一九五八年十二月 |
人類今嫺上太空,
但悲不見五洲同。
愚公盡掃饕蚊日,
公祭毋忘告馬翁。
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人類 今や嫺(たく)みに 太空に上る
人類 今や嫺(たく)みに 太空に上る,
但だ 悲しむは 五洲の同(とも)になるに見(あ)はざることを。
愚公 饕蚊(たうぶん)を 掃き盡くすの日,
公祭 忘るる毋(なか)れ 馬(マルクス)翁に告ぐるを。
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◎ 私感註釈
※七絶 人類今嫺上太空: *この作品は陸游の「示兒」「死去元知萬事空,但悲不見九州同。王師北定中原日,家祭無忘告乃翁。」をもじったものであり、五年後に作る『滿江紅・和郭沫若同志』の習作でもある。この詩題は、おそらく編者が付けたものだろう。
※一九五八年十二月:人工衛星を、前年の1957年にソビエト連邦がスプートニク1号を打ち上げ、翌年(この詩が作られた1958年)にアメリカがエクスプローラー1号を打ち上げた。
※人類今嫺上太空:人類は今や、みごとに宇宙空間に飛び立った。前年にソ連が打ち上げた人工衛星のスプートニク1号等のことを指す。 ・嫺:巧みである。熟練している。 ・太空:(現代語)宇宙。宇宙空間。
※但悲不見五洲同:ただ、悲しいのは、世界が(共産主義の下に)統一されるのを(生きている中に)見ないことだ。陸游原詩の「但悲不見九州同」の「九州」を「五洲」に換えた。 ・但悲ただ、悲しい(のは、)の意。 ・不見:…に出会わない(ことだ)。…を見ない(ことだ)。 ・五洲:全世界。 ・同:統一される。
※愚公盡掃饕蚊日:(革命的な実行力を備えた現代の)愚公は、ケチな奴らを掃除し尽くした日には。革命勢力が反革命分子を一掃した曉には。世界革命が成就した日には。陸游原詩の「王師北定中原日」の「王師」を「愚公」に、「北定中原」を「盡掃饕蚊」に換える。 ・愚公:北山愚公のこと。『列子・湯問』に出てくる人物の名。毛澤東にもその故事に基づいた『愚公移山』という著作がある。そこでは毛澤東は、愚公を信念の人、決断の人、不屈の人と捉え、“…下定決心,不怕犠牲,排除萬難,去爭取勝利。”として持論を展開している。毛澤東にとって、彼の言に拠れば愚公とは、上帝(中国人民)を感動させる革命の隊伍(共産党の軍隊)のことである。ここでもその意味で使われている。 ・盡掃:掃き尽くす。前出『和郭沫若同志』の「要掃除一切害人蟲」の「要掃除」に当たる。 ・饕蚊:古代伝説の悪獣。貪欲な(人物)。毛澤東自身が「大陸上的饕蚊得差不多了,…港臺一帶饕蚊尚多,」と使っている。意味は『滿江紅・和郭沫若同志』に出てくる「蒼蠅」「蟻:」「蜉」に同じで、「つまらない小人物」の意。 ・饕:〔たう:tao1○〕古代伝説の悪獣。悪人。また、むさぼる。ここは、前者の意。
※公祭毋忘告馬翁:公祭では、マルクス翁に告げることを忘れるな。南宋・陸游の『示兒』「死去元知萬事空,但悲不見九州同。王師北定中原日,家祭無忘告乃翁。」中、「家祭無忘告乃翁」の「家祭」を「公祭」に、「無忘」を「毋忘」に、「告乃翁」を「告馬翁」にした。 ・公祭:(現代語)公葬。公共団体によって執り行われる告別式。 ・毋忘:忘れるな。忘るるなかれ。 ・毋:〔ぶ(む);wu2○〕…するな。…してはいけない。…なかれ禁止を表す。蛇足になるが、 「勿」は〔ぶつ(もち);wu4●〕で、 「莫」は〔ばく(まく);mo4●〕、 「無」(なかれ)は〔ぶ(む);wu2○〕。 ・馬翁:マルクス翁(馬克思翁)。共産主義の始祖というべき人物の名。中国語で“馬克思”(Ma3ke4si1;マアコスー)と記す。
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◎ 構成について:
七絶仄起。平韻一韻到底。韻式は「AAA」。韻脚は「空同翁」で、平水韻上平一東。次の平仄はこの作品のもの。
○●○○●●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○●●●○。(韻)
2002. 6. 8
6. 9完
2013. 3.23補
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