宗泐暑夜　詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩 Zongle

暑夜
	明・釈宗泐

此夜炎蒸不可當，
開門高樹月蒼蒼。
天河只在南樓上，
不借人閒一滴涼。

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暑夜

此(こ)の夜　炎蒸(えんじょう)　　當(あ)たる可(べ)からず，
門を開けば　高樹(かうじゅ)　　月(つき) 蒼蒼(さうさう)。
天河(てんが )は　只(た)だ南樓の上に在(あ)りて，
人閒(じんかん)に　借(か)さず　　一滴の涼(りゃう)をも。

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◎　私感註釈

※宗泐：〔そう?ろく；Zong1le4〕明代初期の禅宗の高僧。元・泰定四年頃（１３２７年頃）～明・永楽五年（１４０７年）。俗姓は陳、字は季潭、号して全室。幼くして天寧寺に入り僧侶となる。明・洪武五年（１３７２年）に朝廷のために祈福して、『賛仏楽曲』八章を作り、皇帝の信任を得、都の天界寺の住持となり、天界禅師と称された。我が国（＝日本）からは絶海中津が宗泐（＝全室和尚）に師事した。明・太祖・朱元璋は「泐秀才」と呼び、世に「学博才瑰」と称された。

※暑夜：あつい夜。

※此夜炎蒸不可当：今夜は蒸し暑さが手強（てごわ）くて、対処することができない。　・此夜：今夜。この夜。　・炎蒸：〔えんじょう；yan2zeng1○○〕むしあつい。　・不可：…することができない。不可能だ。　・不可当：手強（てごわ）くて対処することができない。手強（てごわ）くて防ぎとめることができない。手厳しくて対処できない。　・当：〔たう；dang1○〕対処する。

※開門高樹月蒼蒼：（南面の）ドアを開けて（中庭へ出てみれば）、高く聳える木に、（暑さにやられた）青白い月（が懸かっている）。　・門：ここでは､ドアの意。「開門」は、建物のドアを開けて中庭に出る意。　・蒼蒼：〔さうさうcang1cang1○○両韻〕青白いさま。老いたさま。頭髪の白髪交じりのさま。また、草木があおあおと茂るさま。空のあおあおとしたさま。ここは、前者の意。前者の意の用例に、白居易の『村夜』に「霜草蒼蒼蟲切切，村南村北行人絶。獨出前門望野田，月明蕎麥花如雪。」や同・白居易の『賣炭翁』に「賣炭翁，伐薪燒炭南山中。滿面塵灰煙火色，兩鬢蒼蒼十指黑。賣炭得錢何所營，身上衣裳口中食。可憐身上衣正單，心憂炭賤願天寒。夜來城外一尺雪，曉駕炭車輾氷轍。牛困人飢日已高，市南門外泥中歇。翩翩兩騎來是誰，黄衣使者白衫兒。手把文書口稱敕，迴車叱牛牽向北。一車炭重千餘斤，宮使驅將惜不得。半匹紅綃一丈綾，繋向牛頭充炭直。」とある。蛇足になるが、後者の用例に、北朝・齊・斛律金の民歌『敕勒歌』に「敕勒川，陰山下。天似穹廬，籠蓋四野。天蒼蒼，野茫茫，風吹草低見牛羊。」や後世、清・王士禛の『即目三首』其一「蒼蒼遠煙起，槭槭疏林響。落日隱西山，人耕古原上。」などがある。

※天河只在南楼上：（冷たくて涼しい）天の川は、ただ、南側の建物の上にあるだけで（何もしてくれず）。　・天河：天の川。銀河。作者は「天河」を水の流れている「河」と捉え、水＝涼をイメージした。　・只在：ただ…にあるだけで。　・在…上：…にある。　・南楼：南側の建物。中国の邸宅での建物と庭との関係は、主人側の中心となる建物は北側にあり、ここでの「南楼」は、中庭を夾んで反対側（南側）に見える二階建て風の建物。

※不借人間一滴涼：極めて僅かでも、涼しさを地上に貸してくれようとはしない。　・不借：貸さない。貸す気がない。意志の否定。　・借：かす。また、かりる。ここは、前者の意。蛇足になるが、現代語（＝中国語）でも、「かりる」も「かす」も“借”を使って表現する。（「かりる」は“借”、「かす」は“借给”。（もっとも“贷给”もあるが…））。少し前になるが、明・高啓の『池上納涼』の「畫欄斜度水螢光，荷葉荷花各有香。團扇不搖風露下，秋應先借一宵涼。」とある詩句の影響か。　・人間：〔じんかん；ren2jian1○○〕人の世。地上。天河のある「天上」（天上世界）に比して使われる。　・一滴：ひとしずく。きわめて少量。　・涼：すずしさ。

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◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「當蒼涼」で、平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○●●○，（韻）
○○○●●○○。（韻）
○○●●○○●，
●●○○●●○。（韻）