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凱旋 |
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乃木希典 | ||
皇師百萬征強虜, 野戰攻城屍作山。 愧我何顏看父老, 凱歌今日幾人還。 |
皇師 百萬 強虜を征し,
野戰 攻城 屍 山を作す。
愧づ 我 何の顏ありてか 父老を看ん,
凱歌 今日 幾人か 還る。
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◎ 私感註釈
※乃木希典:軍人。長州藩出身。藩校明倫館に学び、戊辰戦争に参加、西南の役に従軍。明治十九年、渡独して軍制・戦術を研究し、帰国後陸軍の改革に着手。一時退役して半農生活を行うが、日清戦争に従軍。台湾総督を経て、日露戦争に第三軍司令官として、旅順を攻略、苦闘の末に陥落させ、戦勝に導いた。後、参議官、学習院院長を歴任。明治天皇大葬の日、静子夫人とともに殉死。嘉永二年(1849年)~大正元年(1912年)。明治・竹添井井の『雙殉行』に「戰雲壓城城欲壞,腹背受敵我軍敗。聯隊旗兮臣所掌,爲賊所奪臣罪大。旅順巨砲千雷轟,骨碎肉飛血雨腥。二萬子弟爲吾死,吾何面目見父兄。靑山馳道連朱闕,萬國衣冠儼成列。靈輿肅肅牛歩遲,金輪徐輾聲如咽。弔砲一響臣事終,刺腹絶喉何從容。旁有蛾眉端坐伏,白刃三刺繊手紅。遺書固封墨痕濕,責躬誡世情尤急。言言都自熱腸迸,鬼哭神恫天亦泣。嗚呼以身殉君臣節堅,舎生從夫婦道全。忠魂貞靈長不散,千秋萬古侍桃山。」とある。
※凱旋:戦勝して勝ち鬨(どき)をあげて帰る。戦勝して帰ってきて音楽を奏する。
※皇師百萬征強虜:皇軍の百万もの将士が、強い敵のやつらを征伐に行って。 ・皇師:天皇がひきいる軍隊。皇軍。 ・征:伐(う)つ。討ちに行く。 ・強虜:強い敵のやつら。手強(てごわ)い敵の義の貶めた表現。宋・蘇軾の『念奴嬌』に「大江東去,浪淘盡、千古風流人物。故壘西邊,人道是、三國周郞赤壁。亂石穿空,驚濤拍岸,卷起千堆雪。江山如畫,一時多少豪傑。 遙想公瑾當年,小喬初嫁了,雄姿英發。羽扇綸巾,談笑間、強虜(檣櫓)灰飛煙滅。故國神遊,多情應笑我,早生華髪。人間如夢,一樽還酹江月。とある。
※野戰攻城屍作山:山野での戦闘や攻城戦で、屍体が山のように堆(うずたか)く積もった。 ・野戰:山野での戦闘。 ・攻城:城や城郭都市を攻めること。攻城戦。 ・屍:〔し;shi1○〕しかばね。かばね。屍体。死体。 ・作山:山のように堆(うずたか)くなる。
※愧我何顏看父老:わたしは一体どのような顔で、(戦死させた兵士の)親御に会うのか、はじいってしまう。 *「愧我何顔看父老」の文型は「愧・〔我何顔〕+〔我何顔〕・看父老」といった連動文か。『史記・項羽本紀』に「於是項王乃欲東渡烏江。烏江亭長檥船待,謂項王曰:『江東雖小,地方千里,衆數十萬人,亦足王也。願大王急渡。今獨臣有船,漢軍至,無以渡。』項王笑曰:『天之亡我,我何渡爲!且籍與江東子弟八千人渡江而西,今無一人還,縦江東父兄憐而王(「王」字は動詞)我,我何面目見之?縦彼不言,籍(項籍=項羽のこと)獨不愧於心乎?』」
とある。明治初期・山崎泰輔は、その日記で『西鄕隆盛』「肥水豐山路已窮,墓田歸去覇圖空。半生功罪兩般跡,地底何顏對照公。」
と、西南の役での西郷を詠んだ。 ・愧:〔き;kui4●〕はじる。自分の見苦しいのを人に対してはずかしく思う。自動詞。 ・何顔:どのような面目があって。どこに面子(めんつ)があるのか。どの面下げて。 ・看:〔かん;kan1、kan4◎〕(手をかざして、主体的に)みる。みまう。訪問する。ここは本来、「見」とすべきところ(前出・赤字の項羽のことば)だが、平仄を意識してこうした。(「愧我何顔見父老」では「●●○○●●●」と仄三連になるのを避けるため。「見」〔けん;jian4、xian4●〕は「まみえる、おめにかかる」の意の「みる」)そのため、詩句の意味が変わってしまった。作者は「みる」と読んでいたことがよく分かる部分。「愧我何顔看父老」(愧づ 我何の顏ありてか父老を看ん)の部分が「愧我何顔見父老」であれば「愧づ 我何の顏ありてか父老に見ん」と読み下すのがその意から妥当と謂える。 ・父老:村の主立った年寄り。老人の敬称。『史記・項羽本紀』では「父兄」とする。前出・青字部分参照。「父老」は●●で、本来詩句中「●●」とすべきところで用い、「父兄」は●○で、本来詩句中「○○」とすべきところで用いる。
※凱歌今日幾人還:勝利を祝う歌声が響く今日、一体どれほどの人が(生きて)帰ってきたことだろうか。 *王翰の『涼州詞』「葡萄美酒夜光杯,欲飮琵琶馬上催。醉臥沙場君莫笑,古來征戰幾人回。」や、盛唐・李白の『關山月』「明月出天山,蒼茫雲海間。長風幾萬里,吹度玉門關。漢下白登道,胡窺青海灣。由來征戰地,不見有人還。戍客望邊色,思歸多苦顏。高樓當此夜,歎息未應閒。」
がある。 ・凱歌:〔がいか;kai3ge1●○〕勝利を祝う歌。 ・幾人:不明、不定の人数。何人。 ・還:かえる。行ったのが戻ってくる。
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◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「山還」で、平水韻上平十五刪。平仄はこの作品のもの。
○○●●○○●,
●●○○○●○。(韻)
●●○○◎●●,
●○○●●○○。(韻)
平成21.3.20 3.21 3.27 |
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