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江戸邸舎臥病 | ||
菅茶山 | ||
閑窓日對藥爐烟。 不那韶華病裡遷。 都門樂事春多少。 時見風箏泝半天。 |
閑窓 日ゞ 藥爐 の烟 に對す。
那 ぞ韶華 の病裡 に遷 らざる。
都門 の樂事 春多少 。
時に風箏 の半天 に泝 るを見る。
江戸邸舎臥病
閑窓日對藥爐烟 。
不那韶華病裡遷 。
都門樂事春多少 。
時見風箏泝半天 。
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◎ 私感註釈
※菅茶山:延享五年(1748年)~文政十年(1827年)。江戸時代後期の儒者。備後神辺(かんなべ)の人。私塾「黄葉夕陽村舎」(後の廉塾)(写真:真下)を開いて、 姓は菅波、名は晉師(ときのり)、字は礼卿、通称は太仲。号して茶山。備後の人。詩集に『黄葉夕陽村舎詩集』などがある。塾名や、詩集名は、菅茶山が好んで朝夕眺めていた山の名に因り、廉塾の南1キロメートルほどのところ
にある。
※江戸邸舎臥病:(福山からの旅の疲れのため)江戸藩邸で病に伏す。 *これは、森鴎外の著作『伊澤蘭軒』その二十四に載せられている絶句『江戸邸舎臥病』二首のその二。その一は「養痾邸舍未尋芳。聊買瓶花插臥床。遙想山陽春二月。手栽桃李滿園香。」
。この詩を知った伊澤蘭軒は、『春日郊行。途中菘菜花盛開。先是菅先生有養痾邸舍未尋芳之句、乃剪數莖奉贈、係以詩。』「桃李雖然一樣新。擔頭賣過市壥塵。贈君野莱花千朶。昨日携歸郊甸春。」
を作った(森鴎外『伊澤蘭軒』二十四
)。なお、上記黒字部分が掲載されていた詩と読み下し部分。本詩の読み下しもそれに倣う。森鴎外の著作『伊澤蘭軒』その二十四に拠ると、文化元年(1804年)正月に、菅茶山らが新藩主に因って江戸に召された。この際、江戸について微恙(=軽い病)のため阿部家の小川町の上屋敷に困臥し、紙鳶(たこ)の上がるのを眺めていたという旨が記されている。(蛇足になるが、「文化元年正月に」と鴎外の文には記されているが、正確に言うと、文化元年には正月は無い。文化元年は二月十一日から始まる。ここは享和三年の暮れから享和四年(1804年)の正月にかけてのこと。更なる蛇足になるが、鴎外の書には、次のようなこと「(印南は嘗て蘭軒に)「猪牙舟」の対を求められて、直に「蛇目傘」と答へた」と書かれている。日本語の対とは、なかなか面白いので、特に記した。) ・江戸邸舎:江戸藩邸。ここでは、阿部家の小川町の上屋敷のことになる。 ・臥病:病に伏す。病気で床に着く。
※閑窓日對薬爐烟:ひっそりとした静かな住まいで、日々薬を煎じる炉の湯気に向かい。 ・閑窓:もの静かな窓。ひっそりとした静かな住まい。 ・日對:日々…に向かう、と謂う意。 ・薬爐:薬を煎じる炉。清・王士禛の『悼亡詩』に「藥爐經卷送生涯,禪榻春風兩鬢華。一語寄君君聽取,不敎兒女衣蘆花。」とある。 ・烟:湯気。煙。杜牧の『題禪院』に「船一棹百分空,十歳青春不負公。今日鬢絲禪榻畔,茶煙輕落花風。」
とある。
※不那韶華病裡遷:どうして春の美しい景色が、病中に遷り行くのか。 ・不那:〔ふな;bu4na3●●〕どうして…か。なんぞ…ざる。二重否定。 ・韶華:〔せうくゎ;shao2hua2○○〕春の美しい景色。春ののどかな景色。転じて青春時代。ここは、前者の意。 ・病裡:病中に。 ・遷:うつる。
※都門楽事春多少:都には、楽しい事柄がどれほど多いことだろうか。 ・都門:都の入り口。都のなか。都。 ・楽事:楽しい事柄。愉快な事柄。 ・多少:多いこと。多いことと少ないこと。どれほど。ここは、前者の意。
※時見風箏泝半天:時々見える凧(たこ)が天のなかほどを上っている。 ・時見:時々見える、の意。 ・風箏:〔ふうそう;feng1zheng1(0)○○〕凧(たこ)。紙鳶(たこ)。 ・泝:〔そ;su4●〕(流れを)さかのぼる。もとにかえる。=溯。 ・半天:天のなかほど。なかぞら。中空。中天。また、天の半分。また、半日。ここは、前者の意。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「烟遷天」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
平成23.5.28 5.29 |
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