玉女峰前一棹歌, 烟鬟霧髻動淸波。 游人去後楓林夜, 月滿空山可奈何。 |
武夷 に游 ぶ
玉女峰 前 一棹 の歌,
烟鬟 霧髻 清波 動く。
游人去 りし後 楓林 の夜,
月 滿ちて空山 奈何 とす可 き。
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◎ 私感訳註:
※辛棄疾:南宋の詞人。政治家。紹興十年(1140年)~開禧三年(1207年)。歴城 (現・山東省済南)の人。字は幼安。号して稼軒。金の支配下で武装蜂起に参加。後、南宋に下り、一貫して対金強硬策を主張した。詞(=填詞、=長短句)の名手で、詞風は豪放。激しく時事を嘆き、望郷の念を表現する作が多い。
※游武夷:武夷山に遊ぶ。 ・游:あそぶ。さまよう。旅行する。他国に行く。=遊。 ・武夷:武夷山のこと。福建省西部、江西省東部の省境の山系の総称。黄崗山をはじめとした高い山々がある。現代・毛沢東の『如夢令・元旦』一九三零年一月に「寧化、淸流、歸化,路隘林深苔滑。今日向何方,直指武夷山下。山下,山下,風展紅旗如畫。」とある。
※玉女峰前一棹歌:(武夷山の)玉女峰の前(の九曲渓)からは、船頭が舟を進めながら歌う歌(が聞こえて来る)。 ・玉女峰:山の名。現・福建省武夷山市の西南西10キロメートルのところにある名勝。武夷山風景区を東西に流れる九曲渓の中ほどにある柱状山。 ・棹歌:〔たうか;zhao4ge1●○〕舟歌。船頭が棹をさして、舟を進めながら歌う歌。=棹歌。
※烟鬟霧髻動清波:女性の豊かで美しいまげ(のような玉女峰に靄(もや)や霧がかかっており)清らかな波が起こっている。 ・煙鬟:女性の美しいまげ。=玉女峰に靄(もや)がかかっていることを謂う。本来は、女性の豊かな髪の喩え。 ・霧髻:未婚の女性が頭の両側に結ったまげ。=玉女峰に霧がかかっていることを謂う。本来は、女性の豊かな髪の喩え。
※游人去後楓林夜:物見遊山の人(=作者)が帰った後、カエデの林の夜。 ・游人:物見遊山の人。また、旅人。遊侠。ここは、前者の意で、作者自身を指す。=遊人。 ・楓林:フウの林。カエデの林。
※月満空山可奈何:月光は、人けのないひっそりした山に満ちる(ことだろうが、カエデの林は)一体どうなっていることだろうか。 ・空山:人けのないひっそりした山。盛唐・王維の『鹿柴』に「空山不見人,但聞人語響。返景入深林,復照青苔上。」とある。 ・可奈何:いかにすべきか。どうすれば。いかんすべき。 ・奈何:どうしよう。いかにせん。 ・無可奈何:なんともしようがない。どうしようもない。いかんともするなし。「いかん」は、短くは「奈」。少し長くして「奈何」。強調して、「可奈何」。項羽『垓下歌』(力拔山兮氣蓋世)の「虞兮虞兮奈若何」
とあり、漢・武帝(劉徹)『樂府・秋風辭』に「秋風起兮白雲飛,草木黄落兮雁南歸。蘭有秀兮菊有芳,懷佳人兮不能忘。汎樓船兮濟汾河,橫中流兮揚素波。簫鼓鳴兮發櫂歌,歡樂極兮哀情多。少壯幾時兮奈老何。」
とあり、北宋・晏殊の『浣溪沙』に「一曲新詞酒一杯,去年天氣舊亭臺。夕陽西下幾時回? 無可奈何花落去,似曾相識燕歸來。小園香徑獨徘徊。」
とある。
◎ 構成について
2019.3.19 3.20 3.21 |
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