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無題 | |
李商隱 |
相見時難別亦難,
東風無力百花殘。
春蠶到死絲方盡,
蠟炬成灰涙始乾。
曉鏡但愁雲鬢改,
夜吟應覺月光寒。
蓬山此去無多路,
靑鳥殷勤爲探看。
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無題
相ひ見る時 難く 別るるも亦た難く,
東風 力 無く 百花 殘る。
春蠶 死に到りて 絲 方に盡き,
蠟炬 灰と成りて 涙 始めて乾く。
曉鏡に 但だ愁ふ 雲鬢の改まるを,
夜吟 應に覺ゆべし 月光の寒きを。
蓬山 此より去ること 多路 無く,
青鳥 殷勤 爲に 探り看よ。
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◎ 私感註釈
※李商隱:晩唐の詩人。杜牧、温庭 らとの同時代人。812年(元和七年)~856年(大中十年)。字は義山。河内(現 河南省)の人。玉溪生とも号した。独自の世界を開いた。
・無題:この句のフレーズは、それぞれに有名になっている。晦渋で、朦朧詩人といわれる作者の艶冶華麗な詩の一。男性の女性に対する絶えることのない慕情をうたう。
※相見時難別亦難:出会う機会はなかなか見付けるのが難しいが、別れもまた辛いもので。 *南朝・梁・沈約の『別范安成』に「生平少年日,分手易前期。及爾同衰暮,非復別離時。勿言一樽酒,明日難重持。夢中不識路,何以慰相思。」とあり、後世、南唐後主・李煜は『浪淘沙』で「簾外雨潺潺,春意闌珊。羅衾不耐五更寒。夢裏不知身是客,一餉貪歡。 獨自莫憑欄,無限江山。別時容易見時難。流水落花春去也,天上人間。」
と使う。 ・相見:出会う。 ・難:むつかしい。難(かた)い。 ・別:別離。 ・亦:…もまた。
※東風無力百花殘:春風は力無く吹いて、多くの花はくずれるように散ってしまった。 ・東風:春風。 ・無力:力がないこと。 ・百花:多くの花。 ・殘:くずれる。すたれる。
※春蠶到死絲方盡:春の蚕(かいこ)は、死ぬときになって、ちょうど糸を吐くことが尽きはて。(=春の蚕は、死ぬ間際まで糸を吐き続けて。=春の蚕(かいこ)のように、死ぬときになって、ちょうど糸が尽きて、思いも尽きはて。) *「春蠶到死絲方盡,蝋炬成灰涙始乾。」で、「死而後已」(死(し)して後(のち)已(や)む)=死ぬまで努力し続ける意で、男性側の死ぬまで絶えることのない思慕の念を表す。 ・蠶:蚕(かいこ)。 ・絲:〔し;si1○〕生糸(きいと)。絹糸。なお、この「絲」は「思」と通ずるものとするが、「思」〔し;si1○〕ととるとすれば、動詞「思う、考える」。「思」〔し;si4●(但し、現代北京語では〔si1〕)〕は名詞「心。考え、思想、思い」の意。 ・方:やっと。まさに。
※蝋炬成灰涙始乾:蝋燭(ろうそく)は、燃え尽きるときに、蝋(ろう)の涙はやっと乾(かわ)く(=蝋燭は(そして、わたしは)、燃え尽きるまでずっと、涙を流し続け、燃え尽きてやっと止まる)。 *男性側の感情を表す。 ・蝋炬:〔らふきょ;la4ju4●●〕ろうそく。 ・成灰:燃え尽きて灰(はい)になる。 ・涙:なみだ。また、蝋燭(ろうそく)の溶けて流れる蝋(ろう)。 ・始:やっと。はじめて。 ・乾:かわく。
※曉鏡但愁雲鬢改:(女性が)朝の身繕いをする鏡の中で、豊かな黒髪が変わって(髪が衰えて来ているのに気づき、時間が空しく過ぎ去ってゆくことを)愁(うれ)えて。 *女性側の感情を推察している。 ・曉鏡:朝の身繕いをする鏡の中。 ・但:ただひたすら。 ・愁:悲しく思う。 ・雲鬢:(女性の)豊かな黒髪。
※夜吟應覺月光寒:(女性が)夜に、(月光の下)ため息をつくとき、(ひとりぼっちでいるため)おそらく月の光が寒々しく感じられることだろう。 *男性が女性側の情況を推測している。 ・夜吟:夜につくため息等のことか。 ・應:きっと…に違いない。おそらく…だろう。まさに…べし。 ・覺:…と感じる。…と覚(さと)る。
※蓬山此去無多路:仙山である蓬莱山(ほうらいさん)(=女性の居場所)は、ここから多くの道のりを要するものではないので。 ・蓬山:仙山である蓬莱山(ほうらいさん)。ここでは、女性の居場所を謂う。 ・多路:多くの道のり。
※靑鳥殷勤爲探看:仙人の使いをする青鳥(せいちょう)よ、(彼女の様子を)心を込めて念入りに探(さぐ)って来てほしい。 ・靑鳥:使者。書翰。西王母の使者として青い鳥が漢の宮殿に来たという故事に因る。 ・殷勤:〔いんぎん;yin1qin2○○〕心をこめて念入りに。礼儀正しく。極めて叮嚀に。鄭重に。ねんごろに。副詞。=慇懃。劉禹錫の『與歌者何戡』「二十餘年別帝京,重聞天樂不勝情。舊人唯有何戡在,更與殷勤唱渭城。」、また李益の『幽州』に「征戍在桑乾,年年薊水寒。殷勤驛西路,此去向長安。」
や、朱放の『題竹林寺』「歳月人間促,煙霞此地多。殷勤竹林寺,更得幾迴過。」
とある。 ・爲:目的を持って。因って。欲(ほっ)す。まさに…んとす。 ・探看:訪ねる。探(さぐ)ってくる。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」。韻脚は「難殘乾寒看」で、平水韻上平十四寒。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2009.1.28 2. 6 2. 7 |
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