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山中相送罷,
日暮掩柴扉。
春草明年綠,
王孫歸不歸。
送別
山中 相ひ送ること 罷(や)みて,
日暮 柴扉を 掩(と)づ。
春草 明年 綠なるも,
王孫 歸るや 歸らざるや。
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◎ 私感註釈
※王維:盛唐の詩人。701年(長安元年)?~761年(上元二年)。字は摩詰。太原祁県(現・山西省祁県東南)の人。進士となり、右拾遺…尚書右丞等を歴任。晩年は仏教に傾倒した。
※送別:別れて行く人を見送って、共に行くこと。見送ること。この作品の二十字だけの文字通りの解釈では、「(友人を)見送った後、日も暮れたので門を閉めた。来年の春になったら、貴君はここ(王維の居る川)に帰ってくるだろうか」になるが、それだと「王孫歸不歸」の用例に照らせば不自然になる。ここは「(流離(さすら)い旅を続けている友人を客として迎え、やがて)見送った後、日も暮れたので門を閉めた。来年の春になる頃、貴君は(奥さんの許)に帰って行くのだろうか」のように考えれば、後出の用例と合致する。『楚辞・招隠士』を意識しないのならば、「王孫歸不歸」は女性の言になろう。
※山中相送罷:山の中での見送りで、(相手が遠く行ってしまったので)見送ることをやめて(自宅へ戻り)。 ・山中:ここでは王維の別墅のある川の山中のことになる。 ・相送:送っていく。「相-」は動作が対象に及ぶときの表現。「…ていく。…てくる」。ここは「相互に」の意はない。
・罷:〔ひ(はい);ba4●〕やめる。中止する。
※日暮掩柴扉:日が暮れてきたので、柴で作った粗末なとびらを閉ざした。 ・日暮:日が暮れる。また、日暮れ。 ・掩:〔えん;yan3●〕とじる。遮り隠す。おおう。 ・柴扉:〔さいひ;chai2fei1○○〕柴で作った粗末なとびら。柴門。侘び住まい。隠者の住まいをいう。
※春草明年綠:春の草は、明年も緑になることだろうが。 *この聯は、王維の想像。 ・春草:春の草花。春季の到来を謂う。 ・明年:翌年。「年年」ともする。 ・綠:緑色に草木が繁茂する。緑色になる。動詞。
※王孫歸不歸:(その春の季節になる頃には)王孫は帰るのだろうか。 ・王孫:愛しい男性。本来は、貴人の子弟。王族の孫。貴公子。(女性の許を離れて旅立っている)男性を指す。ここでの「王孫」の使い方は、山中にいる男性で、作者自身を指しているようだ。詩詞で使われる王孫とは、女性の容色の衰え等のために、女性の許を離れて旅立っていった男性のことでもある。詩題や詞牌に『王孫歸』『憶王孫』
『王孫遊』(南齊・謝
)「綠草蔓如絲,雜樹紅英發。無論君不歸,君歸芳已歇。」
としてよく使われる。もと、貴人の子弟の意で、『楚辞・招隱士』「王孫遊兮不歸,春草生兮萋萋。歳暮兮不自聊,
蛄鳴兮啾啾。」を指す。そこでの王孫とは、隠士である楚の王族の屈原のこと。劉希夷『白頭吟』(代悲白頭翁)「公子王孫芳樹下,清歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍,將軍樓閣畫神仙。一朝臥病無人識,三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時,須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地,惟有黄昏鳥雀悲。」
や韋荘の『淸平樂』に「春愁南陌。故國音書隔。細雨霏霏梨花白。燕拂畫簾金額。 盡日相望王孫,塵滿衣上涙痕。誰向橋邊吹笛,駐馬西望消魂。」
がある。王維自身も『山居秋暝』で「空山新雨後,天氣晩來秋。明月松間照,清泉石上流。竹喧歸浣女,蓮動下漁舟。隨意春芳歇,王孫自可留。」
としている。「王孫自可留」(王孫(男性)とは、(帰って行かないで、この山中に)きっと留まって(秋になった風情を愉しんで)いることだろう。春からの麗しい草花が凋んでいっても、(秋の草木の魅力もあるので)王孫は見捨てることなく、ここに留まっていますよ。)秋の気配が訪れた山中から見ていると、「浣女」は「歸」し、「漁舟」は「下」する。更に、「春芳」も「歇」する。天下の黄昏である。しかしながら、「春芳」が「歇」しても、それでも「王孫」は帰ることなく「留」している。秋の夕暮れの情景を詠みながら、巧みに自分の気持ちをも表しているものである。 ・歸不歸:帰るのか。動詞の肯定形と否定形を〔A動詞+「不」A動詞〕というように重ねて用いて、疑問を表す。反覆疑問文。蛇足になるが、この語法は現代語にまで繋がっている。隋・無名氏の『送別』に「楊柳靑靑著地垂,楊花漫漫攪天飛。柳條折盡花飛盡,借問行人歸不歸。」
とある。 ・歸:(本来いるべきところ(自宅、故郷、墓所など)に)帰って行く。もどる。
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◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「扉歸」で、平水韻上平五微。次の平仄はこの作品のもの。
○○○●●,
●●●○○。(韻)
○●○○●,
○○○●○。(韻)
2005.9.25 9.26 9.27完 2017.3.21補 2018.8.16 |
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