周恩来　雨中嵐山詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 zhouenlai

周恩来
  　　　　　　

    　雨中嵐山
　　                   周恩來

雨中二次遊嵐山，
兩岸蒼松，
夾着幾株櫻。
到盡處突見一山高，
流出泉水綠如許，
繞石照人。
瀟瀟雨，
霧濛濃，
一綫陽光穿雲出，
愈見嬌妍。

人間的萬象眞理，
愈求愈模糊，
模糊中偶然見着一點光明，
眞愈覺嬌妍。

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雨中の　嵐山　

雨中　二次　　嵐山に　遊ぶ，
兩岸の　蒼松は，
夾みゐたり　　幾株かの　櫻を。
到り盡くる處　　突（たちま）ち　一山の高きを　見，
泉水を　流出させ　綠（きよ）きこと　許（かく）の如く，
石を繞り　人を照らす。
瀟瀟たる　雨，
霧　濛濃たり，
一綫の　陽光　　雲を穿（うが）ち　出で，
愈（いよ）よ　嬌妍を　見（あらは）す。

人間（じんかん）の　萬象　眞理は，
愈よ　求むれど　　愈よ　模糊たり，
模糊たる中に　　偶然　一點の光明を見いだし，
眞に　愈よ　嬌妍たるを　覺ゆ。

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◎　私感註釈

※雨中嵐山：日本留学を終えた周恩来が、大正９年（１９１９年）４月５日、帰国の途次に嵐山に遊んだときのもの。なお、この詩碑は、日中平和友好条約の締結を紀年して、京都北郊にある嵐山の嵐山公園（亀山地区）内に建てられた。緑の中にある。碑面は廖承志の揮毫に由る。

※周恩来：（１８９８～１９７６年）中国建国以降の国務院総理。毛沢東をよく輔佐した。瑞金以降の毛沢東の古い同志である。詳しくは、『天安門革命詩抄写真集』　『天安門革命詩抄』を参照。

※雨中二次遊嵐山：雨中に、再度、嵐山を遊覧した。　・二次：再度。再び。

※兩岸蒼松：兩岸の蒼い松は。

※夾着幾株櫻：幾本かの櫻を：夾（はさ）んでいる。擬人法。　・着：〔現代語〕は、動詞の後に附き、継続、進行を表す。…ている。…つつある。ここでは、「挟まれている」「挟んでいる」。

※到盡處突見一山高：突き当たりの處に突然、一つの山が大きく、現れて。渡月橋を上った辺りの光景か。　・見：ここの「見」や後出「愈見嬌妍」中の「見」は、「現」の意で使われており、「見」の一般の発音である〔jian4〕よりも、「現」〔xian4〕と同様に（「見」を）〔xian4〕と読んだ方がよかろう。古語の読みではそうなる。

※流出泉水綠如許：（あたかもその山から）こんなにも澄んだ清い水が流れ出して。　・泉水：泉。湧き出る水。　・綠：おそらく「」の意味で使われていよう。（水が澄んで）清い。　・如許：こんなにも……だ。かくの如し。水清如許。水の清きこと　かくの如し〔現代語〕。保津川（桂川）の美しさをいう。

※繞石照人：（水の流れは）石を繞って、（水のきらめきは）人を照らす。

※瀟瀟雨：瀟々と静かに降る雨は。　・瀟瀟：雨が寂しく降るさま。

※霧濛濃：（雨が立ち込めて）霞んで、朦朧としてきたのが、濃くなってきた。

※一綫陽光穿雲出：一条の陽光が雲間から射し込み。　・穿雲：雲を穿って。南宋・陸游の『馬上作』に「平橋小陌雨初收，淡日穿雲翠靄浮。楊柳不遮春色斷，一枝紅杏出墻頭。」とある。

※愈見嬌妍：ますますあでやかさを現してきた。　・愈：いよいよ。ますます。　・見：現す。　・嬌妍：あでやかである。

※人間的萬象眞理：人の世のあらゆる事象や眞理は。　・人間：人の世。うきよ。じんかん。　・的：〔現代語〕…の…。文語の「之」に近い働きをする。　・萬象：森羅万象。あらゆる事象。

※愈求愈模糊：追求すればするほど、ぼんやりとしてくる。（人の世の真理を）追求すればするほど、分からなくなってくる。雨のために嵐山の景観が朧になってきたことと、自分の信念とをかけている。「愈…愈…」の文型。「愈A愈B」は、「Aをすればするほど　ますますBになる」。「…をすればするほど」「…をすればするほど　ますます」「一層」の意。　・模糊：ぼんやりとしている。

※模糊中偶然見着一點光明：ぼんやりとしたその中に、偶然に一つだけの光明を見いだした時。　・光明：景色を詠じている意味では、陽光であり、心象からは、輝かしいもの、希望、成功の見込み、という意味になる。

※眞愈覺嬌妍：ほんとうに、ますますあでやかに感じられる。　・眞：ほんとうに。　・覺：感じられる。思う。

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◎　構成について

形式不明。押韻不明。押韻していないのでは？或いは方言韻？？（この詩の押韻に関して、読者の方より次のような内容のメールを頂いた：「わたしは（周恩来の方言である）江蘇淮安方言を話し、理解できるが、この詩は方言での韻はふんでいない」旨の内容（２０１２年４月１４日））。　この作品の平仄は次の通り。
　　　
　　　●○●●○○○，
　　　●●○○，
　　　○●●○○，
　　　●●●●●●○○。
　　　○●○●●○●，
　　　●●●○。
　　　○○●，
　　　●○○，
　　　●●○○○○●，
　　　●●○●。

　　　○○●●●○●，
　　　●○●○○，
　　　○○○●○●●●●○○，
　　　○●●○●。
　　　