9)養老5年の銀銭候補並びに1コロ両のグラム換算値の検討
養老5年正月の銀銭の候補は(1)通説の6gの和同銀銭(2)参照:未見の大型和同銀銭(3)37.5gの銀餅の賈行銀銭になる。銅銭インフレ率が1倍でインフレがなかった前提で養老5年の銀銭の候補を検討する。
(1) 和同銀銭ならば和銅元年の両替は1銀銭25銅銭、銀1両100銅銭となる。これは銀1コロ両が和同銀銭4枚で銀銭を平均6gとして24gとなる。
(2)参照:度量衡の衡(重さ)で唐目単位の1両37.5g(和同銀銭6.25枚)が和銅元年ごろは施行されていたと仮定する、すると養老5年の銀銭は未見の大型和同銀銭(=9.375g)が発行されたとなる。和銅元年の両替は1銀銭16銅銭、銀1両は100銅銭である。
(3) 銀餅の賈行銀銭では和銅元年の両替は1銀銭4銅銭、銀1両は100銅銭である。すなわち銀1コロ両は150g(和同銀銭25枚)となる。
以上3候補銀銭を日本書紀の大宝令(702)以前の記述と大安寺資財帳の金・銀工芸品の重量記載文で検討する。なお金は銀と同一の重量単位であったと仮定する。
注:@=(1) A=(2) B=(3)の重さ数値は各候補銀銭でのグラム換算値である。なお大安寺資財帳の文より1両は4分、1斤は16両と確認できる。
【日本書紀】
・推古天皇13年(605) 高麗国が金300コロ両を献上許す。
@7.2kg A11.2kg B45kg ※いずれも許容範囲内。
・持統5年(691) 伊予国より白銀3斤8コロ両献上。
@ 1.3kg A2.1kg B8.4kg
※@Aは献上にしては少なく見栄えしない。
・持統5年(691) 音・書・医・呪禁博士に銀20コロ両与える、さらに持統6年(692)陰陽博士に銀20コロ両与える。
@約0.5kg A0.75kg B3kg ※@Aは異常に少ない。
【大安寺資財帳】注(外字):カン=金偏に完 香ロ=ロは外字で獣偏に廬
・カン(金属のわん)仏物218口 之中全金1口 重7両1分 銀15口 重合13斤3分
○銀のカンでは1個平均約13.9コロ両
@334g A525g B2.1kg ※@Aは異常に軽い。
○金のカンは1個で7コロ両1分
@74g A275g B約1.1kg
※@Aは異常に軽いBはどうにか範囲内。
・多羅(化粧箱) 仏物31口 之中銀3口 重合16斤15両
○銀の多羅では1個平均約90.3コロ両
@2.2kg A3.375kgB13.5kg ※化粧箱は大小あり判断しにくい。
・香杯(こうはい) 仏物36合 之中1合銀重1斤3両3分
○銀の香杯(著者推定:高坏【たかつき】のことか?)約19コロ両3分
@474g A740g B2.96kg ※@Aは少し軽いが香杯が判らず結論は出せず。
・香ロ(こうろ)仏物18具之中 1具銀重3斤10両2分
○銀の香ロは約58コロ両
@1.4kg A2.2kg B8.7kg ※@はすこし軽い。
・合子(蓋つきのわん)仏物27合 之中銀3合重合11両1分
○銀の合子は1合平均約3コロ両3分
@90g A141g B563g ※@Aは異常に軽い。Bはどうにか範囲内。
(正倉院に銅製佐波理の合子が現存するが、蓋がタワー飾りで重い工芸品と思料する)
・壷(つぼ) 合壷十三口 仏物九口 之中銀五口 重合四斤十三両三分 一口水精二口白銅 一口金塗 温室分物四口 之中二提壷
○銀の壷は1口平均約15.55コロ両
(注)正倉院南倉の現存する銀壷の底裏に「東大寺銀壷 重大五十五斤 甲 蓋實台惣重大七十四斤十二両 天平神護3年(767)二月四日」と刻印がある。この銀壷は胴径が約62cmで本体重さ55斤と刻字されている。これは大安寺の銀壷に比べ重さが約57倍と極端に重い。天平神護3年(767)は大安寺資財帳の政府提出時天平19年(747)より約20年後であり東大寺(正倉院)では唐目単位で計量したのが重量からも判る。従って正倉院南倉の銀壷は唐目55斤すなわち33kgである。重量は表面積に比例で大安寺の銀壷でそれぞれ候補銭での重量より胴径を求める。
@6.6cm【373g】A8.2cm【583g】B16.4cm【2.33kg】@Aとも異常に小さくて壷とは呼べない(小型の壷は提壷と区別されている)。Bはどうにか範囲内で、両寺の壷の重量値格差からも大安寺のコロ両は唐目単位より大分重いと思料できる。以上3候補から最適な重量単位を各工芸品の大きさ・重さを判断しながら選択すると、銀ではもっとも重いBの銀1コロ両=150gとなる。すなわち銀1コロ両(コロ目単位と名づける)は唐目単位の1両=37.5gの4倍である。さらに養老5年の銀銭は和同銀銭とする通説も危うくなった。
(図・正倉院:銅製佐波理の合子/正倉院南倉の銀壷)
「まとめ」コロ目単位は唐目単位の4倍の重量であった。
・和銅元年の銀銭両替:1和同銀銭は4和同銅銭と交換できる。
銀1両(コロ)は100銅銭と交換できる。
銀1両(コロ)は約150gであった。
・養老5年正月の銀銭:およそ37.5gの分厚い賈行銀銭である。
1賈行銀銭は25和同銅銭と交換できる。
同じく銀1両(コロ)は100銅銭と交換できるし、
銀1両(コロ)もまた約150gであった。
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