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銀燭秋光冷畫屏,
輕羅小扇捕流螢。
天階夜色涼如水,
臥看牽牛織女星。
秋夕
銀燭の 秋光 畫屏 冷え,
輕羅の 小扇に 流螢 捕ふ。
天階の 夜色 涼きこと 水の如く,
臥して看る 牽牛 織女星。
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◎ 私感註釈
※杜牧:晩唐の詩人、八○三年(貞元十九年)〜八五二年(大中六年)。字は牧之。京兆萬年(現・陝西省西安)の人。進士になった後、中書舍人となる。杜甫を「老杜」と呼び、杜牧を「小杜」ともいう。李商隠と共に味わい深い詩風で、歴史や風雅を詠ったことで有名である。前出の『玉階怨』 や『怨詩(怨歌行)』は、『玉台新詠』にある。
※秋夕:秋の宵。秋の夜。『七夕』ともする。秋の宵をやるせなく過ごす宮中(「天階」より分かる)の女性(「輕羅」で暗示し、謝の『玉階怨』 にもある「流螢」より分かる)の失寵(「輕羅小扇」で、班、の『怨詩(怨歌行)』を暗示している)の様子を詠う。同時に、作者自身が意を得られない鬱懐をも暗にいっている。
※銀燭秋光冷画屏:(精製された)白いロウソクで(照らし出された)秋の風光は、(秋の冷気や秋風で)絵が描かれている屏風を冷やして。 ・銀燭:白いロウソク。灯油を使った明かりではなく、精製された蝋によって作られた高価な明かり。 ・秋光:秋の景色。秋の風光。この詩は、七夕の情景を詠んでいるが、現代の暦とは異なり、七夕は暦の上では夏の最終の節会で、後数日で秋となる気候であり、そのような暦上の位置にある。後出の「夜色」に似た用語。 ・冷:ひやす。 ・畫屏:絵が描かれている屏風。
※軽羅小扇捕流蛍:薄絹を張った軽やかな小さいおうぎで、飛び交うホタルをつかまえた。晩夏、初秋の夜の無聊で孤独なさまをいう。白居易の『長恨歌』「夕殿螢飛思悄然,孤燈挑盡未成眠。遲遲鐘鼓初長夜,耿耿星河欲曙天。鴛鴦瓦冷霜華重,翡翠衾寒誰與共。悠悠生死別經年,魂魄不曾來入夢。」に玄宗の孤独な思いを飛び交うホタルを描写することで表している。 ・輕羅小扇:薄絹を張った軽やかなおうぎ。 『玉台新詠』にある漢の班、の『怨詩(怨歌行)』では、女性の身の哀しさを「扇になって、貴男のお側にいたい」と歌って、「新裂齊素, 皎潔如霜雪。 裁爲合歡扇, 團團似明月。 出入君懷袖, 動搖微風發。 常恐秋節至, 涼風奪炎熱。 棄捐篋笥中, 恩情中道絶。」 とある。 ・捕:つかまえる。とらえる。 ・流螢:飛び交うホタル。 『玉臺新詠』にある謝の『玉階怨』 に「夕殿下珠簾,流螢飛復息。長夜縫羅衣,思君此何極。」 とあり、この作品は、恐らく『玉階怨』を意識していよう。
※天階夜色涼如水:宮中や天上世界とのきざはしは、水のように涼しくて。 *天上界、月にある広寒宮は、寒いという。蘇軾の詞『水調歌頭』「明月幾時有?把酒問天。不知天上宮闕,今夕是何年。我欲乘風歸去,又恐瓊樓玉宇,高處不勝寒。起舞弄C影,何似在人間!」にある。 ・天階:宮中のきざはし。詩詞では、天上界と宮中とは、しばしば重ねて表現される。辛棄疾 蘇軾 秦觀にもその例がある。 ・夜色:夜の景色。夜景。夜の気配。 ・涼:すずしい。気候や人間関係をいう。 ・如水:水のようである。
※臥看牽牛織女星:横になって、一年に一度の今夜に出会っている牽牛星と織女星を眺めている。 *よそは、佳会を愉しんでいるのに、ここには誰もやってこない、その寂しさをいう。 ・臥看:(ベッドに)寝ころんで見る。後世、晩唐〜蜀・韋莊は『晏起』で「爾來中酒起常遲,臥看南山改舊詩。開戸日高春寂寂,數聲啼鳥上花枝。」と使う。 ・牽牛織女星:牽牛星と織女星。彦星と織り姫。七夕(たなばた)〔しちせき;qi1xi1〕の主役の星。一年に一度、この夜に出会える。
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◎ 構成について
仄起。一韻到底。韻式は、「AAA」。韻脚は「屏螢星」で、平水韻下平九青。次の平仄はこの作品のもの。
○●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2004.3.23完 2011.4.13補 |
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