楊万里過臨平蓮蕩　詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩 Yang Wanli

過臨平蓮蕩
	南宋・楊萬里

人家星散水中央，
十里芹羹菰飯香。
想得薰風端午後，
荷花世界柳絲鄕。

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臨平(りんぺい)の蓮蕩(れんたう)を過(す)ぐ

人家　星散(せいさん)す　　水の中央，
十里の芹羹(きんかう)　　菰飯( こはん) 香(かんば)し。
想ひ得(え)たり　薰風(くんぷう)　　端午(たんご )の後(のち)，
荷花の世界　　柳絲(りうし )の鄕。

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◎　私感註釈

※楊万里：南宋の学者、詩人。字は廷秀。号して誠齋。吉水（現・江西省吉水県）の人。１１２７年（靖康二年／建炎元年）～１２０６年（開禧二年）。生涯、抗金に勤めた。南宋の「中興四大詩人」の一。

※過臨平蓮蕩：臨平にある蓮蕩（ハスの花が咲いている沢）を通り過ぎる。＊ここを詠った詩に北宋・道潛の『臨平道中』「風蒲獵獵弄輕柔，欲立蜻蜓不自由。五月臨平山下路，藕花無數滿汀洲。」がある。ハス池の風情は北宋・黄庭堅の『鄂州南樓書事』に「四顧山光接水光，凭闌十里芰荷香。淸風明月無人管，并作南來一夜涼。」と、うたわれている。　・過：通り過ぎる。　・臨平：地名。現・浙江省の杭州にある。　・蓮蕩：ハスの花が咲いている沢。「-蕩」は地名に用いられる語であり、第三・四句（＝転句・結句の「想得薰風端午後，荷花世界柳絲鄕。」）から考えて、地名とみるのが適切だろう。　・蕩：〔たう；dang4●〕（浅い）湖。沼。沢。水がたまり、蘆などが生えている窪地。地名に用いられる。『過臨平蓮蕩』の連作では「寒浪落時分作蕩，新流漲後合成湖。」とあり、「水が減ると幾つもに分かれて『蕩』となり、水が増えると『湖』となる。」とある。「蕩」はみずたまり、「湖」大きなみずうみ、なのがよく分かる句。

※人家星散水中央：人家は、星が散らばっているように、散り散りばらばらになって、水面の中央にあり。　・星散：星が散らばっているように、散り散りばらばらになる。

※十里芹羹菰飯香：辺り一帯、セリのすい物とマコモの飯のよいにおいだ。　・十里：約５．５キロメートル。宋代では１里＝５５２．９６メートル。　・芹羹：〔きんかう；qin2geng1○○〕セリと肉とを混ぜて煮込んだとろみのあるすい物。　・菰飯：〔こはん；gu1fan4○●〕マコモの実を炊いた飯。菰（マコモ）の実は食用となる。　・香：（食べ物の）においがよい。味がよい。また、一般に、こうばしい。芳（かんば）しい。においがよい。ここは、前者の意。

※想得薫風端午後：おだやかな初夏の風の吹く端午節（＝夏）の節句の後（の情景）を想えば。　・想得：…を想えば。〔（思考力・知覚の）動詞＋得〕の「-得」は、思考力・知覚関聯の動詞の接尾字。　・薫風：おだやかな初夏の風。青葉を吹いてくる風。　・端午：端午節のこと。陰暦・五月五日（＝夏）の節句。「端」は「初め」の意で、「端午」は「初五」（午＝五）で、毎月の上旬の五日の意、或いは、毎月の初めの午（うま）の日のこと。なお、この詩を作った季節は春で、『過臨平蓮蕩』の連作では「春來嫩玉斬新光」と春を詠っているのがよく分かる部分が有る。作者は春景色を見て、夏の五月の光景を想像している。端午節のある（陰暦）五月は、仲夏で、夏の三か月（四月・五月・六月）のうちの真中の月。夏のなかば。

※荷花世界柳糸郷：（「蓮蕩」という地名通りに）（夏の花である）ハスの花の（咲き乱れる）世界となって、ヤナギの枝が枝垂（しだ）れている里となっていることだろう。　・荷花：ハスの花。　・柳糸：ヤナギの枝の枝垂（しだ）れる形容。

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◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「央香郷」で、平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。

○○○●●○○，（韻）
●●○○○●○。（韻）
●●○○○●●，
○○●●●○○。（韻）