春怨 | |
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唐・劉方平 |
紗窗日落漸黄昏,
金屋無人見涙痕。
寂寞空庭春欲晩,
梨花滿地不開門。
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春怨
紗窗 に日 落ちて漸 く黄昏 たり,
金屋 人 無くして涙痕 を見 はす。
寂寞 たる空庭 に 春晩 んと欲 し,
梨花 地 に滿 てども 門を開 かず。
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◎ 私感註釈
※劉方平:盛唐の詩人。758年前後に在世。河南・洛陽の人。匈奴の出身。天宝年間の前期に進士試験を受けるが、意の如くならず、潁水、汝河のほとりに隠棲して、終生に亘って仕えなかった。詩にたくみであった。なお、同性愛的な傾向があったとも伝えられるが…。
※春怨:若い女性が春の気配に感じてもの思いにふけること。唐・王昌齡にも『春怨』「音書杜絶白狼西,桃李無顏黄鳥啼。寒雁春深歸去盡,出門腸斷草萋萋。」がある。
※紗窓日落漸黄昏:うすぎぬを張った(女性の部屋の)窓辺に陽は沈んで、ようやくたそがれ時となり。 ・紗窓:〔ささう、しゃさう;sha1chuang1○○〕うすぎぬを張った窓。女性の部屋の窓を思わせる。ただし、現代では、木綿製の寒冷紗(かんれいしゃ)を張った網戸の窓。 ・日落:日が沈む。 ・漸:だんだんと。 ・黄昏:たそがれになる。動詞。
※金屋無人見涙痕:黄金で飾ったりっぱな家に、(もう訪れる男性も無くなり、部屋の主である女性は、)誰もいないので、涙を流した痕(あとかた)を(気に留めることもなく)見せている。 ・金屋:黄金で飾った家。輝くばかりの御殿。白居易の『長恨歌』に「雲鬢花顏金歩搖,芙蓉帳暖度春宵。春宵苦短日高起,從此君王不早朝。承歡侍宴無閑暇,春從春遊夜專夜。後宮佳麗三千人,三千寵愛在一身。金屋妝成嬌侍夜,玉樓宴罷醉和春。」とある。 ・無人:他人が居ない。 ・見:〔けん;xian4●〕現(あらわ)す。〔けん;jian4●〕見せる。 ・涙痕:涙の流れたあと。
※寂寞空庭春欲晩:ひっそりとしてものさびしい人けのない庭に、(季節の/人生の)春は暮れていこうとしている。 ・寂寞:〔せきばく、じゃくまく;ji4mo4●●〕ひっそりとしてものさびしいさま。 ・空庭:人けのないひっそりとした庭。 ・春欲晩:(季節の/人生の)春は暮れようとしている、の意。
※梨花満地不開門:ナシ花が地面いっぱいに散って(春も過ぎ去ろうとしているが)、門をかたく閉ざして(、春の興を楽しんだということはない)。 ・梨花:ナシの木の花。春に白い花を著ける。北宋・蘇軾の『和孔密州五絶』東欄梨花に「梨花淡白柳深,柳絮飛時花滿城。惆悵東欄一株雪,人生看得幾C明。」とある。 ・満地:地面いっぱいに。 ・不開門:門をかたく閉ざして、(もはや)春の興に関心がなく、楽しむということはしない意。ここでの「不-」は意志の否定で、「開ける気がない」。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「昏痕門」で、平水韻上平十三元。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
○○●●●○○。(韻)
2012.6.10 6.11 |
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