劉禹錫踏歌詞　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Liu Yuxi

踏歌詞
	中唐・劉禹錫

新詞宛轉遞相傳，
振袖傾鬟風露前。
月落烏啼雲雨散，
遊童陌上拾花鈿。

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　　　　　　踏歌(たふか )の詞(うた)

新詞　宛轉(ゑんてん)　　遞(たがひ)に相ひ傳へ，
袖(そで)を振り　鬟(わげ)を傾く　　風露(ふうろ )の前。
月落ち　烏(からす) 啼(な)いて　　雲雨(うんう ) 散じ，
遊童　陌上(はくじゃう)に　　花鈿(くゎでん)を拾(ひろ)ふ。

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◎　私感註釈

※劉禹錫：中唐の詩人。７７２年（大暦七年）～８４２年（會昌二年）。白居易や柳宗元との詩の応酬も多い。白居易とともに『竹枝詞』

や『楊柳枝』

を作る等、前衛的、実験的なことに取り組む。字は夢得。監察御史、太子賓客。

※踏歌詞：民謡調の詩。これは其の三。　・踏歌：手を繋ぎ、両足で足踏みをしてリズムを取りながら歌う民間歌謡の一形式。其一は「春江月出大堤平，堤上女郞連袂行。唱盡新詞看不見，紅霞映樹鷓鴣鳴。」

。其二は「桃蹊柳陌好經過，燈下妝成月下歌。爲是襄王故宮地，至今猶自細腰多。」

。其三はこのページの詩。其四は「日暮江南聞竹枝，南人行樂北人悲。自從雪裏唱新曲，直到三春花盡時。」

。盛唐・李白に『贈汪倫』「李白乘舟將欲行，忽聞岸上踏歌聲。桃花潭水深千尺，不及汪倫送我情。」

とある。

※新詞宛転遞相伝：（流行の）新しい歌の滑らかで抑揚のある（声が）次第（しだい）に伝わってくる。　・新詞：新しい歌。　・宛転：〔ゑんてん；wan3zhuan3〕（歌声や鳴き声の）節回しがきれいである。さえずるようである。滑らかで抑揚がある。また、眉が美しく曲がるさま。顔かたちの美しいさま。白居易の『長恨歌』に「六軍不發無奈何，宛轉蛾眉馬前死。花鈿委地無人收，翠翹金雀玉掻頭。」

とある。　・遞：〔てい；di4●〕たがいに。かわるがわる。順々に。次々に。次第（しだい）に。　・相伝：伝わってくる、意。

※振袖傾鬟風露前：袖（そで）を振（ふ）り、（女性の）髷（まげ）のもとどりを傾けることになったのは、屋外のところであった。＊情交に至るまでのさまを詠う。　・振袖：袖（そで）を振（ふ）る、意。　・傾鬟：女性の髷（まげ）のもとどりを傾ける、意。　・鬟：〔くゎん；huan2○〕わげ。　・風露：風とつゆ。ここでは、屋外のこと。　・前：ところ、の意。

※月落烏啼雲雨散：（『楓橋夜泊』のように）月が落ち、烏が啼（な）いて（夜も更けて）、男女の情交（＝雲雨）も終えて。＊情交が終わった時のさまを詠う。　・月落烏啼：夜も更けたことを謂う。唐・張繼の『楓橋夜泊』に「月落烏啼霜滿天，江楓漁火對愁眠。姑蘇城外寒山寺，夜半鐘聲到客船。」

とある。　・雲雨：男女の情交。男女間の情愛を暗示して謂う。また、「無情」（＝無晴）の意。楚の襄王が高唐に遊び、夢で巫山の神女と契った時、神女は朝は巫山の雲となり夕べには雨になると言った故事に基づく。宋玉『高唐賦』によると、楚の襄王と宋玉が雲夢の台に遊び、高唐の観を望んだところ、雲気（雲というよりも濃い水蒸気のガスに近いもの）があったので、宋玉は「朝雲」と言った。襄王がそのわけを尋ねると、宋玉は「昔者先王嘗游高唐，怠而晝寢，夢見一婦人…去而辭曰：妾在巫山之陽，高丘之阻，旦爲朝雲，暮爲行雨，朝朝暮暮，陽臺之下。」（巫山の北に住んで、朝には朝雲となり、夕暮には雨となると称する女性に昼寝の夢の中で会い、契りを結んだ）という「巫山之夢」に基づく。因る。李白の『清平調』「一枝紅艷露凝香，雲雨巫山枉斷腸。借問漢宮誰得似，可憐飛燕倚新粧。」

や、同・李白の『襄陽歌』「此江若變作春酒，壘麹便築糟丘臺。千金駿馬換小妾，笑坐雕鞍歌落梅。車旁側挂一壺酒，鳳笙龍管行相催。咸陽市中歎黄犬，何如月下傾金罍。君不見晉朝羊公一片石，龜頭剥落生莓苔。涙亦不能爲之墮，心亦不能爲之哀。清風朗月不用一錢買，玉山自倒非人推。舒州杓，力士鐺。李白與爾同死生，襄王雲雨今安在，江水東流猿夜聲。」

や、劉希夷（劉廷芝）の『公子行』「天津橋下陽春水，天津橋上繁華子。馬聲廻合青雲外，人影搖動綠波裏。綠波蕩漾玉爲砂，青雲離披錦作霞。可憐楊柳傷心樹，可憐桃李斷腸花。此日遨遊邀美女，此時歌舞入娼家。娼家美女鬱金香，飛去飛來公子傍。的的珠簾白日映，娥娥玉顏紅粉妝。花際裴回雙?蝶，池邊顧歩兩鴛鴦。傾國傾城漢武帝，爲雲爲雨楚襄王。古來容光人所羨，況復今日遙相見。願作輕羅著細腰，願爲明鏡分嬌面。與君相向轉相親，與君雙棲共一身。願作貞松千歳古，誰論芳槿一朝新。百年同謝西山日，千秋萬古北邙塵。」

とある。また、「『雲雨』無晴」の意で、「『雲雨』は無情」のこと。中唐・劉禹錫の『竹枝』に「楊柳靑靑江水平，聞郞江上唱歌聲。東邊日出西邊雨，道是無晴却有晴。」

とある。　・散：ちる。ここでは、終える、意。

※遊童陌上拾花鈿：（翌日、）あぜ道で遊んでいた子供が、螺鈿の花かんざしを拾った。　・陌上：あぜ道で、の意。　・花鈿：くゎでん；hua1dian4○●〕螺鈿の花かんざし。或いは、婦人の頭の装飾品で、前額にはりつけるもの。なお、「鈿」は：〔てん（でん）；dian4●〕と〔てん（でん）；tian2○〕がある。現代（中国）語では前者〔てん（でん）；dian4●〕は「黄金をはめ込んだ花模様の装身具」（この意は詩意に合う）。後者〔てん（でん）；tian2○〕は「金銭」の意（平仄上ではこちらが合うが、詩意に沿わない）。ここでは韻脚となり、〔tian2○〕となるが、意味上では前者〔dian4●〕の「装身具」の意となる。如何。前出・白居易の『長恨歌』に「花鈿委地無人收，翠翹金雀玉掻頭。」