。 ・宣:のべる。
※感卿報我無常信:人生の有限さを知らせてくれた君(=歯)に感謝して。 *この句「感{卿〔報我(無常信)〕}…」という構成。 ・報…信:消息を知らせる。 ・信:便り。消息。 ・無常:万物は生滅流転 して、永遠不変のものはないということ。人生のはかないこと。
※瘞向垂垂花樹辺:(君=歯を)垂れ下がった花の咲いた木の辺りに埋葬しよう。 ・瘞:〔えい;yi4●〕埋める。土中にうめる。埋葬する。また、墓。 ・向:…に。於いて。介詞。≒於。中唐・白居易の『五年秋病後獨宿香山寺三絶句』に「經年不到龍門寺,今夜何人知我情。還向暢師房裏宿,新秋月色舊灘聲。」とある。 ・垂:〔すゐ;chui2○〕垂れる。下がる。 ・垂垂:また、だんだん。徐々に。 ・花樹:花の咲いている木。「感卿報我無常信,瘞向垂垂花樹邊。」といった詩の展開から「無常」(万物の生滅流転)・「瘞」(埋葬する)と続き、そこでの「花樹」なので、沙羅双樹を意識しての花を著けた木。
◎ 構成について
2019.11.5 11.6 |
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