羅与之寄衣曲　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Luo Yuzhi

寄衣曲

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　南宋・羅與之

憶郞赴邊城，
幾箇秋砧月。
若無鴻雁飛，
生離即死別。

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　　　　　　　　　　　　衣(い)を寄(よ)するの曲

憶(おも)ふ　　郞(らう)の　邊城(へんじゃう)に赴(おもむ)きしより，
幾箇(いくこ )の　　秋砧(しうちん)の月(つき)ぞと。
若(も)し　　鴻雁(こうがん)の飛ぶ無(な)くんば，
生離　　即(すなは)ち死別ならん。

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◎　私感訳註：

※羅与之：南宋末期の詩人。字は与甫、また北涯。号して雪坡。螺川（現・江西省吉安南）の人。南宋末の端平年間に科挙を屡々受けるが落第し、世に出ることなく終える。その詩は劉克荘の認めるところとなる。

※寄衣曲：（遠征中の夫の衣更え用の）衣服を（妻が）郵送で送り届ける、（妻の夫に対する切ない思いの歌を、妻の立場で詠う）。『寄衣曲』はこのページの作が第一首で、第二首は「愁腸結欲斷，邊衣猶未成。寒窗剪刀落，疑是劍環聲。」で、第三首は「此身儻長在，敢恨歸無日。但願郎防邊，似妾縫衣密。」。　・寄衣：衣服を郵送で送り届ける。当時は兵士の出征の際の服や武器は自腹であったと云う。　・寄：送り届ける。郵送する。

※憶郎赴辺城：夫（おっと）が辺境のとりでに赴（おもむ）いて。　・憶：思い出す。　・郎：夫（おっと）。妻が夫を呼ぶことば。　・赴：おもむく。　・辺城：国境の城塞。辺境のとりで。

※幾箇秋砧月：（冬支度をする）秋の砧（きぬた）の月を（合計）何ヶ月（過ごしたことであろうかと）思い出す。　・幾箇：いくつ。　・秋砧：冬の季節用の衣服を作るための準備で、女性がきぬた（台）の上で植物繊維で織った布を槌で打って、柔らかくすること。また、その作業の音。　・砧：〔ちん；zhen1○〕砧（きぬた）。植物繊維で織った布や絹を槌で打って、柔らかくするのに用いる台。初唐・張若虚の『春江花月夜』に「張若虚春江潮水連海平，海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里，何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸，月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛，汀上白沙看不見。江天一色無纖塵，皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月，江月何年初照人。人生代代無窮已，江月年年祗相似。不知江月待何人，但見長江送流水。白雲一片去悠悠，青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子，何處相思明月樓。可憐樓上月裴回，應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去，擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞，願逐月華流照君。鴻雁長飛光不度，魚龍潛躍水成文。昨夜閒潭夢落花，可憐春半不還家。江水流春去欲盡，江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧，碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸，落月搖情滿江樹。」とあり、中唐・白居易の『聞夜砧』に「誰家思婦秋擣帛，月苦風凄砧杵悲。八月九月正長夜，千聲萬聲無了時。應到天明頭盡白，一聲添得一莖絲。」とあり、元・薩都剌の『病中雜詠』に「風葉高下落，秋砧遠近聞。天涯多病客，倚杖看孤雲。」とある。　・月：年月日の月。一年の十二分の一の期間。month。

※若無鴻雁飛：もしも便りが無くなれば。　・若：もしも。もし。　・若無：もし…が無ければ（…う）。　・鴻雁：ここでは「雁信」の意で、手紙。書簡。また、本来の意は、かり。秋に来る渡り鳥。サカツラガン。＝大雁。

※生離即死別：生き別れなのが、ただちに死別となることだろう。　・生離：生き別れ。　・即：とりもなおさず。ただちに。すなわち。　・死別：死に別れ。