秋瑾漢詩 致徐小淑絶命詞


痛同胞之醉夢猶昏,
悲祖國之陸沈誰挽。
日暮窮途,
徒下新亭之涙;
殘山剩水,
誰招志士之魂?
不須三尺孤墳,
中國已無乾淨土;
好持一杯魯酒,
他年共唱擺崙歌。
雖死猶生,
犧牲盡我責任;
即此永別,
風潮取彼頭顱。


壯志猶虚,
雄心未渝,
中原回首腸堪斷!


******


徐小淑に 致す 絶命の詞 
痛む  同胞の醉夢  猶ほ昏(くら)く,
悲しむ  祖國の陸沈  誰か挽
(ひ)かん。
日 暮れて  窮
(きは)まれる途(みち)
(いたづ)らに下す  新亭の涙;
殘山 剩水,
誰か 志士の魂を 招かん。
三尺の孤墳を  須
(もち)ひず,
中國  已に 乾淨の土に 無し;
好持す  一杯の魯酒,
他年  共に唱はん  擺崙
(バイロン)の歌。
死すと 雖
(いへど)も  猶(な)ほ 生き,
犧牲 盡
(ことごと)く 我が責任;
即ち此に 永く別れ,
風潮 彼の頭顱を 取らん。


壯志  猶ほ 虚なれど,
雄心  未だ 渝
(かは)らず,
中原を回首すれば  腸 堪ぞ 斷たんや!


           **********
◎私感注釈

※致徐小淑絶命詞:徐小淑への最期のことば。 ・致:手紙などの宛名の前につける語。〜さんへ。 ・徐小淑:人名。秋瑾と彼女との間に詩文の往来があり、現存している。 ・絶命詞:最期のことば。1907年7月10日のもの。死の5日前のもの。ここでの“詞”は、本サイトで主として取り扱っている「填詞」のことではなく、「ことば」の意。この作品は辛棄疾の『水龍吟』「甲辰歳壽韓南澗尚書」「渡江天馬南來,幾人眞是經綸手。長安父老,
新亭風景,可憐依舊。夷甫諸人,~州沈陸,幾曾回首。」などの豪放詞の影響があろう。

※痛同胞之醉夢猶昏:漢民族同胞が醉夢に痴れており。・痛:心を痛める。・同胞之醉夢:漢民族同胞の醉夢。漢民族同胞が自覚していないさまをいう。・猶:なおもまだ。 ・昏:くらい。

※悲祖國之陸沈誰挽:祖国の没落の衰勢を誰が挽回してくれるのだろうか。 ・悲:・祖國:・陸沈:祖国の没落。豪放詞などではよく使われる表現。『晋書巻九十八・列伝第六十八・桓温』「(桓)温自江陵(江陵:地名)北伐,行經金城(金城:地名),見少爲琅邪(琅邪:地名)時所種柳皆已十,慨然曰:『木猶如此,人何以堪!』攀枝執條,然流涕。於是過淮泗,践北境,與諸僚属登平乖樓,眺矚中原,慨然曰:『遂使~州陸沈,百年丘墟,夷甫諸人不得不任其責』」とある。 ・挽:(劣勢を)挽回する。

※日暮窮途:前途多難である。成語「日 暮れて、道 遠し」“日暮途窮”からきている。

※徒下新亭之涙:・徒下:いたずらに(涙を)流す。 ・新亭:建康(現・南京)にある労労亭のこと。西晋が滅び、建業に東晋が興ったが、その後、日よりの良い日に北から南渡してきた亡命人士が新亭に集まって、山河を眺め、中原を偲んだという故事。『晋書巻六十五・列伝第三十五・王導』の「過江人士,毎至暇日,相要出
新亭飮宴。」に基づく句。 ・新亭之涙:新亭での亡国の嘆き。

※殘山剩水:残された祖国の山河。 ・殘山:残された祖国の山々。 ・剩水:残された祖国の川。前出『晋書列伝第王導』「相要出新亭飮宴」の後、「周中坐而歎曰:『風景不殊,舉目有江河之異。』皆相視流涕。」の山河のことでもあろう。

※誰招志士之魂:誰が志士の魂魄を招来させようか。ここは『楚辭』の「招魂」「帝告巫陽曰:『有人在下,我欲輔之。魂魄離散,汝筮予之!』」…とあり「魂兮歸來!」の繰り返される古代詩(辞)に基づく。秋瑾は自分の境涯を、放たれた忠臣屈原に擬し、この句を作ったようだ。これは蘇軾の『澄邁驛通潮閣二首』「餘生欲老海南村,帝遣巫陽招我魂に同じ。但し、『詩經』では、「招魂」の意は二通りあり、一は、楚の懷王の亡魂であり、一は、屈原が、自ら招くの意になる。 ・誰招:誰が(志士の魂魄を)招来させようか。

※不須三尺孤墳:墓に葬られなくともかまわない。志士は溝壑に身を葬ってもよい。戦闘の結果、敵に殺され、自分の屍体をドブにうち捨てられることがあっても、勤皇の志に則って、犠牲となり殉国の志士となる道を歩む。犠牲となることを恐れない、ということ。『孟子巻六・縢文公・下』「志士不忘在
溝壑,勇士不忘喪其元。(元:首、頭)」からきている。 ・不須:もちいず。…の必要がない。 ・三尺孤墳:小さな無縁墓。

※中國已無乾淨土:中国はとっくに金甌無缺という状態ではなくなった。・已無:とっくに…ない。もはや…ない。すでに…ない。 ・乾淨:清潔な。穢れない。 ・乾淨土:金甌無缺の国土。外国に侵されない国土。

※好持一杯魯酒:一杯の薄い酒を退けておいて。 ・好持:保存しておくべきだ。持ち続ける。 ・魯酒:薄い酒。

※他年共唱擺崙歌:いつか共にバイロンの歌を唱おう。 ・他年:後年。いつかは。 ・共唱:ともに歌う。 ・擺崙:〔Bai3lun2〕詩人の名。バイロン(Byron)。イギリスのロマン派詩人の代表者。

※雖死猶生:死ぬといっても、なおも生き続けるようなもので。

※犧牲盡我責任:(革命運動での)犧牲は、ことごとくわたしの責任である。

※即此永別:これで、永のお別れだ。 ・即此:これで。ここで。 ・永別:ながのお別れをする。

※風潮取彼頭顱:闘いは、あの頭を取ることだ。 ・風潮:騒動、衝突、紛争。・取:・彼:かの、あの。ここでは、滿洲人の。 ・頭顱:あたま。

※壯志猶虚:雄々しいこころざしは、なおいまだに(遂げられないので)うつろではあるが。 ・壯志:雄々しいこころざし。 ・猶:いまだに。 ・虚:実現していない。むなしいもの。

※雄心未渝:雄心:雄々しいこころざしはいまだに変わらない。 ・雄心:雄々しいこころざし。「壯志」に同じ。「雄心」は
○○で、「壯志」は●●になる。 ・渝:(感情が)かわる。

※中原回首腸堪斷:漢民族の故地である中原を振り返れば(異民族に荒らされ、)断腸の思いに、どうして堪えられようか。 ・中原:漢民族の故地。 ・回首:振り返る。 ・腸:はらわた。 ・堪斷:断腸の思いに、どうして堪えられようか。 ・堪:どうして堪えられようか。反問、反語。





◎ 構成について
    押韻は、ない。平仄は、次の通り。顧慮していない。

●○○○●●○○,
○●●○●○○●。
●●○○,
●●○○○●;
○○●●,
○○●●○○?
●○○●○●,
○●●○○●●;
●○●○●●,
○○●●●○○。
○●○○,
○○●●●●;
●●●●,
○○●●○○。


●●○○,
○○●○,
○○○●○○●!


2003. 8.30
      8.31

     


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