漢詩黄海舟中日人索句
並見日俄戰爭地圖

萬里乘風去復來,
隻身東海挟春雷。
忍看圖畫顏色?
肯使江山付劫灰!
濁酒不銷憂國涙,
救時應仗出羣才。
將十萬頭顱血,
須把乾坤力挽回。

******


黄海舟中に日人 句を索め 並びに日俄戰爭地圖を見る
萬里 風に乘りて  去り 復(ま)た來り,
隻身
(せき) 東海に  春雷を挟む。
看るに忍ばんや 圖畫の  顏色
(がんしょく)を移せしを?
(あへ)て 江山をして  劫灰に 付せ使(し)めんや!
濁酒は 銷
(け)さず  憂國の涙を,
時を救ふに 應に仗
(たよ)るべし  出羣の才に。
十萬  頭顱の血を將
(も)って (なげうち)て,
(すべから)く 乾坤を  力(つと)めて挽回すべし。


           **********
◎私感注釈

※黄海舟中日人索句並見日俄戦争地図:黄海を通っての船旅の途次に、日本人に詩句を求められて、日露戦争の地図を見た。 *秋瑾は日本留学の一年後、一九〇五年の二月、一時帰国して、同年六月に再び渡日している。その再来日の時の作と見られる。 ・黄海舟中:黄海を通っての船旅の途次。 ・日人:日本人。 ・索句:詩句を求められる。 ・日俄:日露。 ・俄:「俄羅斯」〔オロシア;E2luo2si1○○○〕の「俄」で、日本語表記の「露西亜」(ロシア)の「露」に当たる。

※萬里乘風去復來:遥かな距離を風に乗るが如く勢いよく往復して。 ・萬里乘風:万里は厖大な距離をいう。乗風は風に乗るが如く勢いよく。『南史・列伝第二十七宗』に叔父の問いかけに答えて「願乘長風破萬里浪」と。また、蘇軾の『水調歌頭』に「我欲乘風歸去」というのもあり、秋瑾自身もよく使っている。 ・去復來:行き来する。去ってはまた来る。中国人だから、中国を基準にして去来を言っている。「去」は、日本に行くこと。「来」は、中国へ帰ってくること。ここでは、中国に再び帰って来た時のことを言う。年表から判断すると一九〇五年の六月のこと。

※隻身東海挟春雷:単身、日本で革命思想を身に付けた。 ・隻身:単身。 ・東海:日本を指す。 ・挟春雷:革命思想を携えながら。春雷は、春に鳴る雷で、ここでは、激しいこと、革命。挟は持つ。

※忍看圖畫移顏色:地図上の国の色の塗り分けを見るに忍びない。 ・忍看…:…を看るに忍ばんや。どうして看ることができようか。 ・圖畫:ここでは、地図をいう。「圖畫」では
○●になり、「地圖」では●○となる。詩のここではとなるべきところで、「圖畫」を使うべきところで、用字正格。 ・移:かわる。AのところからBのところへとうつること。地図では国毎に色分けしているが、ロシアによって中国北方の勢力は変わり、ロシアの色になっていることをいう。 ・顏色:(俗・現代語)いろ。色彩。国別に色を塗り分けた地図の色を指す。ここでは「かおいろ」の意味はない。 *ネルチンスク条約、キャフタ条約、琿条約、北京条約、伊犂条約、遼東半島割譲、旅順・大連租借…と大清帝国の版図が縮小していったことが、漢民族・満洲民族の壁を越えて、自国の衰頽と捉え、耐えられない感情をいう。

※肯使江山付劫灰:あえて祖国の山河を劫火(戦火)に付そう。 ・肯使:あえて…を…とすることができようか、(できない)。 ・江山:(祖国の)山河。ここでは、「祖国」「祖国の領土」の意味で使っている。 ・劫灰:戦火。劫灰は、仏教用語でもある。付劫灰は灰にしてしまう。戦火で灰燼に帰してしまうこと。

※濁酒不銷憂國涙:濁り酒では、憂国の思いの涙を消せない。 ・濁酒:濁り酒。 ・不銷:消さない。消せない。 ・憂國涙:憂国、愛国の思い。「憂國」は
○●で、「愛國」は●●になる。ここは○●とするところなので、「愛國」とはできない。

※救時應仗出羣才:(祖国を)乱世から救い出すのには、抜群の人材に頼らなければならない。 ・救時:(現代語)時世を弊害から救う。救国。「救時」では●○になり、「救國」では●●となる。詩のここではとなるべきところで、「救時」がふさわしく、用字正格。救國は使えない。 ・應:まさに…すべし。当然…しなければならない。…であるべきだ。 ・仗:(俗・現代語)たよる。頼む。 ・出羣:出羣抜萃。抜群である。頭抜けていること。 ・才:人材。ここは、杜甫「諸將」の「安危須仗出羣材」からきている。 ・將:は、顧みない。將は、語気のため、特に意味はない。後出の把と同じ意味にも取ってとれなれないこともないが、語勢上苦しい。

將十萬頭顱血:十万の救国のために流す犠牲の血をなげうって。 ・:なげうつ。 ・將:…をもって。 ・頭顱:頭。 ・頭顱血:救国のために流す血。死国、殉国の犠牲を言う。

※須把乾坤力挽回:すべからく天地を(自民族のもとに)挽回するように努めるべきである。 ・須:すべからく…べし。すべきである。する必要がある。 ・把:…を。後に続く名詞「乾坤」を処置する表現。文語の「將+名詞」の場合の「將」の用法に近い。「把」は
であり、この用法の「將」はで、ここはを使うべきところ。 ・乾坤:天地。ここでは祖国。祖国の天地。 ・力:つとめて。がんばって。 ・挽回:挽回する。奪回する。ロシア、イギリスなどの帝国主義勢力の手から領土を奪回する。





◎ 構成について
   七言律詩。平声一韻到底。 韻部は十灰韻。韻脚は、「來雷灰才回」になる。
この作品の平仄は以下の通りで、正確に作られている。


    ●●○○●●○,(韻)
   ●○○●●○○。(韻)
   ●○○●○○●,
   ●●○○●●●。(韻)
    ●●●○○●●,
   ●○○●●○○。(韻)
   ○○●●○○●,
   ●●○○●●○。(韻)
       

2001.2.13
     2.14
     2.15完
     4. 8補
2002.3.29
     8.16
2007.10.3
   

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