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祭猫 | |
北宋・梅堯臣 |
自有五白猫,
鼠不侵我書。
今朝五白死,
祭與飯與魚。
送之于中河,
呪爾非爾疎。
昔汝齧一鼠,
銜鳴遶庭除。
欲使衆鼠驚,
意將淸我盧。
一從登舟來,
舟中同屋居。
糗糧雖甚薄,
免食漏竊餘。
此實爾有勤,
有勤勝雞猪。
世人重驅駕,
謂不如馬驢。
已矣莫復論,
爲爾聊欷歔。
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猫を祭 る
五白 の猫を 有してより,
鼠は 我が書を侵 さず。
今朝 五白 死し,
祭りて飯 と魚 とを与 う。
之 を中河 に送りて,
爾 を呪 するは爾 を疎 かにするに非ず。
昔汝 は一鼠 を齧 み,
鳴くを銜 へて庭除 を遶 りたり。
衆鼠 をして 驚か使 めんと欲 し,
意は將 に我が盧 を淸めんとするなり。
一たび 舟に登りてより來 ,
舟中 屋 を同じうして居 す。
糗糧 甚 だ薄 しと雖 も,
漏竊 の餘 を食 ふことを免 る。
此 れ實 に爾 の勤 むる有ればなり,
勤むる有ること雞猪 に勝 る。
世人は驅駕 を重んじて,
「馬驢 に如 かず」と謂 う。
已矣 復 た論ずる莫 からん,
爾 の爲に聊 か欷歔 せん。
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◎ 私感註釈
※梅堯臣:北宋の詩人。咸平五年(1002年)~嘉祐五年(1060年)。字は聖兪。宣州宣城(現・安徽省宣城)の人。宣城は、古くは宛陵と呼ばれていたので、宛陵先生と呼ばれた。終生官途には恵まれなかったが、その詩名は「宋詩開山の祖」として知られる。『詩經』『楚辭』の「写実」「寄興」の継承を主張し、西崑派の無意味な言葉を連ねる浮薄な傾向に反対して、「平淡」「閑遠」「発想は新しく、語句を練る」ことを主張した。その詩の多くは現実の生活を反映したもので、叙景・抒情の詩は清新で、深遠な意境を秘めている。
※祭猫:猫を弔(とむら)う。 *猫を詠った詩に、北宋・黄庭堅の『乞猫』「秋來鼠輩欺猫死,窺甕飜盆攪夜眠。聞道貍奴將數子,買魚穿柳聘銜蝉。」や南宋・陸游の『贈猫』「裹鹽迎得小狸奴,盡護山房萬巻書。慙愧家貧策勳薄,寒無氈坐食無魚。」
がある。 ・祭:〔さい;ji4●〕弔(とむら)いをする。悼(いた)む。また、祭る。ここは、前者の意。
※自有五白猫:ネコの五白がいてより。 ・自:…より。 ・五白:猫の名。また、五つ揃いのサイコロ。ここは、前者の意。
※鼠不侵我書:ネズミは、わたしの(線装本の)本を襲って(囓(かじ)る)ことは無くなった。
※今朝五白死:今朝、五白が死んだ(ので)。
※祭与飯与魚:祭って、メシと魚とをあたえた。 ・与:あたえる。 ・飯与魚:メシと魚と。
※送之于中河:これ(=死んだ猫)を川の中程に送り。 ・于:…に。於いて。≒於。 ・中河:川幅の中程。川の中流。
※呪爾非爾疎:おまえ(=死んだ猫)に呪文を唱えたが、おまえを疎(おろそ)かにするということではない。(水葬礼なのだ)。 ・呪:まじなう。呪文。 ・爾:おまえ。なんじ。ここでは、死んだ猫を指す。 ・疎:おろそかにする。怠る。
※昔汝齧一鼠:昔、おまえは、ネズミを一匹銜(くわ)えて。 ・汝:おまえ。なんじ。ここでは、死んだ猫・五白を指す。 ・齧:〔げつ;nie4●〕(動物が)噛(か)む。歯でかじる。食いつく。
※銜鳴遶庭除:(ネコが)鳴く(ネズミ)を咥(くわ)えて/(ネコが、ネズミをくわえて鳴き)庭の階段を繞(めぐ)った。 ・銜鳴:(ネコが)鳴くもの(=ネズミ)を咥(くわ)える(=ネズミをくわえる)。or(ネコが、ネズミをくわえて鳴く)。「鳴」は、「(ネコが)鳴く」のか「鳴いている(ネズミ)」なのか……。 ・遶:めぐる。 ・庭除:〔ていぢょ;ting2chu2○○〕庭の階段。=庭階。
※欲使衆鼠驚:ネズミ達を驚かそうとした(が)。 ・欲:…しようとする。…たい。(…と)ほっす。 ・使-:(…に)…させる。(…をして)…しむ。
※意将淸我盧:その意味は、わたしの粗末な家を清めようということだった。 ・将:(まもなく)…しようとする。まさに…んとす。 ・盧:粗末な家。いおり。
※一従登舟来:ひとたび、舟に乗ってからこのかた。 ・一従:…から。…より。 ・一従…来:…(して)より以来。…(して)よりこのかた。=「自従…以来」。 ・登舟:船にのせる。
※舟中同屋居:舟の中の同じ部屋にいた。
※糗糧雖甚薄:干飯(ほしいい)は、甚だ薄いとはいっても。 ・糗糧:〔きうりゃう;qiu3liang4●●〕干飯(ほしいい)。 ・糗:〔きう;qiu3●〕干飯(ほしいい)。餉(かれい)。また、煎り米(いりごめ)。 ・雖:いえども。 ・甚:はなはだ。
※免食漏窃余:(ネズミの)オシッコのかかった残りを食べさせられることは、免れた。 ・免:まぬがれる。 ・漏窃:もれる。もらす。≒漏泄、漏洩。 ・竊:〔せつ;qie4●〕盗み。盗む。
※此実爾有勤:このことは、まことにおまえ(=ネコの五白)のはたらきであり。 ・勤:熱心。勤勉。はたらき。
※有勤勝雞猪:はたらきは、ニワトリやブタに勝(まさ)っている。 ・勝:まさる。 ・雞猪:ニワトリやブタ。 ・猪:ブタ。
※世人重駆駕:世間の人は、車を牽(ひ)く(能力を)重視して。 ・世人:世間の人。 ・駆駕:車を牽(ひ)く、意。
※謂不如馬驢:「ウマやロバに及ばない」と言う(が…)。 ・謂:(…と)言う。 ・不如:…に及ばない。…のほうがましだ。しかず。 ・馬驢:ウマやロバ。
※已矣莫復論:(ああ、)もうこれまでだ。これ以上、論(あげつら)うのを止(よ)そう。 ・已矣:〔いい;yi3yi3●●〕もうこれまでだ。もうどうしようもない。やんぬるかな。*絶望のことば。 ・莫復論:これ以上、論(あげつら)うのを止(よ)そう、の意。
※為爾聊欷歔:おまえ(=ネコの五白)のために、いささか、すすりなきをしよう。 ・為爾:なんじのために、の意。 ・聊:いささか。 ・欷歔:〔ききょ;xi1xu1◎○〕すすりなく。むせびなく。しゃくりなきをする。=歔欷。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAAAAAAA」。韻脚は「書魚疎除廬居餘猪驢歔」で、平水韻上平六魚。この作品の平仄は、次の通り。
●●●●○,
●●○●○。(韻)
○○●●●,
●●●●○。(韻)
●○○○○,
●●○●○。(韻)
●●●●●,
○○●○○。(韻)
●●●●○,
●○○●○。(韻)
●○○○○,
○○○●○。(韻)
●●○○●,
●●●●○。(韻)
●●●●○,
●○◎○○。(韻)
●○○○●,
●●○●○。(韻)
●●●●○,
●●○◎○。(韻)
2019. 3.30 3.31 4. 1 4. 3 4. 5 4. 8完 10.29補 11.22 2020.11.17 |
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