韓愈遊城南十六首晩春　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩　Han Yu

遊城南十六首　晩春
	中唐・韓愈

草樹知春不久歸，
百般紅紫鬥芳菲。
楊花楡莢無才思，
惟解漫天作雪飛。

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晩春

草樹(さうじゅ)は　　春の　久(ひさ)しからずして歸(かへ)るを　知り，
百般(ひゃっぱん)の紅紫(こうし )　　芳菲(はうひ )を鬥(たたか)はす。
楊花(やうくゎ)　楡莢( ゆけふ)は　　才思(さいし )　無く，
惟(た)だ解す　　漫天(まんてん)　雪と作(な)りて飛ぶことを。

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◎　私感註釈

※韓愈：中唐の文人、政治家。７６８年（大暦三年）～８２４年（長慶四年）。洛陽の西北西１００キロメートルの河陽（現・河南省孟県）の人。『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）４４－４５ページ「唐　都畿道　河南道」にある。字は退之。諡は文公。四六駢儷文を批判し、古文復興を倡えた。仏舎利が宮中に迎えられることに対して韓愈は、『論仏骨表』を帝（憲宗）に奉ったが、却って帝の逆鱗に触れ、潮州刺史に左遷された。唐宋八大家の一人。

※晩春：春の季節を三分した末の部分の季節。＊隋・無名氏の『送別』に「楊柳靑靑著地垂，楊花漫漫攪天飛。柳條折盡花飛盡，借問行人歸不歸。」とある。

※草樹知春不久帰：草木は、春がまもなく帰ってゆくことを分かっていて。　・不久：まもなく。ほどなく。すぐに。やがて。久（ひさ）しからずして。

※百般紅紫闘芳菲：さまざまな種類のいろいろな色の花が、芳（かぐ）しく咲き匂（にお）って艶を競い、（春の帰っていくのを見送って）いる。　・百般：いろいろ。さまざま。すべて。　・般：種類。　・紅紫：いろいろの花の色。　・芳菲：〔はうひ；fang1fei1○○〕花が芳（かぐ）しく匂（にお）う。また、よい匂いの花。ここは、前者の意。盛唐・杜甫の『落日』に「落日在簾鉤，溪邊春事幽。芳菲縁岸圃，樵爨倚灘舟。啅雀爭枝墜，飛蟲滿院遊。濁醪誰造汝，一酌散千憂。」とある。

※楊花楡莢無才思：（ただ、）柳絮とニレの実は、才気が無くて（不器用で）。　・楊花：柳絮。柳の白い綿毛のある種子。春になって柳の花が咲いた後、白い綿毛のある種子が散るさま。あてどもなく風に吹かれてさすらうさま。盛唐・杜甫の『麗人行』に「三月三日天氣新，長安水邊多麗人。態濃意遠淑且真，肌理細膩骨肉勻。繍羅衣裳照暮春，蹙金孔雀銀麒麟。頭上何所有，翠爲葉垂鬢脣。背後何所見，珠壓腰衱穩稱身。就中雲幕椒房親，賜名大國虢與秦。紫駝之峰出翠釜，水精之盤行素鱗。犀箸厭飫久未下，鸞刀縷切空紛綸。黄門飛鞚不動塵，御廚絡繹送八珍。簫管哀吟感鬼神，賓從雜遝實要津。後來鞍馬何逡巡，當軒下馬入錦茵。楊花雪落覆白蘋，靑鳥飛去銜紅巾。炙手可熱勢絶倫，慎莫近前丞相嗔。」とあり、中唐・李益の『汴河曲』に「汴水東流無限春，隋家宮闕已成塵。行人莫上長堤望，風起楊花愁殺人。」とあり、晩唐・鄭谷の『淮上與友人別』に「揚子江頭楊柳春，楊花愁殺渡江人。數聲風笛離亭晩，君向瀟湘我向秦。」とある。　・楡莢：〔ゆけふ；yu2jia2○●〕ノニレの実。ニレの種子のさや。また、円く小さく、漢代の銭に似ていることから＝楡銭。＝楡莢銭。　・才思：〔さいし；cai2si4○●〕才気と思想。「思」は名詞で●。韻を踏んではいない。ただ、現代（中国）語ではcai2si1と言うようだ。（「思」を（si4）ということはないということ）。

※惟解漫天作雪飛：ただ、天を覆（おお）うばかりの雪となって飛ぶことと理解している（ようだ）。　・惟：ただ（…のみ）。　・解：さとる。わかる。　・漫天：天一面に広がる。天にはびこる。天を覆（おお）う。　この「漫」：〔まん；man2○〕（ひろい。水の果てしなく広いこと。みなぎる。ひろがる。みだれる。ほしいまま≒慢）は両韻で〔まん；man4●〕（ひろい。水の果てしなく広いこと。みちる≒滿）もある。ただ、そうした場合、この詩句で孤平（「…天…」）が生じることになるが…。後漢／魏・蔡琰（文姫）の『胡笳十八拍』の十七に「拍兮心鼻酸，關山阻修兮行路難。去時懷土兮心無緒，來時別兒兮思漫漫。塞上黄蒿兮枝枯葉干，沙場白骨兮刀痕箭瘢。風霜凜凜兮春夏寒，人馬飢豗兮筋力單。豈知重得兮入長安，歎息欲絶兮涙闌干。」や、前出・岑參の『逢入京使』「故園東望路漫漫，雙袖龍鐘涙不乾。馬上相逢無紙筆，憑君傳語報平安。」や南宋・陳與義の『牡丹』「一自胡塵入漢關， 十年伊洛路漫漫。靑墩溪畔龍鐘客，獨立東風看牡丹。」など、これらの例は平声での「漫漫」の用例（『胡笳十八拍』は韻脚のため、韻の用い方から平韻と分かり、『逢入京使』は韻脚であることと、近体詩としての平仄の配列から分かる）。また、南宋・陸游の『小園』其三「村南村北鵓鴣聲，水刺新秧漫漫平。行遍天涯千萬里，却從鄰父學春耕」とあるのは、仄韻としての用例。（前三者は平韻の押韻で当該字は韻脚であり、○○とみるべきところ。後者は「●●○○●●○」とすべき句の●●のところで使われている）。蛇足になるが、現代語では「漫」は〔まん；man4●〕のみ。　・作：…となる。

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◎　構成について

韻式は、「ＡＡＡ」。韻脚は「帰菲飛」で、平水韻上平五微。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○●●○，（韻）
●○○●●○○。（韻）
○○○●○○●，
○●○○●●○。（韻）