漁家傲
　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宋　陸游
寄仲高

東望山陰何處是？ 往來一万三千里。 寫得家書空滿紙！ 流�C涙， 書回已是明年事。 寄語紅橋橋下水， 扁舟何日尋兄弟？ 行遍天涯眞老矣！ 愁無寐， 鬢絲幾縷茶煙裏。

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　　　　　　　　　　　　漁家傲
　　　　　　　　　　仲高に寄す

東のかた山陰を　望めば　　何處（いづこ）か 是れなる？
往來　　一万三千里。
家書を　寫（か）き得て　　空しく　紙に滿つ！
�Cき涙を　流し，
書を回（かへ）すこと　已（すで）に是れ　　明年の事。


語（ことば）を寄す　紅橋　　橋下の水に，
扁舟　何日（いづれ）の日か　　兄弟を尋ねん？
天涯を　行くこと 遍ねく　　眞に　老い矣（たり）！
愁ひて　寐（ね）る無く，
鬢絲　幾（いく）縷（すぢ）か　　茶煙の裏（うち）。

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◎　私感訳註：

※漁家傲：詞牌の一。詳しくは「構成について」を参照。

※寄仲高：仲高に寄せる。仲高に出す。　・寄：離れている人に詩詞を送ること。　・仲高：人名。陸游の父方の従兄。陸昇之。仲高は字。

※東望山陰何處是：東の方、故郷の山陰をながめても、いづこそうであるのか、（よく分からない）。　・東望：東の方…をながめれば。　・山陰：地名。陸游の故郷。現・紹興。　・何處：どこであるか。いづこ。　・是：そうである。（ここでは）故郷である。

※往來一万三千里：往來は一万三千里。　・往來：行き来。行き来すること。　・一万三千里：必ずしも実数でない。遙かな距離。この数字部分は「●○○●」となるべきところであって、「一万三千里」は「

懸崖百丈冰，猶有花枝俏。　　　俏也不爭春，只把春來報。待到山花爛漫時，她在叢中笑。」と使う。　・明年事：（返事を出すことは）来年にしよう。

※寄語紅橋橋下水：ねえ、紅橋の橋の下を流れる川の水よ。
・寄語：ことばを寄せる。伝言する。詩詞で相手に対しての発話の表現をするときの手法。ねえ。　・紅橋：紹興付近の山陰県にある橋の名。　・橋下水：橋の下を流れる川の水。

※扁舟何日尋兄弟：小舟に乗って、いづれの日か兄弟を訪問するから。　・扁舟：小舟。　・何日：いづれの日。将来のいつか。
・尋兄弟：肉親、兄弟を訪問する。

※行遍天涯眞老矣：あちらこちら方々に行っている内にすっかり年をとってしまった。　・行遍：…に行くことがあまねく。　・天涯：天のはて。地のはて。　・眞老矣：本当に年をとってしまったの意。　・眞：ほんとうに。　・矣：…てしまった。完了、過去を表す語気助詞。

※愁無寐：愁いで眠れない。　・寐：〔び；mei4●〕ねる。ねむる。いぬ。

※鬢絲幾縷茶煙裏：今はもう、おとなしく茶でもすすりながら、余生を送っていること。耳のきわの（白くなりかけた）ほつれ毛が何本か茶を煮る湯気にあたっている。これは、晩唐・杜牧の『題禅院詩』の「觥船一棹百分空，十歳青春不負公。今日鬢絲禪榻畔，茶烟輕落花風。」からきており、「鬢絲茶烟之感」という言葉もできた。その意は、若い頃遊び耽った者が、老いて淡泊な余生を送ること。　・鬢絲：耳のきわの（白くなりかけた）髪の毛のほつれ。　・幾縷：数本。　・茶煙：茶をたくときの湯気。

◎　構成について

　　　双調。六十二字。仄韻一韻到底。上片と下片は同一。韻式は「ａａａaａ　ａaａａａ」。韻脚は「是里紙涙事　水弟矣寐裏」で、第三部上声四紙、去声四�ｩ。

　　　　●○○●●，（韻）
　　　　○●○○●。（韻）
　　　　●○○●●，（韻）
　　　　○●，（韻）
　　　　○●○○●。（韻）

　　　　●○○●●，（韻）
　　　　○●○○●。（韻）
　　　　●○○●●，（韻）
　　　　○●，（韻）
　　　　○●○○●。（韻）

２００２．４．２４完 ２０１４．４．１１補

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