愁腸結欲斷, 邊衣猶未成。 寒窗剪刀落, 疑是劍環聲。 |
衣 を寄 するの曲
愁腸 結 びて斷 たんと欲 っし,
邊衣 猶 ほ未 だ成らず。
寒窗 に剪刀 落ち,
疑 ふらくは是れ 劍環の聲なるかと。
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◎ 私感訳註:
※羅与之:南宋末期の詩人。字は与甫、また北涯。号して雪坡。螺川(現・江西省吉安南)の人。南宋末の端平年間に科挙を屡々受けるが落第し、世に出ることなく終える。その詩は劉克荘の認めるところとなる。
※寄衣曲:(遠征中の夫の衣更え用の)衣服を(妻が)郵送で送り届ける、(妻の夫に対する切ない思いの歌を、妻の立場で詠う)。『寄衣曲』はこのページの作が第二首で、第一首は「憶郎赴邊城,幾個秋砧月。若無鴻雁飛,生離即死別。」、第三首は「此身儻長在,敢恨歸無日。但願郎防邊,似妾縫衣密。」。 ・寄衣:衣服を郵送で送り届ける。当時は兵士の出征の際の服や武器は自腹であったと云う。 ・寄:送り届ける。郵送する。
※愁腸結欲断:憂える心で(冬服を)仕上げようとしたものの(思いが乱れて)、中断してしまい。 ・愁腸:憂える心。 ・結:組み立てる。あつまる。また、滞(とどこお)る。また、終わる。終束する。しめくくる。また、ここは前者の意 ・欲:…しようとする。…しそうだ。 ・断:中断する。切り離す。たつ。また、さだめる。ここは、前者の意。
※辺衣猶未成:(夫に送る)国境守備の兵士が着る衣服は、まだできあがらない。 ・辺衣:国境守備の兵士が着る衣服。 ・猶未成:まだできあがらない。 ・猶未:まだ…ない。なほいまだ…ず。
※寒窓剪刀落:寒々として侘(わび)びしげな窓辺で、(冬服を作るために使っている)はさみの落ちた音(がして)。 ・寒窓:寒々として侘(わび)びしげな窓。冬の窓。 ・剪刀:はさみ。ここでは、冬服を作るために使っているはさみ。
※疑是剣環声:(夫が還(かえ)ってきて、夫の)剣と帯(お)び玉(orつかがしら)の音かと疑ってしまった。 ・疑是-:疑うことには。まるで…かと疑う。「疑是〔山陰夜中雪〕」「疑是〔武陵春碧流〕」「疑是+〔……〕」という具合に、「疑是」の後に見紛うものをいう。 ・是:名詞(句)の後に附く。それ故、「疑」の部分の読みは名詞化して、伝統的に「『疑ふ』らく」としている。漢語語法に合致した正確な読みである。盛唐・李白の『靜夜思』に「床前明月光,疑是地上霜。舉頭望明月,低頭思故ク。」とあり、 (明・李攀龍の『唐詩選』では、「牀前看月光,疑是地上霜。舉頭望山月,低頭思故ク。」)とあり、盛唐・李白の『望廬山瀑布』に「日照香爐生紫煙,遙看瀑布挂前川。飛流直下三千尺,疑是銀河落九天。」とあり、中唐・張謂の『早梅』に「一樹寒梅白玉條,迥臨林村傍谿橋。不知近水花先發,疑是經冬雪未銷。」とあり、南宋末金初・呉激の『題宗之家初序瀟湘圖』に「江南春水碧於酒,客子往來船是家。忽見畫圖疑是夢,而今鞍馬老風沙。」とある。 ・剣環:剣のつかがしら。また、剣と帯(お)び玉。=刀環。 ・大刀頭:大刀の柄頭には、環がついている。「環」は「還」に通じ「還(かえる)」の意。 ・大刀頭:大刀の柄頭には、環がついている。「環」は「還」に通じ「還(かえる)」の意。『古絶句』に「藁砧今何在,山上復有山。何當大刀頭,破鏡飛上天。」とある。この『古絶句』については:雜曲歌辭。『玉臺新詠』巻十に収録。『朱子語類』巻第八十一に、「如『砧今何在』『何當大刀頭』皆是比詩體也。」とあり、『滄浪詩話』にも「此僻辭隱語也。」とある。「かけことばの詩」である意。 ・声:音(おと)。
◎ 構成について
2016.6.14 6.15 6.16 |